第417話~慶事~
積んでたゲームを崩す日々( ˘ω˘ )
シルフィとの抱擁タイムが終わったら、たらい回しタイムである。
我慢の限界を迎えたメルティがシルフィから俺を毟り取り、その後はエレンとアマーリエ、それにコンラッドとエリザベスの元へと配送され、一通り再会を喜んで部屋を出たところで鬼娘達に捕獲され、可愛がられつつ今度はセラフィータさんのところへと運ばれて、そこへイフリータとアクアウィルさんも現れて暫し談笑し、流石に疲れてシルフィの部屋へと戻ろうとしたところでライム達に捕獲された。
「もう許してくれ……」
「こーすけ、つかれてるー?」
「んー、この状態じゃ可哀想ね。私達は明日ゆっくり相手をしてもらいましょうか」
「仕方がないのです」
許された。流石ライム達は話がわかるな。いやまぁ、何もかもある意味では自分で蒔いた種なんだから、こういう時に苦労をするのも自業自得みたいなものなのだけれども。
「はこんであげるー」
「ありがとう。ああ、そういえば三人にはちょっと特別なお土産があるんだよ。普通のお土産は明日渡すとして、先に特別なやつを渡しておこうか」
「多分肉なのです」
ポイゾ正解。ドラゴニス山岳王国で仕入れてきたのは八本足のヤギみたいな家畜の肉と、フライングバイターの肉。あとはフライングバイターの頭部だな。
「蛇? でも羽が生えてるのね」
「毒腺もあるのです?」
「毒があるのかはちょっとわからんな。締め付けたり噛み千切ったりするパワータイプの魔物っぽいから、無いかもしれん」
「はじめてのあじー」
フライングバイターの切り身や頭部、それに山羊っぽい動物の肉塊を体内に取り込んだ上で俺を抱えあげて石造りの城の廊下を爆走するスライム娘達。傍から見るとホラー一歩手前だろうが、メリネスブルグの王城に務める人達にとっては彼女達の姿も既に見慣れた存在である。まぁ、それでも今日の状態は流石にビジュアルがビジュアルなのでびっくりされているな。すまんな、お騒がせして。
「へいかー、こーすけをおとどけにきたよー」
「ああ、三人ともご苦労。お前達にはいつも助けられるな」
ライムがノックもなしにシルフィの部屋のドアを開け、内部に突入して俺を掲げる。そんなライムをシルフィは微笑みを浮かべて出迎えた。よく見ると、シルフィが腰掛けている長椅子にはライムの分体と思しきものが鎮座しており、シルフィのクッションと化している。さてはあの分体越しに俺の状況を確認していたな?
「明日一日はコースケの身体を空けておく予定だから、お前達も存分に構ってもらうと良い」
「ありがとう、陛下」
「さっすが陛下、話がわかるーのです」
なんだろう。よくわからないが褒美として下賜されている気分なんだが? まぁ良いけれどもさ。
「それじゃあごゆっくりー?」
「あんまり夜更ししないようにね」
「干からびない程度に頑張るのですよ?」
各々好き勝手言って去っていくスライム娘達。前者二名はともかく、ポイゾの発言は余計なお世話だ。
「これで少しは落ち着けるな」
そう言ってシルフィが長椅子の自分の隣のスペースをポンポンと手で叩くので、彼女の要求通りにそこに腰を落ち着ける。
「そうだな。まだハーピィちゃん達には会えてないが、この時間だともう寝てるし明日だな」
ハーピィちゃん達の就寝時間は非常に早い。日が落ちると同時にほぼ寝るような生活リズムなので、夕方にこちらに着いた時点でほぼ手遅れなのである。
「お父さんは大変だな。お父さんと言えば、コンラッドとエリザベスには会ってきたのだな?」
「うん、二人とも寝てたから眺めてきただけだけどな。一月も離れてないのに、なんだか一回り大きくなったように感じたよ」
「あれくらいの赤子は成長著しいからな」
そう言ってシルフィが蜜酒の入ったカップを手渡してくる。うん、シルフィとの晩酌と言えばこれだよな。あぁ、なんか久しぶりに心の底から落ち着けたような気がする。
「ん、あれ? 酒じゃなかったのか」
「ああ。ここのところ酒はやめているんだ」
カップの中身は蜜酒ではなく、醸造前の蜜そのものだったようだ。水で適度に薄めているようで、さっぱりとした味わいだ。香りは少し弱いかな?
