第043話~本拠点建築~
遅刻しました。
ゆるしてください! なんでもはしませんけど!_(:3」∠)_
「これは酷い」
守護者のゴーレムを作った古代の魔道士の苦労を偲んでのものか、それとも職務を果たすこともできず俺のつるはしによってバラバラに解体されたゴーレムを哀れんでか、アイラが黙祷を捧げるかのように目を瞑って溜息をつく。
俺が行なったゴーレム対策は実にシンプルだ。まず天井からゴーレムの頭を石壁ブロックで埋めてセンサーを殺した。次に手足を石壁ブロックと強固なコンクリートブロックで固め、身動きをできなくした上で足と腕をつるはしで解体。手足をもいだらあとはずっと俺のターンである。ものの三十分もしないうちに二体の大理石ゴーレムは資材になった。
ゴーレムのコアは胸の中心、心臓のあたりに埋め込まれていた。アイラによると、多数の魔石を精製した魔晶石をという素材を更に加工した魔動石というものでできていて、強力な魔力源になるのだそうだ。何かに使えるかもしれないからとっておくことにする。
「なんというかこう、アンタのやり方はヒリつくようなアレコレってのがないよねェ」
「山も谷も均してフラットにするのがクラフターでありサバイバーである俺の戦い方なんだよ」
あらゆる手段を使って安全かつ確実にやるのが真のサバイバーだ。ギリギリのスリルとかそんなものはリスク以外の何物でもないんだよ。
「まぁ、コースケの戦い方はなんというか……正面切っての戦いとかそういうものではないな」
「俺は良いと思いますけどね。怪我もせずに確実に殺れるならそれにこしたこたぁないでしょう」
「手間を掛けてでも確実に成果を得る。コースケの戦い方は戦士というよりは魔道士や暗殺者に近い」
確かに、俺の戦い方は戦士って感じじゃないよね。アイラの言う通りどっちかと言うと魔法使い寄りだとは思う。自分が圧倒的に有利な状況を作って一方的に殴るのだ。ハメ技上等、汚いは褒め言葉である。
兎にも角にも、目標の結界装置を制圧した俺達は地下施設全体も制圧し、様々な戦利品を得た。やはりこの地下施設はオミット王国の王城の地下構造物であったらしく、それらしき資料が戦利品の中にポツポツと見つかった。朽ち果てた遺体なども何体か見つかったが、身につけていたものから察するに王族とかではないようだった。
「流石に王宮の地下ってだけあって金目のものっぽいもんはあるなァ」
「問題は、俺達が金目のものを持ってても何の役にも立たないってことでさぁね」
「違いないねェ。高価な美術品なんて何の役にも立ちゃしないよねェ。エルフに重宝される分、宝石のついた装飾品なんかはまだいいけどさァ」
「武器も大半は朽ちていたしな。まぁ、コースケなら修復するなり鋳潰すなり利用はできるんだろうが」
「書物に関しては読んでみないとわからない。けど、三百年以上前となると役に立つものがあるかは怪しい。資料としての価値はあると思う」
地上に戻ったら一人残されていたピルナに満面の笑みで出迎えられた。まぁなんだ、これでとりあえず安全地帯と本拠点の設置場所を確保できたわけだ。
設置場所を確保したら何が始まると思う? 地獄のように地味な本拠点の建築が始まるんだ……。
☆★☆
さて、本拠点の設置なのだが……ひたすら地味な作業の繰り返しである。俺は朝起きると共に寝てる間に作っておいた建築ブロックを改良型作業台から回収し、そして黙々と道を作る。ズビャビャーっと。何をしているのかと言うと、つまるところ区割りというやつである。
折角いちから街を、都市を作るのだ。機能的、かつ効率的、そして拡張もしやすいようなものにすべきである。より細かい区割りはメルティやそう言った都市設計の知識のある人、大工さんや左官屋さん、各職人や元商人などの意見を取り入れて行なう。俺がやっているのは大雑把で、ざっくりとした部分だけだ。だけなのだが。
