第415話~帰路~
ダイイングライト2で寝不足&寝坊!( ˘ω˘ )(ユルシテ
その後、およそ三日間に渡って俺とグランデは王族とその血族たる貴族――というか家長? 族長?――達に構い倒された。
流石に若い子女達とやったほぼなんでもありの乱取り稽古みたいな真似はしなかったが、お茶会に呼ばれてメリナード王国での生活について聞かれたり、グランデの故郷である黒き森の最奥部にあるグランドドラゴンの巣について話したり、グランデにドラゴニス山岳王国の料理をただただ食べさせる会が行われたり、俺の稀人としての力を是非見せて欲しいとか言われたり……つまり、ホスカット陛下の言葉通り、ドラゴニス山岳王国の貴き方々は俺とグランデという父祖の物語と同じ関係性を築き上げている二人と縁と絆を結ぶために尽力なされたわけだ。
ちなみに、アイラや魔道士の皆さんはドラゴニス山岳王国の魔道士や錬金術師と情報交換を行ったりして過ごしており、ドリアーダや文官の皆さんはドラゴニス山岳王国との通商などについてあちら側の文官と大いに話し合っていたようだ。テッドやダルコ、魔銃兵達は交替で休息するようにと言い渡していくらかお小遣いも渡しておいた。ドラゴニス山岳王国の王都ドラッドに降りて存分に身体と心を休めたようである。
「ようやくだな」
「あやつらはまだ物足りない様子じゃったがの。いつまでも付き合っておれんわ」
魔道飛行船の艦橋でぼやく俺にグランデがクッションに埋もれながら欠伸混じりに返事をする。
「それにしてもコースケ、良かったのか? 一人か二人くらい持って帰っても良かったのではないか?」
「勘弁してくれ……これ以上誰かの人生を抱えるのは無理だ」
実は、交流を重ねている三日の間に他ならぬホスカット陛下から一人か二人、彼の血族たるドラゴニス山岳王国の貴き血筋の娘を側室に加えないかと提案されたのだ。いやいや今でもキャパオーバーしてるのに、これ以上は無理です。それにいくら王命とはいえ俺なんかに嫁ぐのは不本意であるとされる娘さんも多いでしょう、と断ったのだが、意外なことに乗り気な娘さんが多いという話で、なし崩し的に彼女達とのお茶会というか、お見合いみたいなことまでさせられたのだ。
義理もあるし、その会に参加することだけは了承したが、結局お姫様を連れ帰るようなことにはならなかった。伝家の宝刀『俺にはグランデが居るので』である。そう言われるとこの国の人は引き下がらざるを得ないのだ。
実際のところ、アイラとしては増えるならそれもまた良しというスタンスであるようだったが、現状で既に国には俺の帰りを待っている妻達がいる上に、つい最近面倒を見るべき獣人メイド達を抱えたばかりである。そちらへの対処もふわふわしている状態だというのに、新たな嫁候補とか抱えている場合ではない。
「コースケ、出港準備完了」
「了解。それじゃあさっさと帰るとしようか」
船に乗り込む際にドラゴニス山岳王国の人々とは別れを済ませてある。俺達がドラゴニス山岳王国に持ち込んだ品に対する返礼の品も船倉に満載されている状態だ。あちらとしてはこれくらいでは返礼の品が全く足りないという認識であるらしいが、これ以上は船に入りきらないので遠慮しておいた。出来心で贈ったミスリル武具の価値が高すぎるのがいけないんだ。
「ん、じゃあ出港する」
「はい、部長」
アイラの静かな号令で魔道士達が魔道飛行船を発進させる。強大な出力を誇る上昇用の大口径風魔法式推進装置が唸りを上げて船体を持ち上げ、すぐさま展開された落下制御術式が船体を安定させる。上昇用の風魔法式推進装置が最大出力で稼働するのはこの一瞬だけのことだ。一度落下制御術式が走ってしまえば、魔道飛行船の巨体にかかる重力はこの世の法則から殆ど切り離されてゼロに近くなってしまうからな。
重力を無視したような軽やかさで魔道飛行船が上昇を開始し、回頭を開始する。舳先が向かうのはほぼ真東、メリナード王国のある方向だ。
「前進開始。巡航速度」
「アイアイマム、巡航速度で前進開始します」
身体が僅かに後ろに引っ張られるような感覚がする。魔道士達の宣言通り、魔道飛行船が前進を開始したようだ。艦橋からだと基本的に見渡す限りの空って感じの絵だから、船が動いているのかどうかわかりにくいんだよな。
ドラゴニス山岳王国からメリナード王国の西の果て、ウィンデスまでは三時間と少し。ウィンデスからメリネスブルグまでは凡そ六時間だ。出港したのは朝の八時くらいなので、朝から巡航速度で飛ばし続ければ日が落ちる頃にはメリネスブルグに着くことができる筈だ。
「嬉しそうですね」
「そりゃな。帰ったらシルフィ達や子供達が待っているわけだし。今回はあまり長引かなくて良かったよ」
少しだけ不満げな表情を浮かべながらそう言うドリアーダそう言いながら思わず苦笑いを浮かべる。
前に北方二国からの侵略を撃退した時には一冬向こうにいたからな。今回はそこまで長引く要素も無かったけどな。有り得るとしたらドラゴニス山岳王国で魔道飛行船が壊れた上に、俺も何らかの原因で能力を使えなくなって立ち往生するとかか? あまり想像したくはないな。
「折角コースケくんと遠出したのにあまりイチャイチャできなくてお姉さんはとても不満です」
「仕方ない。今回は予定がびっちり詰まってたし、他人の家……城だったし」
「言うほどイチャイチャしなかったわけでもなかったと思うけど」
「そういうのではなく、もっと、こう……言わせないで?」
「アッハイ」
ドリアーダが顔を赤くして睨みつけてくる。つまりもっと物理的に絡み合うようなあれこれですね。流石にちょっとそういうのはねぇ……しなかったわけでもないけど、翌日の事とか考えるとそんなに激しくってわけにもいかなかったし。毎晩乱痴気騒ぎなんかしてたら流石に品性を疑われるというか、俺達もメリナード王国の看板背負ってたわけだしね?
「暫く私達は不利になる。やっぱり錬金薬でコースケを分裂させるしか」
「怖いからやめてね?」
アイラならどんな不思議な効果を持つ錬金薬を作るか知れたものじゃないから本当にやめて欲しい。本当に一時的に分身する薬とか作りそうだ。元に戻らなくなったりしたら大変だぞ。
そんな話をする俺達を乗せたまま、飛行船は東に向かって果てのない空を進んでいくのだった。




