第422話~ぐでメルティ~
れんきんじゅつたーのしー_(:3」∠)_(遅れた理由を隠す気がないクズ
ライム達との逢瀬――いや、接待? しかもするのは俺じゃなくてされるのが俺――を終えると、既に日が落ちていた。代わる代わるに俺の椅子やベッドになったり、全身マッサージを(するのを)所望してきたりとよくわからない時間であったが、久々にライム達とじっくりと語らい、触れ合うことが出来て俺は満足であった。
「どうしてコースケさんは私のところにだけ来てくれなかったんですか?」
「えっ、ええと……タイミングが合わなかったから、ですかねぇ」
そして夕食の席で俺はメルティに絡まれていた。暴力と権力を笠に着た絡み酒である。非常にたちが悪い。助けてシルフィ!
「聞けばメルティ以外とはそれなりに時間を使って接していたという話だし、あまり擁護はできんな」
「あら、コースケ君は私にも顔を見せに来てくれなかったけれど」
「お母様……」
セラフィータさんの言葉にシルフィがなんとも言えない表情をする。いやうん、シルフィとしては複雑な気持ちだよね。すまない、それもこれも俺が……いや俺だけの責任ではないと思うけど、俺が悪いんだ。多分。そういうことにしておこう。
どうしたものかと視線を彷徨わせると、アクアウィルさんと目が合った。すると、仏頂面だった彼女の表情があからさまに不機嫌そうな感じになる。えぇ? アクアウィルさんも怒ってらっしゃる? 確かに改めて帰還のご挨拶には行かなかったけれどもさぁ。
「コースケとて暇な身ではないし、身体は一つしかないのじゃから、誰のところに何番目にいつコースケが行ったなどと、くだらないことでコースケを責めるのは心得違いというものではないか?」
状況を見かねたのか、珍しくグランデが諌めるような言葉を口にする。鶴の一声ならぬ竜の一声に場がシンと静まり返った。
「それにメルティが忙しいのは自分でなんでも片付けようとするからじゃろうが? もっとお主は他人に仕事を押し付けることを学ぶんじゃな」
「……ぐぬぅ」
「メルティがぐうの音しか出なくなっている」
「ぐうの音しか出ないって表現は新しいな……まぁ確かに、メルティはちょっとオーバーワーク気味じゃないかと俺も思うな。あまりストレスを溜め込まないで済むように、仕事を他の人に振っても良いんじゃないか?」
「そんな簡単に行くなら私もそうしてるんですけどねぇ……」
メルティがぐでーっと食卓に突っ伏す。どうやらグランデに苦言を呈されて精神的に打ちのめされてしまったらしい。
「政治的なバランスに優れて有能で信頼できる人材がいれば良いんですけど」
「セラフィータさんとかドリアーダは?」
「いえ、お二人には既に断られて――」
「コースケさんが望むなら引き受けましょう」
「コースケくんが望むなら――ってお母様、早いです」
「えぇー……? 前は前王の伴侶である私が今更出しゃばるのはって言って断ったじゃないですかー」
「コースケさんが私にそう求めるなら話は別ですよ?」
「そうよねぇ」
「えぇー……?」
メルティがへなへなと食卓の上にくずおれる。いや、なんかもう脱力しきって半ば液状化しているような気すらする。なんかすまんな、俺の発言のせいで。
「もうだめです。たちなおれません。こーすけさん、なぐさめてください。ぜんぶあなたのせきにんです」
「俺悪くなくない? まぁ慰めるのは構わないけども」
「それじゃあ明日は私へのご褒美ですね。楽しみにしています」
「セラフィータさんって強かですよね。見た目はとっても儚げな美人なのに」
「元王妃ですから」
セラフィータさんがにっこりと笑う。なんだろう、色々と吹っ切れたんだろうか。セラフィータさん達を救い出してからもうそれなりに時間が経ったし、状況も大きく変わった。シルフィもついに懐妊したとあって、なにか心境の変化があったのかもしれない。
「コースケくん、私も頑張るからね」
「ああ、無理しすぎないようにな」
「ほう? コースケは随分ドリー姉様と仲良くなったようだな?」
「それは一緒にあれだけ長く過ごせば多少はね? それを狙った人選でもあったんだろ?」
「それはそうだ。私の想定以上に仲良くなってくれたようで良かった」
そう言ってシルフィがアイラに視線を向けると、アイラは無言でシルフィにピースをして見せた。私がやりました、というサインだろうか。まぁ、確かに変な意味でなく尋常な意味でドリアーダと仲を深められたのはアイラのお陰だと思う。壁が一枚取り払われた感じがするな。
「それはそれとして、今日のところはコースケにメルティを慰めてもらう必要があるな。このままでは明日の政務に差し支えるから、なんとか明日の朝までに元に戻しておいてくれ」
そう言ってシルフィが半ば液状化しているメルティを指差す。なんか俺の知るメルティと同一人物とは思えないほどに弱ってグダってしまっているが、これを一晩で元に戻せと? 無茶振りでは?
「善処します」
「だっこ。こーすけさん、だっこー」
「はいはい……」
幼児退行しているメルティを気合を入れて抱き上げて寝室へと連れて行く。どう慰めれば良いんだろう、これは。とりあえず寝かしつけて添い寝でもしておくか。ああ痛い痛い、そんなに頭をグリグリすると角が、角が痛いから! 許して!
 