「この町広い。広くない?」
「そうだな、広いな。メルティの計画では、第一次計画の時点で収容人数三〇〇〇人を目指すらしいぞ?」
「三〇〇〇人」
俺、思わず白眼を剥く。三〇〇〇人といえばエルフの里にいる住人の十倍の数である。第一拠点は約三百人を収容できるようになっていたわけだが、あれの十倍の大きさか……。
「ちなみに、宿舎に関しては一棟、というか一室一家族四人から五人程度が入れるものを大量に作る予定だ。つまり、一室で十六人が眠るような兵舎のようなものでなく、一般的な家族の済む家屋を作るということだな」
「マジで?」
「マジだ。設計図も預かっている」
「Oh……」
設計図を見てみると、一室一室はさして広くない。寝室が二つ、物置……いや、食料保管庫だろうか? が、一つ。それにリビングダイニングくらいしかない。質素な家だ。この構成を基本として欲しいということのようである。
「コースケが第一拠点に作ったあの宿舎のようにいくつかその部屋の構成を繋げた住宅にすればどうか、ということだったな」
「つまり、アパートか」
これは骨が折れそうだ。左右対称モードを使えば二部屋ずつ作れるけど、これを一体いくつ作るんだ? 気が遠くなるな。
とはいえ、嘆いてばかりもいられない。アイラは地下に籠もって例の結界装置の保守を頑張っているし、キュービやシュメル、ピルナの三人は周辺の探索を頑張ってくれている。俺も頑張らないといけないだろう。
そういうわけで、俺は頑張った。とても頑張った。来る日も来る日も土を掘り、道を作り、家を作り、また土を掘り、壁を作った。そんな中で俺の癒やしになってくれるのはシルフィである。毎日朝から晩まで建築ブロックをクラフトし、配置し、土を掘って頑張る俺を毎晩労ってくれた。
ときに優しく、ときに厳しく。
「シルフィママー……」
「私はママではない」
思わず幼児退行してしまうのも仕方ないと思う。毎日毎日穴掘りと単純作業の日々だ。俺以外の面子はというと、結界装置の保守を終えたアイラは土魔法で俺の工事を手伝ってくれたり、築いた防壁に何かを細工をしたりしていた。なんでも、魔法に対する抵抗を高めるものらしい。俺には理論がよくわからなかったが、地脈の魔力をどうとか、結界装置をどうとか言っていた。
キュービとシュメル、ピルナの三人は俺達三人を置いて後方に戻っていった。進捗の報告と、前線に人員を連れてくるための連絡員としてだ。魔物除けの結界のおかげでこの辺りにはギズマは現れないし、自分達はやることがないからと言っていた。
「メルティは連れてくるなよ? 絶対にやめろよ?」
「ははは……それじゃあなっ!」
「おいっ、返事をしろコラァ!」
三人はダッシュで去っていった。アカン、絶対これメルティを連れて戻ってくるやつや。仕事が追加されるのは確定的に明らかである。
「シルフィ」
「どうした?」
「二人で逃げよう」
「何を言っているんだお前は……」
ペシッと頭を叩かれた。でも、顔を赤くしてまんざらでもない顔だった。かわいい。
三人きりになったので、夜をどう過ごすかを考える必要が出てきた。流石にアイラを一人放置して二人でイチャイチャするというのもどうだろうか、という話である。そういうことで、シルフィに相談してみた。
「コースケ」
「ん?」
「私一人では不満なのか……?」
「何の話!?」
シルフィに盛大に勘違いされた。違うから、そういう意味じゃないから。どうせ一週間かそこらでまた人が増えるだろうから、それまでシルフィとアイラの二人で寝たらどう? って話だから。女の子一人でこの広いゴーストタウンみたいなとこで寝るのは怖いでしょ?
俺は必死に弁明した。アイラは確かに可愛いと思うが、そういう話ではない。俺はシルフィだけで十分である。十分どころか身に余る光栄というかとにかくそういう感じである。伝われ、俺の思い!
