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ご主人様とゆく異世界サバイバル!  作者: リュート
異世界の荒野でサバイバル!
46/435

第045話~1:21~

今日は間に合ったよ_(:3」∠)_(ドヤァァァ

「なぁ、シルフィ。聞いていいか?」

「うん? なんだ?」


 今日の労働を終えて、二人の時間を過ごして一戦終えた後。いつもなら一緒のベッドで後は寝るだけ、というところで俺はシルフィに話を聞くことにした。つまり、一歩踏み込むことにしたのだ。


「シルフィのことを聞かせてくれないか。過去のこと、メリナード王国が聖王国に属国化されてから、ダナン達が黒き森に来て、俺と出会うまでのことを」

「……そうだな。どこから話したものか。私が王家の仕来りで黒き森に来ていた、ということは話したな?」

「聞いたな。確か十歳になったら黒き森でエルフとしての生き方を学ぶとか、そんな感じの話だったよな」

「そうだ。その後間もなくだった、メリナード王国が聖王国に属国化されたのは。当時の私はまだ子供でな、世界の情勢だとか、そういったことに関しては疎かった。後から考えれば、きっと父上は私を黒の森に逃しておきたかったのだろうな」

「なるほど、考えられる話だな」


 一国の王ともなれば周辺国の情勢は熟知していただろう。遠からず、聖王国がメリナード王国に攻め入ってくるということも理解していたに違いない。それに備えて幼い末娘を遠くオミット大荒野の向こうにある黒き森に逃がす、なんてことをしてもおかしくはないな。


「今から約二十年前にメリナード王国は聖王国に属国化された。激しい戦いの末にメリナード王国は降伏し、多くの国民が犠牲になった。父上と母上は王家の人間の身柄を差し出す代わりに、国民の安堵を願ったそうだ」

「……なるほど」

「その約束が守られているのかというと、そんなことは無さそうだがな。大っぴらにはメリナード王国民が奴隷として他国に売り払われたりはしていないという話だったが、聖王国の属国となってから辺境にあったいくつもの村が滅びている。住民は魔物に殺されたということになっていたそうだが、どうだかな」

「信用できんね」


 黒だと断ずるに足る証拠はないけど、怪しいのは確かだな。


「三年前にダナン達がメリナード王国で反乱を起こした話もしたな?」

「ああ、聞いた」

「その頃、まだ私は黒き森にいた。その頃からちらほらと難民が黒き森に到着するようになっていてな、そんな難民達からメリナード王国の状況を聞くくらいしか当時の私に森の外のことを知る術は無かった。しかし、ある時逃れてきた難民からダナン達が反乱を起こしたことを聞かされた」

「うん」


 自らの褐色の肌を確かめるかのように、シルフィはベッドに身を横たえたまま自分の手の甲を見つめる。


「私は居ても立ってもいられなくなった。その頃の私は既に身体もエルフとして成人と呼べるほどには育っていたし、弓の腕も精霊魔法の腕もそれなりになっていた。精霊石を用いた事象崩壊の秘技も習得していた。私は長老達や、里のエルフの大人たちの反対を押し切り、持てるだけの精霊石を持ってオミット大荒野に飛び出した」

「鉄砲玉か」

「今思えば浅はかだったと思うがな。結局どうなったかというと、ダナン達の反乱は既に鎮圧されていて、オミット大荒野へと逃れてきたところだった。合流できたのは運が良かったな」

「広いもんな、ここ」

「うむ。ダナン達には聖王国の追手がかかっていた。私は精霊石を用いて追撃部隊を壊滅させ、聖王国の連中に黒き森の魔女と呼ばれるようになった。そして、ダナン達と共に黒き森へと戻った。私の肌と身体がこのようになったのは、聖王国の追撃部隊を憎しみと衝動のままに葬った時のことだ」

「え、まじで。一体どういうミラクルが起こってそうなんの?」


 憎しみと衝動のままに殺戮を行なった結果、闇落ちしてダークエルフっぽくなったってこと? なんだそれ。かっこいい。

 シルフィは苦笑いをしながら答えてくれた。


「エルフは他の人族に比べると非常に精霊に近い存在でな。感情の昂ぶりや魔力の使用具合、その時の周囲の状況、精霊の行使の目的、その他様々な要因が重なって身体を変質させてしまうことがある。あの時の私のように憎悪と憤怒を抱いて多くの人族を殺め、恐怖と怨嗟の感情をその身に受け続け、精霊を殺戮のために解き放ち、破壊の限りを尽くすと今の私のような肌になることがあるのだ。白かった肌はこのように黒くなり、身体は強靭に、精霊魔法も守りや癒やしよりも破壊に使った方が効果が高くなる」

