第423話~こいつあくまでした~
大寝坊したのになぜか間に合った_(:3」∠)_(何故だ
メルティはとりあえず甘いお菓子とお酒の力でなんとかした。気力を取り戻すなり襲われたけど。襲われたけど。大事なことなので二回言っておくね。いやもう一回言おうかな? 襲われたけど!
「私は満足です」
「ああ、うん。まぁ俺も満足だけども」
賢者モードなのだろうか? とても落ち着いた声でそう言うメルティに一応同意しておく。
ちょっと導入がパワー過剰というか、圧倒的なパワーで押し倒された上に衣服を脱がすというか剥ぎ取る、いや半ば破り散らかすみたいな怖い導入だっただけで、別に乱暴されたわけでは……いや乱暴はされてるけど。暴力を振るわれたわけではない。メルティはちょっとパワー過剰で一度興奮するとちょっと手がつけられないだけなのだ。特に今回は心が弱っていたせいもあってか激しかったが、まぁこういうこともあるだろう。
「んー……」
温もりを求めるように柔らかな肌を押し付けてくるメルティの頭を撫でてやる。角の生え際あたりを指先で優しく掻いてやるのがメルティのお気に入りだ。しかし、こうしているといつも思うが、一体何がどうなったらこんなことになるのだろう。ゲームが趣味の平凡な会社員が気がついたら美女だらけのハーレムの主である。
いや、主か? 主と言うには色々と弱くないか? 単にシェアされているだけのような気がしないでもないが、まぁ実質的には同じようなものだ。
「嫌ですか?」
「うん? 何が?」
「何もかもが、です」
今ひとつ内容がはっきりとしない質問に対して聞き返すと、そのような言葉が返ってきた。
「抽象的過ぎないか? でもその言葉の意味をそのまま受け取るなら、悪くないというか、身に余るくらい満ち足りていると思うよ。食うのに困ることはないし、こんな立派なお城に住んでいるし、今だってこんな美女と同衾しているし。人間ってのは三大欲求が満たされていれば大概幸せなものじゃないかね」
「それだけで満たされるのは獣だけでしょう?」
「勿論それだけじゃない。シルフィと手を携えてこの国を取り戻して、国を栄えさせるべく奔走するのはやりがいのある仕事だし。でも何よりメルティも含めて皆と楽しくやれているのが一番の心の支えになってるよ」
「本当に? 嫌じゃないんですか?」
俺に抱きついたまま、上目遣いでメルティが俺の顔を見上げてくる。
「うーん……枯れそうなくらい限界まで搾られるのだけはなんとかして欲しいけど、それくらいかな。皆が俺に気を遣わせないようにしてくれているのには感謝してる」
元々が土台無理な話なのだ。この世界の特殊な貞操観念によって大分軽減されているのであろうが、それでも俺一人を多くの女性が取り合うという構図そのものは変わらないわけで。当然、誰が一番かとか、次は誰がとかそういう諍いとか軋轢は多少なりとも生まれているのだろう。それを調整するのは恐らくアイラか、メルティなのだろうとも思う。もしかしたらグランデもかな。
「状況は日々変化するんだから、いつまでもいつもどおりというわけには色々と行かないと思うけど、それならそれなりに上手くやっていくしかないよな。全部任せてその色々を享受するだけの俺が言うのもなんだけどさ」
たまにメルティがこうやって爆発して、それに付き合うくらいなら安いもんだ。俺なんて好き勝手やって選り取り見取りのやりたい放題なわけだし。
「……」
俺の返答は正解だったのか不正解だったのか? それはわからないが、メルティは沈んだ表情で俺にただ肌を寄せてきた。うーん、大分引きずってるか? 良くないなぁ。
「思い悩んでいることがあるならなんでも言ってくれ。隠し事はナシだ。些細なすれ違いが重大な問題になることもあるんだからな。俺に出来ることならなんでもする――」
「今、何でもするって言いましたね?」
「んン?」
「何でもするって言いましたよね?」
「アッハイ」
「じゃあ何でもしてもらいます」
そう言ってメルティがにっこりと極上の笑みを浮かべて見せる。ああ、忘れてた。弱ってたから忘れてたわ。こいつはか弱い羊さんではなく、あくまなのであった。
☆★☆
「……まぁ、いいけれど」
「シルフィがなんかいつもと違った感じの言葉遣いになっている」
「んんっ! 気にするな」
翌朝、首輪(赤い革製)を付けられ、そこから伸びる紐をメルティに引かれて執務室へと現れた俺を見て、シルフィはこれを軽く流すことにしたらしい。貴方の伴侶が他の女に首輪を付けられてわんわんプレイをされていますよ。何か他に言うことはないんですか。
「一応聞いておくが、これはどういう状況だ?」
「コースケさんが何でもするって言ってくれたので、今日一日は私専用の奴隷くんになってもらうことにしました」
「……そうか」
とても嬉しそうな顔で事情を説明するメルティにシルフィは引きつった笑みを浮かべた。完全にドン引きしている。ドン引きしてますけど貴女、過去に俺の顔を思いっきり足蹴にしたこともあるし、もっとごっつい首輪に鎖まで着けて村内を引き回したことあるよね?
「それで、その奴隷くんとやらを執務室にまで連れてきてどうするつもりだ?」
「勿論、私の望むことを全てやってもらいます。さぁ、コースケ。例のものを出しなさい」
「アイマム」
俺はメルティの執務机に据えられていた椅子をインベントリに回収し、二人がけのソファを取り出した。普通のソファとは違うのは、執務机の高さに合わせてあるところだろうか。最早これは二人がけのソファと言うよりは、二人がけの豪華なふかふか椅子とでも言うべき珍妙なものであるのかもしれなかった。
少なくとも、俺は元の世界でもこんなものを見たことがない。ああいや、カップルが利用したり、あるいはお姉さんとお高いお酒を飲むようなお店ではそのようなものをあったのかもしれない。
「さて、お仕事お仕事。コースケは私が意見を求めたらちゃんと助言してくださいね?」
「はい、ご主人様」
「んふ……ふふふ」
俺の答えに満足したのか、メルティはこれ以上無く楽しそうな顔で笑いながら俺の頬を撫でてくる。ああ、いけませんご主人様。シルフィ陛下がこちらを見ておられます。
「……」
シルフィはジト目かつ横目でこちらに視線を向けてきているが、今の所は静観の構えのようである。とはいえ、この調子だとそのうち爆発すると思うんだが、メルティは一体どういうつもりなのであろうか? いや、もしかして爆発させるのが目的なのか?
「ところでご主人様」
「なんですか?」
「私の仕事が放置されたままなのですが?」
「ああ、大丈夫ですよ。セラフィータ様とドリアーダ様が全部引き受けて下さってますから」
「左様で……」
急に手許から仕事を全て持っていかれてしまうとこちらとしても大変に心配なのだが。というか、引き継ぎとか何もしていないんだが? 本当に大丈夫なのか?
「それより仕事を始めますよ。ちゃんと見ていてくださいね?」
「はい、わかりました」
一日だけとはいえご主人様の仰ることなので素直に聞いておくことにする。シルフィとか仕事のこととか後のことを考えるとちょっと怖いが、ここは大人しく従っておくことにしよう。




