第430話~結実の日~
原稿執筆期間に入るので水曜日の更新を最後にまた暫くお休みします_(:3」∠)_(ユルシテネ
「わかりました。カテリーナ高司祭には私から話をしておきます」
エレン達の部屋に行くと、丁度エリーとコンラッドが眠りについたところだった。丁度よいタイングで聖王国からの難民救済の話をできたわけだが、エレンにはすぐに了承をしてもらえた。
「かつて故郷を奪った聖王国の民にまで慈愛の手を差し伸べようとなさるシルフィエル女王陛下は歴史にもまれに見る仁君であらせられますね」
「無理に持ち上げる必要はないと思うけど……なんだかんだで打算の上での判断だぞ?」
アマーリエの言葉に苦笑しながらそう返す。
対外的な配慮とか、厳しく対応した場合における前線の兵達の士気の問題とかな。ただまぁ、難民に関して苦労をかけさせられた上に、難民達への支援が手厚すぎて逆に兵達の士気が下がるというのも上手くないので、そこはそこで何か考えたほうが良いかもしれんな。酒か何かを一杯つけるとか、臨時でボーナスか何かを出すか……まぁボーナスが無難かな。酒は飲めない人もいるだろうし。またお金がかかる……とメルティには渋い顔をされそうだ。
「それでもです。シルフィエル陛下の寛容さに私は心から敬服の念を抱いています」
そう言ってアマーリエは神に感謝するように両手を組み、祈るような仕草をしてみせた。コンラッドの件で彼女とシルフィの間には色々とあったのだが、最終的に良い関係を築くことができているようで一安心だ。
「それで、また出張ですか?」
「いや、すぐにってわけじゃないし、もしかしたら行くことも無いかも知れない。何にせよ、まずはどのように対処するかしっかりと計画を立てようって話みたいだ」
「そうですか……あまり出張に行き過ぎて、エリーゼやコンラッドに顔を忘れられないようにしてくださいね」
「そんな事になったら泣いちゃうぞ俺……」
「その時は慰めて差し上げますから」
「わ、私も慰めてあげてもいいですよ?」
落ち込む俺にニッコリと慈愛の笑みを向けてくるアマーリエと、慌ててそれに追随するエレン。
そうやってイチャイチャとしていると、少しばかり常ならぬ様子のベルタがノックもせずに入室してきた。
「あ……」
そして俺の顔を見るなり頬を赤く染める。なんだろう? と思いつつ彼女を顔を見ていると、彼女は顔を赤くしたまま表情をキリリと整え、ツカツカと俺の目の前まで歩いてきた。そしておもむろに椅子に座ったままの俺の頭を抱え、自分のお腹に押し当ててくる。
「授かりました」
「んむ?」
顔がベルタのスラッとしたお腹に押し当てられていてちょっと苦しい。言っていることの意味がわからずにもぞもぞしていると、ベルタは更に強く俺の頭を自分のお腹に押し当ててきた。苦しい苦しい。
「私も、遂に貴方の子を授かったと言っているのです」
「んん!?」
何!? と言ったのだが、僧衣を纏った彼女のお腹に顔を押し付けられている状態なのでまともな言葉にならない。というか息苦しい。なんかすっごい良い匂いするしあったかいけど息苦しいよ!
とりあえず、解放してくれる気は無さそうなのでそのまま彼女の腰に手を回して抱きつき、労るように腰をポンポンと叩く。半分くらいギブアップという念も込めて。
彼女はアドル教懐古派の中でもちょっと特殊な半ば戦闘職のような立場の人間なので、僧衣の下に隠されているスラリとした身体には見た目以上の膂力を宿しているのだ。
「ベルタ。そのままだとコースケが悶死してしまいますよ」
「……なんだか顔を見られるのが恥ずかしくて」
「今更では?」
エレンの言葉に内心同意する。確かに赤面しているベルタというのはなかなかに見られないものであるかもしれないが、子を授かったということはつまりすることはしている仲なわけで。身も蓋もないことを言えばかなり今更である。
「ところで話の邪魔をしてしまって申し訳ありませんでした。つい感極まってしまって」
「それは良いのですけれど……ちょっと独占はズルいです。代わってください」
「エレオノーラ様のお言葉でも今ばかりは従えません。お許しください」
ベルタが俺の頭を自分のお腹に押し付ける力は弱まったが、まだ解放してくれるつもりはないらしい。うーん、あったかいし良い匂いがするし俺は構わないんだが、なんだかこうやって抱かれていると物凄く落ち着く……寝てしまいそうだ。
「エレオノーラ様の次は私もお願いします」
「うもー」
「ちょっと、喋らないでください。くすぐったいです」
無茶を仰る。というか、俺の意思とは関係なしにエレンとアマーリエにも同じことをされるのが決定している。流石に立て続けにこんなことをされたら安心感と幸福感でどうにかなってしまいそうなんだが。
まぁ、喫緊の用事があるわけでもない。エリーゼとコンラッドが起きてしまったらこうしてゆっくりしている暇もなくなるのだろうし、少しばかりゆっくりしていくとしようか。




