第420話~研究開発部にて~
ドラゴノーカ始めました( ˘ω˘ )(やめどきがない
「随分な登場の仕方じゃない……」
「羨ましい?」
「別に羨ましくないし!」
アイラにドヤ顔で自慢されたイフリータがガーッと怒る。ちなみにその後ろではラミアの鍛冶職人さんが羨ましい、と呟いていた。ああ、うん。ラミアさんをお姫様抱っこするのはかなりその、無理があるよね。下半身が長すぎる。そしてあの蛇の下半身、筋肉の塊だから滅茶苦茶重いらしい。ラミアさんに体重を聞いてはいけないって前にアイラに教えてもらったことがある。
「それでええと、何から手を付けたら良いんだ?」
「まずはあんた達が出てる間の進捗を報告するわ。雷撃砲の改良だけど、信頼性の向上に関しては魔力回路に使っている魔力導線をミスリル銅合金からミスリル銀合金に変えることによって解決したわ。少なくとも連続で百射までは耐えたから、十分だと思う」
「ん、コストは上がるけど妥当な解決策」
「兵器である以上信頼性は大事だよな」
実に納得できる改良内容だ。より魔力抵抗が低く、導通力の高い素材に切り替えることによって魔力回路の過熱を抑えたわけだな。
「他にも細々とした進捗はあるけど、特筆するようなのと言えば儀式建築技術の研究が少し進んだわ」
「儀式建築技術?」
「アドル教の聖堂に使われていた魔力収集技術。アレを儀式建築技術と名付けた」
「ああ、なるほど。研究が進んだって、具体的にはどういう感じに進んだんだ?」
元々は魔力を自動で収集するマナトラップ技術を開発するために四苦八苦して、それでアドル教の聖堂が持っている回復の奇跡を増幅する効果に目をつけたわけなんだが。構造というか回路がかなり複雑で解析に手間取っていたんだよな。
「とりあえず魔力を収集する部分にだけ重点を置いて研究を進めていたんだけど、その成果が出たってわけ。あれは一種の魔法陣――立体魔法陣とでも言うべき技術みたいね」
「立体魔法陣。理論はあったけど」
「アドル教の聖堂建築士とやらがそうと知って使っているのかどうかはわからないけど、魔道士や錬金術師の間では理論はあっても実用化が全然進んでいなかった分野よね。一体聖堂建築士とかいう連中はどこからこんな複雑な立体魔法陣を知ったのかしら」
「ん、謎」
何やらアイラとイフリータが盛り上がっているが、俺にはちんぷんかんぷんである。要約すると、効率よく魔力を収集するには高魔力伝導性を持つミスリルなどで単に目の細かい囲いを作るだけでは不十分で、それに適した形に魔力導線を張り巡らせる必要があるということらしい。しかも、その形というのは割と厳密に決まっていて、形が崩れると途端に効率が落ちてしまうのだとか。
「正直、とりあえず使えるようになったってだけで、技術の内容を理解できているとは言えない段階ね。現状ではあんたが作った純ミスリル製の鳥籠みたいなものと同じ効率をミスリル銅合金の導線で出せるようになった程度で、実用性にも乏しいわ」
「さらなる技術解析と発展が必要」
「そうね。でも、この技術を研究していけば最初にあんたが目指していたマナトラップを実用化できるかもしれないわね」
「そうなってくれると良いな」
そうすれば魔力が無尽蔵に吹き出す脈穴に近くない場所でも魔力を動力に使う道具が使いやすくなるし、魔結晶などのエネルギー資源を作れるようになるかもしれない。そうすれば国の発展に大きなプラス効果が望めるだろう。
「連発式の魔銃や対物理結界発生装置の研究も進んでいます。連発式の魔銃は試作品自体は出来たのですが、量産時の部品の精度などに問題があって設計から見直しているとか」
「ハーピィ用の空対空装備も開発も継続中だよ。軽量化が難しいんだけどね」
「ミスリル系の素材を使わないで、となると難しいのよねぇ」
研究開発部の他の職員達も報告を上げてくれる。なるほどなぁ。連発式魔銃に関しては俺はほぼノータッチだからアレとして、ミスリル系素材に関してはなぁ。
「俺が大量に供給することは可能だけど、量産品には使えないもんなぁ」
「脈穴を利用した魔鉄や魔鋼の生産が安定してきたから、銀や銅にも同様の処置を行えないかオミット大荒野の脈穴研究所で研究を進めてもらっています」
「ああ、あそこね」
元々はオミット大荒野における本拠点として整備した脈穴を有する拠点だな。元々はオミット王国の首都だった場所らしいが、周りは見渡す限り荒れ果てた荒野である。俺が農地を作ったから、自給自足には何の問題もない筈だけど。今は脈穴を利用した特殊な品の生産と研究、それに黒き森のエルフ達との交易拠点として重要な役割を担っている。
「そういや船の方は?」
「船大工さんが木工職人さん達を連れて朝から出陣していきましたよ」
「乗ってた魔道士も半数はあっちです」
そう言えば研究開発部の人員がいつもより少ないな。整備と点検のために船の方に行っているのか。
「そう言えば、糧食技術担当の人は?」
「今日は缶詰工場に行ってるはずですね。缶詰メニューの開発に勤しんでるはずですよ」
「新作は開けてすぐ食べられる新鮮な野菜缶の予定だそうです」
「肉系ばっかりだったもんね、今まで」
草食系獣人の皆さんが嬉しそうにしている。しかし、新鮮な野菜の缶詰ってどんなのだろう。まさかキャベツの千切りが入ってるとかじゃないだろうな? 漬物なら良いんだが……いや、流石に野菜をそのまま缶詰にはせんか。
「そう言えば、缶詰工場を増築したいって言ってましたよ」
「ラインがあと三本は欲しいとか」
「箱を大きくするのは簡単だけど、人手と設備と材料の生産がなぁ」
ラインを増やすとなると缶詰用の缶の製造や、蓋をするための錬金魔道具、調理設備、人手の確保など色々と準備が必要だ。メルティにも話を通さないとならないだろうし、缶の増産に関しては商業ギルドにも確認が必要だろう。
「とりあえず後で決済業務をやるから、前向きに検討するわ。いずれにせよ有り余る食料を腐らせるわけにはいかんからな」
俺が作った農地によってメリナード王国内の食糧生産は安定を通り越して過剰気味である。無論、その食料を他国に輸出する動きも進んでいるが、長期間の保存に耐えられる缶詰にすれば付加価値が上がる。無論、全て缶詰にすることなど不可能なので、昔ながらの漬物などの保存食にして大きな瓶に入れて販売などもするのだろうけども。日持ちする穀物や豆の類ならそのまま販売もできるしな。
その後、細かい報告を受けた俺は研究開発部を辞して俺用の執務室へと向かうことにした。ああ、忙しい忙しい……やることが多いよ。




