第425話~夜のティータイム~
ちょっとカクテイシンコクという強敵と戦うので来週いっぱいはお休みします( ˘ω˘ )(ユルシテネ
「……落ち着く」
「リアクションに困ることを呟かないで貰えますか?」
ティーテーブルの対面に座っている青いロリエルフ――ではなくアクアウィルさんがジト目を向けてくる。
メルティの一日奴隷をこなしたあの日から一週間経ったその夜。俺はアクアウィルさんと夜のティータイムを共にしていた。この場にはアクアウィルさん付きの悪魔メイドであるレビエラや、俺付きの獣人メイド達のまとめ役であるクマ獣人メイドのゲルダ、それに狐獣人メイドのビャクや山羊獣人メイドのオリビアなども控えており、時間帯が夜中だというだけで特にいかがわしい要素などは微塵も存在しない、純然たるお茶会であった。
そんなお茶会の場で、俺は心の底からの安寧を得ていた。それは何故か? 原因はまぁ、俺にあると言って良かろう。やることをやった結果、人間であるエレンとアマーリエだけでなくシルフィもそのお腹に新たな命を宿すことになった。随分と時間がかかったが、まぁ遂に命中弾が出たということである。
そうすると何が始まるか? そう、攻勢である。未だ俺との間に子を成していない俺を慕う女性達からの大攻勢である。タイミングの良いこと――いや、悪いことか?――にシルフィは暫く俺をメリネスブルグに留めおくという判断を下したところであったし、俺が受け持っていた事業はシルフィの母で俺の義母にもあたる前王妃のセラフィータさんと、シルフィの姉であるドリアーダに引き継がれた。
俺としては自分の手から仕事が離れていくのは寂しいという思いも強かったのだが、そのお陰で自由にできる時間が出来ることは喜ばしいことだと思っていた。
しかし、そこで皆の大攻勢が始まった。隙を見せると寝床に連れ込まれる。男冥利に尽きる状況であることは確かなのだが、それにも限度というものがある。いくら俺が少し休めばどんなに弱った状況からでも復調するという人間離れした肉体を持っているとは言っても、心まではそうはいかない。人間というのはこのように落ち着く時間も必要なのである。
「私は貴方の保護者じゃないですし、殊更に貴方を擁護する義理も……義理はありますか」
そう言ってアクアウィルさんは忌々しげに溜息を吐いてみせた。
ふふふ、そうだろうそうだろう。俺はアクアウィルさんに大きな貸しがあるからな。彼女が興味を抱いている空に浮かぶ巨大な惑星であるオミクルの地表観測をするため、天体望遠鏡や研究資金を提供しているのは他ならぬ俺だ。そんな俺が助けを求めてきたら応じざるを得ないよな?
いや別にほんの一時間か二時間くらい夜のティータイムをご一緒して、最も攻勢が強まる夕食後から風呂に入った後の時間を潰させてもらうだけなのだからそこまで悪辣な要求をしているわけではないと思うのだけれども。
「皆に苦情を言われるのは私なのですが」
そう言ってアクアウィルさんが再びジト目を向けてくる。前は本当に冷たい目というかゴミでも見るような目を向けられたものだが、今の彼女が俺に向けてくる視線は似ていても温度感がまるで違うように感じられる。まぁ、いくらかは打ち解けてきたということなのだろう。
「そこは申し訳ないと思うけど、ここは俺の唯一と言っても良い安全地帯なんだよ」
「地下も安全地帯でしょう?」
「あそこは本当に最後の砦だな……」
ただ、地下のライム達を安易に頼るのは危険だと俺の本能が告げている。ちょいちょい記憶が飛ぶんだよな、地下に行くと。いや、ライム達のスライムベッド&マッサージ&アロマ効果でぐっすりしてるだけだと思うんだけど何か引っかかるんだよ。何か前に様子を見ていたグランデが不穏なことを口走っていた気がするし。まぁ、生命活動に支障が出るようなことはないと思うが、生命活動に支障がない範囲で何かとんでもないことをされている気がしてならないんだよな。
「まぁ良いですけれど。ただ、私と変な噂が立っても知りませんからね」
「本当に申し訳もござらん。というか俺はもう今更だし、知らないも何も不名誉を被るのはアクアウィルさんの方なのでは?」
その言い方だと逆のような気がするのだが。
「そんなことはないと思いますが。貴方はシルフィだけでは飽き足らず、その母や姉妹にまで手を出す天下御免の好色漢として名を馳せることになりますよ。当然後の歴史書にもそう記されるのでしょうね。しかも私はこんななりです」
そう言ってアクアウィルさんは自分の小さな――というか幼く見える――身体を指し示す。
「うーん、まぁ俺の評価や後の歴史はともかく、アイラやグランデに手を出してる現状。アクアウィルさんの外見というか体格に関しては最早問題にならないような気がするが」
何なら小鳥種のハーピィさんの中にはもっと小柄な子もいるし。いやほんと、びっくりしたよね。彼女達に群がられてわけもわからんうちにそういう子が交じってるの認識した時は。
などと考えながらふとアクアウィルさんに視線を向けると、そこにはなんだか懐かしさすら感じるゴミか何かを見るような冷たい視線を向けてくるお顔があった。
「つまり貴方はそういう目で私を見ていたということですか?」
「いや、それとこれとは話が別。節度あるお付き合いをしてきたことは今までの経緯から理解して欲しい。そして、俺がアクアウィルさんのところに通い詰めている理由はさっき俺が呟いた一言に集約されているから」
「……」
それはそれでなんかムカつくとでも言いたげな視線を向けるのはやめて頂きたい。それどっち側に答えても結局機嫌を損ねるやつじゃん! そういうキラーパス的な質問は良くないと思うよ!




