第429話~大国の断末魔~
一周目はラニ様と添い遂げました( ˘ω˘ )
『難民というか、避難民の流入が止まらないのである』
平和になりそうだと思ったのも束の間。
メリナード王国領東方の聖王国との国境に面している領地を任されているレオナール卿からいかにも困っていますという様子の通信が入って来た。キリーロヴィチとの会談からまだ一週間も経っていない。
「意外と動きが早いなぁ」
「必死ですからね。生き残るためにやれることはなんでもしますよ」
自らも難民としてオミット荒野を縦断し、エルフ達の住まう黒き森まで避難したことがあるメルティが事も無げに言い放つ。
「外敵との戦いであれば結束して抗することもあるだろう。しかし内戦となるとな……抗しようにも相手は同じ国の兵士や騎士だ」
「報告によると、臨時徴発と称して半年ほど前かなり無茶な臨時徴税が何度も行われてきたとか。まぁ、我々との戦いに必要な分を掻き集めたのでしょうね」
「結局攻めてきた討伐軍は全滅した上に、追撃で補給物資は大半を奪ったからなぁ……まぁ避難民達が困窮した遠因は俺達にあるか」
「責任を取る必要は全く無いと思うが、放置するわけにもいかんな……」
ゆったりとした服を着たシルフィが難しげな表情で考え込む。まぁ、彼らは聖王国の民なのだから聖王国が彼らの面倒を見るのがスジというものだろうな。俺達が身銭を切って助ける理由は全く無い。一つもない。ただ、今現在彼らを脅かしているのは本来彼らを守るべき立場の連中なのだというのだから、まことに救いの無い話である。
シルフィの言う通り俺達が面倒を見る必要は全く無いのだろうが、放置するわけにもいかない。レオナール卿のところにはかなりの数のエアボードを配備しているし、虎の子の銃士隊も配置している。しかしそれだけで国境の全てを完璧に見張るのは至難の業だし、国境線全体から流入してくる避難民を止められる筈もない。流入を止めるには国境線沿い全てに分厚くて高い壁を作るしかないだろう。
時間をかければ俺なら出来るかも知れないが、俺が同じ時間を避難民を救うことに使えば完璧にとは行かずとも概ね、何かしらの有効かつ穏便で平和的な解決を図れるはずだ。
「どちらにせよ追い返すのにも限界があるし、まさか皆殺しにするわけにもいかん。手を打たねばな」
「ん、放置は悪手」
ここ二週間分ほどの量になるメリナード王国領東方部からの日々の報告などに目を通していたアイラが報告書を顔を上げて頷く。避難民達は困窮している。つまり、場合によっては盗み、奪うことでしか生きられないという状況にすぐに陥ってしまう。そうなれば国境地帯の治安は急速に悪化することになるだろう。
「それじゃあ今回も俺がパパっと行って解決してくるか」
「いや、それは待ってくれ。まずはどういう方向で解決するのかをしっかりと決めたほうが良い。それに、毎回毎回コースケに頼り過ぎるのもな」
そう言ってシルフィが渋面を作ってみせる。
「俺は頼ってもらって構わないし、寧ろ気になって仕方がないから解決しに行きたいんだが。人の命が懸かっている話だし、出し惜しみはするべきじゃないと思うんだよ」
「コースケの言うこともわかる。だが、場所が場所だ。聖王国の連中も今は内輪揉めに忙しいかもしれんが、そうでないかもしれん。万が一コースケの身に何かあれば一大事だ。私の代わりを務められるものはいるが、コースケの代わりを務められるものはいないんだ」
「いやそれは――」
「はい、はい。そこまでです。コースケさんを派遣するにしても何にしてもまずは方針を立てる必要がありますし、準備も要ります。とりあえず不足しているのは食料、医薬品、衣料品に雨風を凌ぐための天幕という話なので、まずは可能な限り送るとしましょう」
「そうだな。エアボードを活用してどんどん物資を送ってくれ。メリネスブルグ近郊からも余剰の食料を集めて送ることにしよう。従来型の備蓄食料を中心に放出してくれ」
従来型のというのはつまり焼き締めたパンだとか、挽いた穀物子そのものだとか、そもそも挽く前の穀物そのものだとか、干し肉だとか、干し野菜だとか壺や樽入りの漬物だとか、まぁそういった感じのものだな。缶詰や即席麺の類は温存するらしい。
「備蓄食料の入れ替えには丁度良い。食料だけは有り余っていることだしな」
「いざとなったらいくらでも増やせるしな」
俺がその気になってひたすらに畑を作ったりした日にはそれこそ収穫が追いつかないほどの大農園を作ることだって可能だからな。
まぁ何にしても最後の最後まで祟ってくれるものだな、聖王国ってやつは。この程度は序の口なのかもしれないが。何せ大陸の両雄とされるうちの一つが割れ砕けようとしているわけだし。今後のことも見据えて何か手を打っておいたほうが良いかも知れない。
「方針を決める話し合いにはコースケにも参加してもらうから、そのつもりでな」
「わかった。でもまずは緊急支援物資の配送だな。薬師や錬金術師、医師の類も送ったほうが良いんじゃないか?」
「それが良いだろうな。女子供も多いという話だし、疫病でも出たら大変だ。懐古派にも協力を要請するとしよう」
「カテリーナ高司祭に話をしておいてもらうとしよう。エレンから」
「そっちは任せた」
「任された」
エリーとコンラッドの顔を見に行きがてらエレン達に相談しよう。聖王国の民を助けるためという話であれば彼女達も喜んで協力してくれるだろうしな。
 