「どうしたんだ? まぁ毎晩飲むよりは健康に良いかもしれんけど」
「ふふ、聞いて驚くなよ? どうやら私は身籠ったらしい」
「……?」
シルフィの突然の告白に思考が停止する。みごもった? 身籠った? マジで?
「本当に?」
「本当にだ。うちの魔道士にもアドル教の神官にも調べてもらったから間違いない」
そう言ってシルフィが嬉しげに自分のお腹を撫でる。赤いドレスの下に隠されているお腹はまだいつもと何も変わらないように見える。しかし、魔道士と神官が揃って子供が出来たと言うのなら、そのお腹には間違いなく新しい命が宿っているのだろう。
「凄い。凄いぞ。やったぁ……本当に良かった」
自分のお腹を撫でているシルフィの手にそっと自分の手を添える。まだ耳を当てても何も聞こえないだろうな。ああ、嬉しい。頬ずりでもしたい気分だ。
「喜んでくれて良かった」
「喜ばない筈がないだろ? この日をどれだけ待ち望んだことか……そうなると暫く出張はしないからな?」
「状況が許せばそうしたいが、そうも言ってられないだろう? この子のためにもメリナード王国のために尽力してくれ、パパ」
「お、おぉぉ……もう一回、もう一回言ってくれ」
「頑張るんだぞ、パパ」
「頑張る。超頑張る。でもできるだけ側に居させてくれ。でもそうか、だからいつもと格好が違ったのか」
シルフィがいつもの戦装束ではなくドレスを着ていた理由がようやくわかった。あの衣装は締め付けも厳しそうだし、あまり妊婦さんには良くなさそうだったものな。このドレスもコルセットでギチギチに締め付けるようなタイプじゃないし。
「そっかぁ……そっかぁ……ああ、嬉しい。嬉しいなぁ」
「そんなに喜ばれるとなんだかこそばゆいな」
シルフィがクスクスと笑い声を上げる。なんだかシルフィの性格も丸くなったように思えるな。
「もう皆このことを知っているのか?」
「身近な人達はな。具体的に言うとコースケと関係を持っている者達は知っている。あとは姉様達にも伝えた」
「そうか……こういうのって大々的に発表するものなのかね?」
「平時ならそうするべきだろうが、今はまだ聖王国とも微妙な状態だからな。暫くは伏せておくべきだろう」
「そっかぁ……まぁそれが良いかもなぁ」
これからはシルフィの身辺に今まで以上に気をつけなきゃならないな。ゴーレム技術を使ったセキュリティでも構築するか? いや、そんなのよりもライム達の方が遥かに優秀か……でも無駄にはならないだろうし、何か考えておこう。ライム達は城内の警備に関しては完璧だが、城外からの侵入に関してはそうでもないかもしれない。不審な飛行物体を発見、撃墜する対空監視システムとか構築してみようかな。
「コースケ、ドラゴニス山岳王国での話を聞かせてくれないか? 私も彼の国のことはよく知らないんだ。興味がある」
「勿論だ。ええと、どこから話そうかな?」
まずは竜騎兵の話からするべきか。それに王族達の話や、グランデに対する彼らの態度の話もしないとな。他には料理の話や、城下町で見聞きしたものの話、各国の使者たちの話もか。
話の種は尽きることなく、俺とシルフィはエルフの里から取り寄せられた花の蜜を飲みながら、遅くまで語り続けるのであった。




