第431話~なんとかかんとか~
執筆期間に入りますので、暫くお休みします。ユルシテネ!_(:3」∠)_
「できた」
「うん? 何が?」
「赤ちゃん」
ベルタの懐妊が発覚したその日の夕方、俺のクラフト部屋を訪れてきたアイラから唐突に衝撃の事実を告げられた。
「本当に?」
「ん、間違いない。自分でも確認した」
そう言ってアイラがさすさすと自分のおへその下辺りを小さな手で撫で擦る。
「お、おぉ……何なんだ、今日は。俺を幸せで昇天させる気なのか?」
「多分偶然」
アイラの前に跪き、一言断ってから彼女の小さなお腹に耳を当てる。無論、まだ何も聞こえるわけがないのだが。そうせずには居られなかったのだ。なんというか遂にやってしまったという感が無くもないな。アイラのこの小さな身体に新たな生命が宿っているのだと考えると、なにか途轍もなくやらかした感が強い。実際のところ、身体が小さくても彼女は俺よりも歳上だし、種族的にも立派に大人の女性なのだが。
「喜んでくれる?」
「既にこれ以上なく喜んでるよ」
しかしこれで五人目……いやハーピィさん達を入れると五人目どころじゃないけど。俺の認識範囲だけで数えて五人目か。これはもう天下御免の種付け男とか呼ばれても何も言えないな。あ、なんか久しぶりにアチーブメントが解放されている予感が……見ない。見ないからな。
「しかし立て続けだな……聞いているかも知れないけど、昼間にはベルタも同じように懐妊を報告してくれたんだよ」
「ん、聞いた。それで自分のお腹を調べてみたらできてた」
「自分のお腹を調べる」
「魔法で。妊娠すると身体の魔力の流れが変わるから、魔道士ならすぐに分かる」
「なるほど」
こんな時でもアイラは冷静だ。俺もそんなアイラに感化されたのか浮足立った心が落ち着いてきたように思えたのだが、その心がすぐさま乱れるようなことが直後に起こった。
「コースケさん! 子供! 私にも子供が出来ましたよ!」
「何ィ!?」
クラフト部屋の扉を半ば粉砕しながら興奮した様子のメルティが突入してきたのだ。
だが、そのままの勢いで突撃してこようとしたメルティが壁にでもぶつかったかのようにピタリと止まる。アイラがメルティに人差し指を向けているところを見ると、どうやら魔法でメルティの突撃を停止させたらしい。
「アイラ? 動けないんですけど」
「そのようにしている。コースケも私もお腹の赤ちゃんも脆いから、そんな勢いで突撃してこられたら危ない」
「お腹の赤ちゃん?」
「ん、私も妊娠した」
アイラがそう言いながら無表情のまま左手でピースしてみせる。メルティもアイラの告白に驚愕しているようだ。そりゃ驚くよな。ベルタの件は既に周知されているので、これで一日に三人の懐妊が発覚したことになる。
「一日に三人もの妊娠が発覚するとか、なんだか偶然にしては出来すぎですね」
「偶然だとは思うんだけどな」
そうだとは思うんだが、前に現れ――てはないけど、時を止めて語りかけてきたあの存在のことを考えるとあながち偶然であると言い切ることもできない。時すら止めて語りかけてくるような奴ならこの程度の芸当くらいはやってのけそうだからな。
「念の為シュメル達とグランデ、それにセラフィータさんとドリアーダも検査してもらっていいか?」
「ん、構わない」
「わかりました。でも先に私の件をちゃんと祝福してください」
「勿論だとも」
この後夕食の時間まで二人を褒めちぎりながら感謝と祝福の言葉を送り続けた。本当に幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうだ。
☆★☆
結論から言うと、俺が仕事をセラフィータさんとドリアーダに預け、朝から晩までイチャイチャしていた期間に俺と関係を持った女性達は全員揃って懐妊していた。脅威の命中率100%である。