「ふーん。つまり戦闘方面に特化して進化するわけだ。エルフってすげー不思議生物だな」

「コースケにそう言われるのは心外だ」


 シルフィが俺の鼻先をピンと弾く。確かに、不思議生物っぷりでは俺も負けてないかもしれない。


「私のようなエルフは闇に堕ちたエルフとかダークエルフ、フォールンエルフ、穢れ持ちなどと呼ばれる。争いの多かった時代には私のようなエルフも一定数いたようだが、最近は珍しいらしいな」

「へー、なるほどね。よくわかったよ。もしかして、ダナン達に姫殿下とか姫様とか呼ばれても居心地悪そうな感じなのは、今話してくれた内容が大きく関わってたりするか?」

「……国の一大事に安全な黒き森で安穏と過ごし、反乱には間に合わない。国ももう無くなったも同然だ。そんな私に姫殿下などと呼ばれる資格があるとは、な」


 どうしても思えない、とそう言ってシルフィは俺の手を自分の頬に導き、甘えるように擦りつけてきた。そんなシルフィの頬を彼女が求めるままに撫でてやる。


「この戦いは皆が求めたことである以上に、私の我儘なんだ。私は、私の我儘のために多くの人々の命を犠牲にしようとしている。私も地獄行きだな」

「地獄の果てまでお付き合いしますよ、ご主人様」

「それは心強いな……愛している、コースケ」


 返事の代わりに唇を交わし合い、お互いに笑みを浮かべる。夜はまだ始まったばかりだ。


 ☆★☆


 前線基地の設営を終えてから二週間が経った。

 前線基地の周囲にはウッドスパイク先生の敷き詰められた幅の広い空堀が掘られ、城門には跳ね橋が据え付けられた。戦となればこの跳ね橋を巻き上げ、防壁の上からクロスボウとバリスタの矢を雨あられと降らせる予定だ。

 地下にはいざという時の脱出路も作ってあるし、この砦を放棄する際に起動させる最終手段も準備済みである。アイラに相談して爆発物ブロックを遠くから安全確実に爆破する手段を確立したのだよ。ふははは。

 この前線基地にはエルフの里に避難していたメリナード王国民の約半数に上る一五〇人少々が配備されることとなった。その全てが健康で、戦闘に耐えられるだけの体力を持つ人々だ。元々戦闘技能を持っていた人と、エルフの里に避難してから訓練した人も含めた戦闘員のうち、実に八割以上の人員が最前線の拠点にいることになる。

 ちなみに男女比率は驚きの1:21である。一五四人中、男は俺を含めて七人のみだ。俺、ダナン、キュービ、レオナール卿、元衛兵の狼獣人ウォーグ、元冒険者の青鬼族インディ、錬金術師の猿人族サイクスだ。正直言って非常に肩身が狭いというか……。




「サイクスはあまり一人で出歩かないほうが良いのであるな」

「こ、怖かった……!」


 ここは最前線の拠点に設けられた男性専用ラウンジ――と言えばなんとなくお洒落に聞こえるが、要は男どものたまり場である。

 そのたまり場では危うく女子部屋に連れ込まれそうになった猿人族のサイクスが胸を抑えて冷や汗を流していた。まだ動悸が治まらないらしい。

 サイクスは俺よりもヒョロいからな……ちなみに猿人族というのはその名の通り猿の特徴を持った獣人で、普通の人間よりも腕が少し長く、器用に動く尻尾を持ち、少し毛深い。

 物腰柔らかで温和な性格の持ち主である。


「たまに俺でも身の危険を感じることがある」


 ウォーグが牙を剥きながら呟く。怖い顔だが、あれは一応苦笑しているらしい。


「これだけ色々な亜人が居ると、いつも誰か彼かは発情期だもんな」


 元冒険者の青鬼族であるインディも苦笑いを浮かべる。彼は所謂冒険者としての斥候、スカウト、あるいは盗賊とでも言ったほうが良いだろうか? 軍の斥候とはまた違ったスキルを持っているらしいが、俺は詳しくはわからない。肌が青くて、額から一本だけ角が生えている細マッチョだ。彼も俺の添え木で悪くしていた足と腕を治した一人である。

 性格は豪快というか大雑把? 冒険者らしい性格とでも言えば良いのだろうか。キュービやシュメルとは気が合うようで、よくつるんでいるのを見かける。


「生活も安定してきたし、連日の訓練で士気が上がった影響か……問題と言えば問題なのだが、今までのこととこれからのことを考えると強く言いづらいところもあるのだよな」


 同じ席に着いているダナンも苦笑いをする。ダナンやレオナール卿もサイクス達ほど露骨ではないにしろ、女性陣から色々とアプローチをされているらしい。


「……俺にはそういうのが無いんだけど?」

「お前は姫様のお手つきだしな」

「それだけじゃなくアイラとかメルティ、シュメルはわかんねぇけどゲルダとかピルナ達ハーピィもお前を狙ってるだろ。あの辺りが狙ってるのは皆わかってるから声かけるやつはいないと思うぞ」

「えっ、なにそれ初耳」

「鈍感かよ」


 キュービとインディの言葉に驚愕する。え? マジ? 俺アイラとかメルティとかゲルダとかピルナ達に狙われてるの? うせやろ? 考えてみれば確かにシルフィがいない時はその辺りの人が誰か一人は俺の傍にいるけど、そんな素振り全然ないぞ?


