第432話~ある日のハーピィタワー~
お待たせしました( ˘ω˘ )
新生メリナード王国は復興を果たした。全土を一時聖王国の支配下に置かれ、王族も虜囚となり、実質的に一度滅びた王国がこうしてかつての栄光を取り戻し、それ以上の躍進を行った例は他にはないらしい。それもこれも俺が関わったのが原因であろう。俺の能力は集団や国家を支援するのにあまりに有用であった。有用であり過ぎたと言っても良いかもしれない。
通常では考えられない速度で食料を供給し、一夜で軍事拠点を築き、価値の高い鉱石や宝石をそこらの岩から無尽蔵に採取し、それらを使って強力な武具を同じく無尽蔵に作り出す上、万の軍を蹴散らすゴーレム兵団をこれまた無尽蔵にどこからともなく出現させる。戦略シミュレーションゲームだと内政から軍事面まで完璧なチートユニットみたいな存在だろう。
弱点は暗殺に弱いくらいだろうか。いや、言うほど弱くないかもしれないが。
「ぱぱー」
「ちちうえー」
「はいはい」
今日も今日とてハーピィタワーで突撃してくるハーピィちゃん達と戯れる。この中には俺が父親じゃない子供達が含まれているのだが、基本的にこのハーピィタワーに住んでいるハーピィ達は全員が一つのファミリーだ。ハーピィ達のハーレムやコロニーを起点とした独自の文化は長年付き合って居る俺でも未だに理解しきれないことが多いが、別け隔てなく全員がファミリーなのだという重要な部分を押さえておきさえすれば良い。
彼女達と付き合うには既存の貞操観念というか倫理観というか常識というか、そういうものを一回投げ捨てた方が色々と楽なのだ。
「大旦那様、しばらくはメリネスブルグに?」
「いや、ちょっと皆の顔を見に寄っただけだから。あっちはあっちでなかなかに忙しくてね」
「そうなのですか……夜はどうされますか?」
「うーん、悪いが今回はパスだな。また近いうちに来るから、その時にな」
「残念です」
本当に残念そうな顔で子守りをしていたハーピィさんがしょぼんとする。今やこのハーピィタワーに住んでいるハーピィさんも年長者は第六世代だ。俺の血が薄まってきたからか、結構ストレートにアタックしてくる。お相手したいのは山々だが、俺も忙しいしシルフィが向こうで待ってるからなぁ。
「最近のメリナード王国はどうだ?」
「そうですね……いつも通りです。大旦那様の作った農場や開拓村では豊作が続いていて、魔道炉や集魔塔から供給される魔力で人々は快適に暮らしています。政治的にも安定していますし」
「長命種が政権を担っていると政治は安定するよな」
今、メリナード王国の政権を運営しているのは俺とシルフィの息子であるイクスだ。本人はもう引退したいとぶちぶち言っているが、流石にまだ十五になったばかりのセリスに跡を継がせるのは早すぎるだろうなぁ。この後王城に行くつもりだが、またぞろ父上と母上達はズルいと駄々をこねられそうだ。
「隣国との問題なんかは起こっていないか?」
「今のところは。東方の状態も安定してきましたし、帝国とは今でも親密な関係ですから。ただ、ティグリス王国で去年に続いて今年も不作だということで、陛下達が対策を講じるという話ですね」
「ティグリス王国なぁ。ディハルト公国との合併時は色々あったなぁ」
かつて聖王国の圧力によってメリナード王国と戦争状態になり、ほぼ俺一人の手によって叩き潰された北方二国は紆余曲折の末にディハルト公国がティグリス王国に吸収される形で一つの国になった。聖王国元主流派の亡霊の暗躍とか、うちにお勉強に来ていた両国王族子弟同士の甘酸っぱい話とか色々あってな……ああ、あれは面倒だったよ。本当に。
ちなみに、聖王国はその国土を大きく減らしつつもまだ存続している。かつての強大な力は今はもう無いが、メリナード王国とヴァリャーグ帝国に挟まれた緩衝地帯のような国になっている。
暮らし向きは俺達と争っていた当時と比べればかなり慎ましくなったそうだが、彼らは原典の教えに立ち返り、今は人間と亜人の融和を是とする教えを広めている。その結果、メリナード王国としてもヴァリャーグ帝国としても敵対する理由が無くなり、今ではそこそこに良い関係を築けているのだ。