「これ絶対何か俺の能力が影響してるだろ……」
観念してステータスメニューを開き、アチーブメントを確認する。いつの間にか知らないアチーブメントが随分増えていたが、項目の後ろの方にそれらしいものを見つけた。
・種馬野郎――:合計十人の異性と子を成す。※『命中率』を大幅にアップ。産めよ増えよ地に満ちよ。
絶対これだ。エレンとアマーリエ、それに俺の子供を産んだハーピィさん達とシルフィを足して十人だ。それからあの朝から晩までの日々が始まったわけだから……いや、もしかしたらドラゴニス山岳王国に施設として派遣されていた間にもアチーブメントは解放されていたのかもしれない。
「慶事ではあるが、喜んでばかりもいられんな……」
自体を把握したシルフィがなんとも言えない表情をしている。今回懐妊した女性達は国家運営の中枢に近い場所にいる女性達ばかりだ。つまり、今はまだ良いとしても今後の体調の変化を考えれば下手をすれば国家の中枢機能が麻痺しかねないわけである。
「なんとか対策を考えておく」
「人材不足がうちの泣き所ですからねぇ……」
アイラとメルティが対応に乗り出すつもりであるようだが、一朝一夕でなんとかなる話ではないからな。まぁ、彼女達の体調に大きな変化が訪れるのも今日明日の話ではないから、猶予がないわけでもないのだが。
「これはモノみたいな在野の優秀な人材の登用を全速力で始めたほうが良さそうだな」
「ああ、西の方で開拓村を作った時に出会った単眼族の方でしたっけ。そうですね、優秀で信頼できる方なら是非欲しいです」
「なら俺が直接行くべきだな」
モノはあの開拓村から離れる気はあまり無さそうだったしな。説得するなら顔見知りの俺が行ったほうが成功率は高いだろう。
「アドル教懐古派から人員を派遣してもらうというのはどうなんだ? 神官は基本的に知識人だろ?」
「それはそうだが、あまりアドル教の神官を国の中枢に入れるのはな……」
「そっか」
シルフィが渋面を作ってみせたので、俺はおとなしく引き下がっておく。いざとなれば頼るしか無いのだろうが、出来る限りは頼りたくないということだな。まぁ、今までの経緯を考えれば国民感情的にも確かに微妙なところかもしれないな。
「聖王国から逃れてくる難民の中から登用できれば良いんだがな」
「見込みの有りそうな人を下級官吏として登用を進めるように支持を出してありますけどね。ただ、今回の件にはちょっと使えませんね」
「それはそう」
メルティの発言にアイラが同意する。聖王国から逃れてきた難民を政府の中枢に近い場所に入れるのは確かに危ないな。現地採用も微妙に危険な気がしないでもないが、背に腹は代えられない部分もあるんだよな……今のメリナード王国には読み書き算術ができる人員があまりに少ないのだ。
「今に始まったことじゃないが、人材育成は大事だよな……」
「成果が出るまで時間がかかるのは仕方がない」
俺の作った畑みたいに一週間やそこらで成果が出るものじゃないからなぁ。なんとかそっち方面で役に立つものとか作れないかね。学習マシーン的な。無理か。それよりも日々の業務を劇的に改善する道具でも作ったほうがまだマシかな。まずはメリネスブルグの城内に文書を高速で輸送できる気送管みたいなものとか、魔導飛行船で使ったような伝声管を張り巡らせるのが良いかもしれない。
「ああ、やることが多いな……」
「血生臭い内容じゃなくて結構なことだろう? 苦労して勝ち取った平和なトラブルというやつだ」
「それはそうだな。まぁ、なんとかなるか」
「ああ、なんとかなるさ」
そう言って微笑むシルフィに俺も笑みを返す。そうだな、まぁなんとかかんとかやっていくしかない。これから先も大変だろうけど、なんとかかんとかな。