「そ、そうか……」
俺の必死の説得が功を奏したのか、誤解は解けたようでよかったよかった。この説得が原因かどうかはわからないが、俺に対するシルフィのサービスというかデレ度が上昇した気がする。
「……むぅ」
その反面、何故かアイラの機嫌が悪くなった。何故だ。
とはいえ、やはり一人っきりで寝るのはアイラも怖かったらしく、シルフィと一緒に寝るという提案には二つ返事で頷いてくれた。結界装置がある以上、ギズマもアンデッドも発生し得ないというのはわかっているが、それでも夜の闇と孤独、静寂は人の心に恐怖を与えるものだ。
俺? 確かに別の部屋で寝てるけど、一緒の建物だからな。なんともないぜ。たいまつで沸き潰しもしてあるしね。効果があるかわからんけど。
そうしてさらに五日が過ぎる。俺の作業はまだまだ終わりが見えない。そんな中、昼過ぎに多くの人員が本拠点建設予定地にやってきた。メルティをはじめとしてダナンやレオナール卿、ザミル女史などの主要メンバーと、一〇〇人ほどのメリナード王国民だ。キュービとシュメルの姿はない。
「いやぁ、ここは実に広い土地ですね! 区割りも概ね終わっているようですし。ところで、これが更に詳しい計画書なんですが……コースケさん? どこに行くんですか? 逃すな! 捕まえろ!」
「ヤメロ! ヤメロォォォォ!」
ダッシュで逃げようとしたらレオナール卿とザミル女史に捕まえられた。あんたらはええよ!
「すまぬ、コースケ殿」
「これも力あるものの務めなのである」
「イヤダー! シニタクナーイ!」
「人聞きの悪い事を言わないでください。そんなことしません」
ニッコリと笑うメルティ。その巻角、羊だと思ってたけどオメーさては悪魔系の亜人だな? そうだろ、俺は騙されんぞ!
「コースケさん、どうやら毎日のお仕事でお疲れのご様子ですね。大丈夫です、何も急ぐことはないんですから。毎日の実働時間は八時間きっかり、定時上がり厳守、週休二日はお約束しますよ。ほら、怖くないでしょう?」
「本当に?」
「本当です! 私が嘘を吐いたことなんて今までありましたか?」
メルティが真面目な顔で俺の目をじっと見つめてくる。そう言われれば、そうだな。確かにメルティに嘘を吐かれたことはない。無茶ぶりはされたけど、さほど理不尽な目には……遭ってないとは言えないが、笑えないレベルのものではなかったはずだ。
「……わかった。報酬はなにかあるんだよな?」
「勿論です。姫殿下がコースケさんをタダ働きさせるような人に見えますか?」
話を振られたシルフィはメルティの言葉に至極真面目な表情で頷いた。何故メルティの頼みを聞いてシルフィが? とも思ったが、結局の所メルティの頼みというのも元はと言えばシルフィの野望を達成するためのものだ。
そう考えれば、仕事を割り振るのはメルティでも報酬を俺に支払うのはシルフィということなのか。なるほど。確かにメルティの私腹を肥やすような仕事ではないものな。これ。
「今のところはコースケに頼りっぱなしだがな……勿論、私にできることならなんでもするし、私が与えられるものならなんでも与えよう。それ以上のものをコースケには既にもらっているからな」
「ん? 今なんでもするって言った?」
「えっ」
「言ったよな?」
「言いましたね。働く者を評価し、正当な褒美を与えるその姿勢は流石は我らの姫殿下ですね」
「そっかー、なんでもしてくれるのかー。何をしてもらおうかなー?」
シルフィがなんでもしてくれるとか夢が広がるなぁ。フィヒヒ……!
「ふふ……まぁ。良いだろう。メルティ、覚悟はできてのことだな?」
「勿論ですとも。私は姫殿下の忠実な臣です」
嵌められたことに気づいたシルフィに凄まれてもメルティは全く動じる様子がない。実は今いる面子で一番やべーのはこの巻角お姉さんなんじゃなかろうか。
「なぁ、大丈夫なのか? あれは。臣として」
小声でダナンに聞くと、ダナンは苦笑いを浮かべた。
「臣としては及第点以下だな。だが、メルティと姫殿下は幼馴染なのだ。メルティの母が姫殿下の乳母でな。乳兄弟というか、乳姉妹というか……たまにああやってじゃれ合う」
「へぇ、そんな関係だったのか。シルフィは昔のことをあまり話してくれないんだよな」
「……姫殿下にも色々あるのだ。支えてやってくれ」
「勿論だ」
俺は何があってもシルフィの隣に立ち続けるつもりだからな。改めて言われるまでもない




