第419話~聖職者達と宮廷魔道士~
積んだゲームを崩す日々……( ˘ω˘ )
「はぁ……可愛いなぁ」
二つ並んだベビーベッドで仲良くすやすやと眠っているエリザベスとコンラッドを間近で眺めながら溜め息を吐く。それぞれエレンとアマーリエの二人と俺の間に生まれた子供だが、どちらもとても可愛い。
「起こさないでくださいね。やっと寝たばかりなんですから」
「心得てるさ。暫く側にいてやれなくてすまなかったな。困ったこととか無いか?」
「大丈夫ですよ。私とエレオノーラ様だけでなく、ベルタやカテリーナ高司祭様、それに他のシスターやお城のメイドの方々も協力して下さっていますから」
「私もアマーリエも乳の出は悪くないですが、いざとなれば母乳の調達先はいくらでもありますし」
「それはそうね。ウン」
牛系獣人を始めとして、一部の草食系獣人は子供が居なくても母乳が出る体質の人が結構いるみたいだからな。そういった乳を集めて売る商売も普通にあるから、この世界で母乳の調達に困ることはほぼ無いと言って良い。母乳どころか、卵生亜人の無精卵まで出回ってるからね。
「今日はゆっくりできるのですか?」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、出張直後は処理しなきゃならんことも多くてな。まぁ、細々とした報告やら何やらは文官の皆さんにお任せするんだけど、研究開発部に顔を出して飛行船とか装備関連の打ち合わせをしなきゃならないし、俺が出張している間に溜まった仕事の決済処理とか色々あってな」
「そうですか……」
エレンが残念そうな顔をする。なんだか子供を産んで子育てを始めてから性格が丸くなったというか、素直になったなぁ。前なら皮肉っぽい聖女ジョークの一つでも飛ばしてくる場面だと思うんだけど。まぁ、エレンも一気に大人の女性というか、お母さんになったということかな。俺もちゃんとお父さんにならないとな。
「ごめんな、寂しい思いをさせて。できるだけ早く仕事を片付けてくるから」
「はい、そうしてください。もう少ししたら二人目も欲しいですしね」
「気が早くないか?」
「そんなことはありません。主は産めよ増やせよ地に満ちよと仰っていますから」
「どこの世界でもそういうところは同じなのかね……まぁ、大家族ってのも良いものだよな」
あいにく俺は一人っ子だったが、たくさんの子供に囲まれた幸せな生活ってのはちょっと憧れるな。大変なことも多いんだろうけど。
そんな話をしていると、ノックの後にアイラが部屋に入ってきた。
「ん、やっぱここにいた」
「悪い、待たせてるか?」
「大丈夫。私も赤ちゃんの顔を見に来ただけ」
そう言ってアイラが俺達の側へと近寄り、エレンとアマーリエに視線を向ける。二人が頷くと、アイラは少しつま先立ちになってベビーベッドの中を覗き込んだ。
「……かわいい。私も早く赤ちゃん欲しい」
「鋭意努力します」
「ん、気長に頑張る」
単眼族のアイラは長命種に分類される亜人である。長命種の亜人というのは総じて繁殖能力が低いらしい。つまり、子供ができにくいのだ。長命だからあまり急いで増えなくても良いという神の配剤なのかもしれないが、子作りに励む身としては少々じれったく感じることもあるらしい。
「前から思っていたのですが、アイラさんはちゃんと成熟した大人なのですよね?」
「? 勿論そう。これでも貴方達よりは年上。単眼族の性成熟は人間に比べれば遅いけど、それでも二十歳になる頃には終わる。私ももう立派な大人」
アイラが小首を傾げてから淡々と説明する。まぁ、わかる。エレンの疑問はよくわかる。俺達人間から見ると、アイラはどう見てもローティーンの少女にしか見えないものな。体格的には。
「そうなのですね。早く出来ると良いですね」
「ん」
アイラは大きな目のせいで無表情に見えることも多い。でも、ベビーベッドですやすやと眠るエリザベスとコンラッドを見る目はとても優しげな光を湛えていた。
「いつまでも見ていたいけど、仕事」
「そうだな。二人とも、また後でな」
「はい」
「お仕事頑張ってくださいね」
エレンとアマーリエの頬にそれぞれキスをしてから部屋を出て研究開発部へと向か――おうとしたらアイラにズボンを引っ張って止められた。
「だっこ」
「急に甘えん坊か?」
「歩幅の問題」
そう言いつつ、アイラは俺のズボンから手を離して俺に向かって両手を伸ばしてくる。ちょっと鼻血が出そうなくらい可愛い。
「はい、だっこします」
「ん、くるしゅうない」
俺が腰を折って頭を下げるとアイラが両手を俺の首に回して抱きついてきたので、そのまま抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこである。いくら小柄でもアイラとて一人前のレディなのだからそれなりに重量がある。しかしこちらの世界に来て否が応でも昼夜――特に夜だが――それなりに身体を動かしてきた関係上、俺の身体もそれなり以上に鍛えられている。アチーブメントの効果もあって、アイラの体重くらいなら何の問題もなく支えられるだけの筋力を得ていた。
「出発」
「仰せのままに」
普通に歩きつつ、コマンドアクションで前進も行う。そうすると、通常の二倍の速度で歩くことが出来るのだ。傍から見ると歩幅と実際に進んでいる距離が乖離していて、動く騙し絵でも見ているかのような妙な気味の悪さがあるらしいが、知ったこっちゃないな!
「赤ちゃん」
「うん?」
「赤ちゃん可愛かった」
「そうだな。エリーとコンラッドは最高に可愛いな。ハーピィちゃん達も可愛いぞ」
エリザベスとコンラッドと違って、ハーピィちゃん達は俺の知らないところでいつの間にか生まれて育てられていたから、未だに自分の子供だという実感がエリー達に比べると薄いのだが、それでもぱぱとかとーちゃんとか言って甘えてきてくれるのでとても可愛い。ちょっと……いやかなりスキンシップが苛烈なのが玉に瑕だが。
「あらぁ、仲が良いですねぇ」
「……」
アイラ選手、通りがかったメルティ選手に無言のドヤ顔ピース! おおっと! これにはメルティ選手イラッとした模様! でもイラッとしたからって俺に当たるのはやめてね! 俺悪くないからね!
「今度私も同じことをしてもらいますねぇ」
「えっ……アッハイ」
思わず声を上げかけたらもの凄い良い笑顔を向けられた。コワイ。アイラとメルティじゃ重さが……ああいえなんでも無いです。がんばります。いえ、頑張る必要はないです。楽勝です。ハハ。
「頑張って」
「頑張ってじゃないんだよなぁ……」
笑顔を浮かべたままのメルティの側から歩き去りながらボヤく。まぁ腰を痛めるほどのことじゃないだろうから、良いけどさ。アレで結構根に持つから、いつか必ずやる羽目になるんだろうなぁ。