まぁ、そこに至るまでには聖王国の内戦やら離反した領主やら聖職者やらが起こすいざこざやら、難民問題やらとんでもない面倒事があったわけだが、今となってはそれも良い思い出……いや良い思い出ではねぇな。本当に大変だったよ。内政に力を入れたいのに次々と問題を剛速球で投げてよこしてくるのは本当にやめて欲しかった。
「あちらのお話も聞かせていただけませんか?」
「あっちの話なぁ」
あっち、というのは空の果てに浮かぶ巨大な惑星、オミクルの話である。イチから話すととんでもない長編小説みたいな話になるのでサクッと説明すると、子供達の成長を見届けた俺達――つまり俺とシルフィやアイラ、メルティなどの長命種は国を子供達に譲ってメリナード王国を出奔した。
いつまでも俺達が上に居座っているのも国の形態として不健全だし、何より国家運営というのはストレスが凄い。そろそろ子供達に全て譲って俺達は世界を股にかけた冒険の旅というか、新婚旅行……いや新婚ではないな。ハネムーン? まぁとにかく面倒事を全部子供達にぶん投げて世界を巡って歩くことにしたのだ。
当然、子供達は抵抗した。誰が好き好んで玉座という拷問椅子と王冠という茨の冠を被りたいと思うのか? 父上母上はまだまだ現役なんですからもっと頑張ってくださいと泣かれた。いい歳をした大人(当時五十歳くらい)にそれはもう全てをかなぐり捨てて地面に大の字になってヤダヤダと泣き叫ばれた。
だが俺達は心を鬼にして全てを彼らに押し付けて旅に出た。まぁ、流石に全部投げっぱなしというのも無責任なので、こうして年に何回かは顔を出して助言したり助力したりしているわけだが。
まぁそれは置いておこう。とにかく、メリナード王国を出奔した俺達は世界の色んな場所を観光したり冒険したりした結果、オミクルへと至ることになった。とある場所に向こうへと渡る転移装置があったのだ。不用意に起動した結果、百年くらい向こうから帰ってこられなかったわけなのだが。
お前何歳やねんって? それが今二百歳超えてるんだよね。全く身体に衰える様子がないんだけど。これが俺の能力によるものなのか、それとも他の要因によるものなのかは正直よくわからない。
グランデの血液から生成されたよくわからない薬とかアイラに飲まされたことあるしな。どう見ても人間なのに俺がいつまでも若いままなのも『だってコースケだし……』みたいな感じであんまり疑問に思われないのもいかがなものか。
当然、こうして長い時を過ごす以上は別れも多く経験することになった。レオナール卿やダナン、それにゲルダや獣人メイド達は天寿を全うするのを見送ることになったし、ハーピィさん達は寿命が短いので、ピルナ達だけでなくその後の世代の子達も多く見送ることになった。こればかりは俺の能力をもってしても、国を凌駕する富をもってしても如何ともし難い。
落ち込むこともあったが、今もなんとか俺は生きている。生きていられる。
「あっちはあっちで大変だよ。何せこっちよりも遥かに人が少ないからな。やりがいはあるけどね」
オミクルには人が住んでいた。こちらの伝承では魔物の世界だとか死後の世界だとか諸説あったが、実際のところは一度滅んで、滅亡を生き延びた極小数の人々が魔物の脅威に怯えながら細々と生きている、といった感じの世界だった。
地表近くの鉱物資源が軒並み消費され尽くしているせいで、一度崩壊した文明を立て直すことができなかったんじゃないか、と俺とアイラは考えている。何せ手掘りで銅鉱石や錫を入手するのが難しいから青銅器を作れないし、鉄の鋳造鍛造は難しいし、あちらで見かける遺物の金属は合金化されているものが多すぎてただの火や木炭程度ではまともに鋳溶かすこともできないようなものだらけなのだ。金属器が使えないと文明の発展は難しい――って地球で見た覚えがある。もう記憶も朧気だけど。
「おはなしむずかしー」
「がじがじ」
「噛むな噛むな。お腹すいたのかな?」
「そろそろ良い時間ですね。お昼はこちらで食べていかれませんか?」
「ああ、そうしたいけどイクスに昼飯に誘われていてね。それもまた次の機会だな」
「残念です‥…」
「代わりと言っちゃなんだけど、お菓子置いていくから。後で皆で分けてくれ」
「おかし!」
「ははは、ご飯食べた後でな」
はしゃぐハーピィちゃん達を宥めながら、お昼ごはんの用意を手伝っていくことにする。なに、イクスなら少しくらい待たせても構わんさ。ハハハ。
締めに入るよ!( ˘ω˘ )