「その辺りは女性同士で色々と話し合っているのである。来るべき時が来たら腹をくくるのである」

「えぇ……というか、臣としては良いのか、俺とシルフィの関係は」

「コースケが居なければ我々が立ち行かないしな。伝説の稀人でもあるわけだし、問題はあるまい」

「黒き森の長老が稀人と認めたのであるから、身分だとかそういうのは何の問題も無いのであるな」

「マジかよ稀人すげぇな」


 稀人という立場は思ったよりも社会的地位のあるものであったらしい。王族との結婚も問題ないって言われるとかすごい。すごくない? でも、所謂でんせつのゆうしゃみたいな伝承があったりするらしいし、分相応と言えばそうなのかね?


「とにかく、男不足が深刻なのである。早いところメリナード王国に潜入して、男を連れてこないとサイクスの貞操がピンチなのである」

「いっそ受け容れたら?」

「それにしたって絶対数が足りんな。それに、そうなるとコースケもアイラ達全員を受け容れろという話になるぞ」

「俺はシルフィだけでいいんだけどなぁ」

「一途なのはそれはそれで評価するのであるが、自分に見合うだけの女性を受け容れるのも男の度量というものである」

「そういうレオナール卿はどうなので?」

「……吾輩は亡き妻に心を捧げているのである」

「ダブルスタンダードは良くないと思いますよ」

「むぅ」


 ウォーグとサイクスに突っ込まれてレオナール卿は黙ってしまった。

 うーん、ハーレムねぇ? 男としては憧れないと言えば嘘になるけど、今の所興味はないなぁ。俺はシルフィだけで十分というか、シルフィだけで身に余るというものだよ。


「ところでコースケ、例の地下シェルターとやらの設営はどうなっているのであるか?」

「強引な話題転換だな……まぁいいけど。設営の方は順調というか、終わったぞ。一回作ってしまえば次からは材料さえあれば一瞬で設営できるからな」

「相変わらず便利な能力ですよね。それじゃあ、いよいよですか」

「うむ、既に人員の選抜は始めている。近日中に作戦の開始を告知することになるだろう」

「まずは辺境の村を巡り、国民を解放し、拠点に保護する、ということでしたよね」

「物資の搬入も終わってる。食料と水と矢玉だな」

「食料ってアレか? ブロッククッキー」

「アレだ」

「アレ美味いよな」


 ブロッククッキーというのは俺がクラフト能力で作り出したブロックタイプの栄養食である。親指くらいの太さのクッキーのようなもので、中にドライフルーツや蜜、ナッツ類や油などを練り込んで焼き上げてある。齧ればホロリと崩れる食感が売りの一品だ。

 え? どこかで聞いたことがある? なんとかめいと? 知らんな。これはショートブレッドというお菓子を元に作った高機能栄養食品ですよ、ははは。

 ちなみにブロッククッキーの材料は全て本拠点で栽培されたものだ。前線基地にもある程度の畑は作ってるけど、これは前線基地での消費と備蓄用である。とはいえ、今後メリナード王国民を解放してここまで連れてきた際には一定期間ここで保護もすることになるのだろうから、備蓄というのは戦に備えるだけでなく、そういった解放民の力を取り戻すためのものでもある。


「コースケ、いる?」


 話の途切れたタイミングで鈴を転がすような声とともにひょいと戸口からアイラが顔を覗かせた。さっきのキュービとインディの話によると、このアイラも俺を狙っているのだというが……。


「コースケ?」

「いや、なんでもない。どうした?」

「魔動石機関の設計ができた。今度は自信作」

「ほう、それは心が躍るな。問題はそれがちゃんと登録されるかどうかだが」

「今度は大丈夫。来て」

「わかった。それじゃあ行ってくる」


 それぞれに返事をして男性陣が俺を送り出してくれる。そんな俺の服の裾を掴み、アイラは俺を彼女の研究室へと向かって引っ張り始めた。そんな引っ張らなくてもついていくんですけど。もしやこれがキュービ達の言っていた狙ってるムーブなのだろうか。

 首を傾げながら歩いていると、振り返ったアイラもまた首を傾げる。


「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」


 あまり気にしても仕方がない。なるようになるだろうし、女性同士で話し合うとか言ってたしいきなりどうこうということもないだろう。まずはあまり気にせず今の居心地の良い関係を満喫しておくとしよう。うん。

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[気になる点] この章では、シルフィがエルフの体質について説明しました。エルフが大規模なコミュニティからの見方に影響されている場合、これは、聖なる王国が奴隷にされたエルフをそれほど迅速に妊娠させること…
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