第426話~弱ったコースケ~
なんだか筆が進まねぇ一日でした……_(:3」∠)_
「逃げれば?」
アクアウィルさんのご機嫌をなんとか取って許されたその翌日。今度は城のサロンでイフリータを相手に愚痴っていたら、とんでもない提案をされた。身も蓋もないな。
「いやそれはアカンやろ……別に嫌なわけじゃないんだ。度を越しすぎていて身の危険を感じているだけで」
「はいはいご馳走様。私はそんな愚痴を私に聞かせるあんたの神経を疑うわ」
眉間に皺を寄せてイフリータが嘆息する。そうは言うがな、大佐。今、この城の奥――つまり王族やその家族が住む居住スペースには俺以外の男がほぼ居ないんだ。別に監禁されているわけじゃないから外に出ることは出来るが、俺が親交を結んでいる男性陣の中でも武官連中は基本出払っていて会うこと自体が難しいし、研究開発部の連中はいつの間にか同僚の女性達に召し上がられていて俺と立場がそう変わらない。同じ立場同士で傷の舐め合いをするのも惨めなんだよな。
「というか、ちゃんと言えば良いじゃない。なんだかんだであんたが本気で言ったら言うこと聞くでしょ?」
「うーん、それは確かにそうなんだけどな……でも俺に好意を持って接してくれているのを無碍にするのも気が咎めるんだよな」
「はいはいはいはい。結局あんたの意志が弱いだけじゃない。すけべ」
「反論ができねぇ……」
ぐぅの音も出ない。確かに俺が強い意思でNOと言えば皆自重してくれるだろう。だが、俺が少し我慢すれば皆が喜んでくれるのだろうし、我慢すると言っても俺だって皆とイチャイチャするのは嫌じゃないしということでなんとも断りづらいんだよな。それで毎日干物みたいになってるんじゃ世話ないんだが。
「というか本当に理解できないんだけど。私みたいな乙女にそういうあんたのシモの事情を話すってどういうことなの?」
「事情に精通してて気心が知れてて中立的な立場を取っている人がイフリータくらいしかいなくて……」
まさかヴァリャーグ帝国大使館に行ってキリーロヴィチ相手に愚痴るわけにもいかないしな。キリーロヴィチじゃなくてキュービになら話せなくもないが、態々会いに行くのもな……俺は今となってはもう気にしてないというか、前に前身の毛を剃った件で水に流したんだが、ハーピィさん達を筆頭にシルフィもメルティもアイラも未だにあいつを許してないからな。
「つまり、あんたは私を女として見てないわけね」
「そういう答えに困る言い方をするのは勘弁してくれ……」
イエスと言ってもノーと言っても角が立つんだよ、それ。アクアウィルさんにも同じような質問されたわ。いや、俺がデリカシーに欠ける行動をしているのが悪いんだけどさ。
「正直すまんかった」
「いやそんなに落ち込まれるとこっちが悪者みたいなんだけど」
思わずテーブルに突っ伏してしまった。うーん、どうにも感情が不安定になってしまっている気がするな。自分ではあまり気にしていないつもりだったんだが、実は結構メンタルに来ているのだろうか?
「世話の焼ける……もう、あんたはちょっとそこで休んでなさい」
そう言ってイフリータは大きなため息を吐いてからサロンを出ていった。わー、一人だ。寂しいなぁとか思いながらテーブルに突っ伏したまま暫くボケーっとしていると、ガチャリと音を立ててドアが開く気配がした。
「……重症だな、これは」
「そのようですね」
突っ伏していたテーブルから頭を上げて入口のドアへと視線を向けると、苦虫を噛み潰したような表情のシルフィと、眉間に少し皺を寄せたエレンが立っていた。その後ろにはアマーリエの姿も覗いている。
「仕事を取り上げたのがいけなかったのではないか?」
「そうかもしれませんね。人はただ安楽な生活をしていれば幸せというものではないですから」
難しい顔をしながら話し合うシルフィとエレンの横を抜けてアマーリエが俺の座っている席の隣に腰掛け、俺の背中を撫で始める。
「楽にしていてくださいね」
「一体何が始まるんです?」
困惑している間に他の面子も続々と集まってきた。そして俺はゲルダに抱っこされてサロンから連れ出されてしまった。頭の中に疑問符して湧いてこないんだが?
「ゲルダは何が始まったのかわかるか?」
「ええとですねぇ……緊急会議、ですかねぇ」
「緊急会議」
内容については教えてくれなかったが、俺の待遇改善とかだろうか? いや、待遇改善も何もこれ以上無い待遇なんですけど。俺が勝手に弱ってるだけで。
「今日は静かに作りたいものを好きなだけ作って過ごすように、と陛下が仰っていましたぁ」
「えぇ……?」
俺が連れてこられたのは研究開発部の近くにある俺のクラフト部屋である。俺が今までに作ったクラフト台とチェストが設置してあるだけの本当にただの作業部屋だ。
「何かありましたらお声がけくださいねぇ。お飲み物でも食事でもすぐにご用意致しますのでぇ」
「それはわかったけど……」
ごゆっくりぃ、とのんびりとした口調で言ってデボラがクラフト部屋の外へと姿を消す。立ち去ったような感じじゃないから、部屋の前で待機しているようだ。
「うーん……駄目だ、頭が回らん」
疲れているのか何なのか、今の状況をうまく飲み込めない。ううむ、やはり精神的に参ってしまっているのだろうか。単に連日連夜のアレで色ボケしているだけのような気もするんだが。
「まぁ……ゆっくりしていろってことだしそうするか」
こうしてゆっくりとクラフト作業をするのもなんだか久々な気がする。うーん、何を作ろうかな。何か新機軸の便利なものを作ってみようか。こっちの世界に来てから作ってものって割と血なまぐさいものばかりだったからな。




