第414話~帰還前の交流~
だいいんぐらいとつーたのしみだなぁ( ˘ω˘ )(短めなのは許して
そろそろ俺達も帰る時期だろう――ということでホスカット陛下にそうお伝えしたのだが。
「少し待って欲しい。建国記念祭の開催中は我々も忙しく、シンドリエル以外はコースケ殿やグランデ様と確かな絆を結ぶことができなかったのでな。荷の準備もあるので、もう数日滞在して貰えぬだろうか?」
国王陛下直々にそうやって引き留められると、こちらとしてもなかなか固辞することは難しい。しかも俺達への返礼の品を用意するという真っ当な理由までつけられるとどうしようもない。
「それがどうしてこうなっているのだろうか?」
「さぁの? ほれ、来るぞ」
「たあぁーっ!」
グランデの警告と同時にきらびやかなドレス――ではなく、質の良さそうな革鎧を身に纏った立派な尻尾を持つ娘さんが飛びかかってくる。彼女の背中には竜のような翼が生えており、更に頭には立派な角があり、もう一つ言うならその手は鱗に覆われ、更に鋭い鉤爪まで備えていた。
「ふっ」
「んぎゃっ!?」
そんな娘さんをグランデが一息で吹き飛ばす。冗談でもなんでもなく、一息でだ。まるで蝋燭の火で吹き消すような僅かな吐息に込められた力が、バットで打たれた野球ボールか何かのように彼女を吹っ飛ばしたのである。
「お? 新技か?」
「新技というほどのものではない。ブレスの威力調整なぞ難しいものではないのでな」
そう言ってグランデがドヤ顔をする。
「グランデ様のブレスを浴びた! やったー!」
そして何故か吹っ飛ばされた娘さんは何事もなかったかのように立ち上がり、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。彼女はドラゴニス山岳王国の王族――つまりやんごとなき血筋のお姫様なのだが……なんだろう。吹っ飛ばされた喜んでいるのはなんなんだろう。アレか、憧れのプロレスラーに張り手してもらったとかそういうヤツなのだろうか。
「次は僕が!」
「コースケ」
「はいよ」
革鎧に身を包み、槍と同じくらいの棒の先に布を巻き付けた模擬戦用の槍を構えて突撃してくる男の子――やはり角や翼、尻尾などが生えている――に対し、俺は手に持っていた短機関銃の銃身を向けて発砲した。サプレッサーによって大幅に銃声を軽減された短機関銃はカカカカカッと軽快な音を鳴らし、亜音速で特殊弾――スライム素材で作られたゴム状の材質――を撒き散らす。
「うあぁぁぁぁっ!?」
男の子は槍を構えて防御しようとしたが、分間四百発から四百五十発を誇る連射速度で撃ち出される弾丸を全て防御し、避けきるには彼の能力はまだ足りていなかったようだ。何発も被弾した末にもんどり打って倒れ込んだ。この特殊弾は射程が極端に短いのだが、有効射程内だと結構な打撃を相手に与える。非殺傷用として試しに作っておいたものなのだが、意外なところで役に立ったな。
「……もう少し手加減してやらんか?」
「手加減してるぞ」
手加減していなかったら亜音速で鉛玉が飛んでいくんだから大分手加減してる。実弾ならうわーで済まないからな。
「しかし交流の一環として遊んで下さい、って言われてOKしたらこれとか戦闘民族過ぎんかね?」
今、俺とグランデに飛びかかってきているのは例外なく年若い少年少女達ばかりだ。いずれも王家の血筋に連なる若き王子や王女、あるいは傍流の子女達で、例外なくその身に何かしら竜の特徴を持つ人々である。
最初はグランデだけで相手をするという話だったのだが、是非にと請われて俺も参加することになったのだ。彼らの父祖の物語と同じように竜と添い遂げようという人族に興味が湧いたらしい。
俺は渋った。相当に渋った。俺はか弱い一般市民めいた存在で、とてもではないが武術を収めた竜の子孫達に勝てるわけがありませんと。しかし俺が小国家連合の護衛を一方的にボコった話はとっくに伝わっており、その言い分は通らなかった。他にも俺の武器は手加減がしにくいだとか、万が一それで彼らを傷つけたり、最悪死に至らしめたりした場合には取り返しがつかなくなるだとか、思いつく限りの抵抗をしてみたのだが、結局こうして相手をすることになってしまった。
「行きますっ!」
「ほい」
「ぶへぁっ!?」
模擬戦用の武器を構えて突っ込んできた新たなる挑戦者の目の前に石壁を設置して激突させる。
「ふん」
「ぐえーっ!?」
俺の背後を突くような形で忍び寄ってきていた挑戦者がグランデの尻尾(カバー付き)に吹っ飛ばされる。
「なぁ、これ楽しいか?」
「「「すごくたのしい!!!」」」
「ああ……そう」
キラキラした笑顔を向けられると何も言えない。そして、そんな俺達を大人の王族やその傍流の貴族達が大変に微笑ましいものを見るような顔で眺めている。良いんですか、お父さんお母さん。貴方達のお子さん、俺達にぶっ飛ばされてますよ。あとそこの石壁に激突した子、鼻血出てるよ。
「もういっかい! もういっかい!」
「ブレス! グランデ様、僕にもブレス撃って!」
「ふむ、ブレスを喰らいたくば妾にブレスを使わせるほどの技の冴えを見せるんじゃな」
「わかりました!」
「いくぞー!」
態勢を整えた若き挑戦者達が再び立ち向かってくる。仕方がない、次はショットガン用のスライムスラッグ弾でも試すか。容赦がない? いや、囲んで木の棒で叩こうとしてくる相手に容赦のしようがないから。俺は彼らと違ってか弱い人の身なんだよ。当たりどころが悪いと死ぬんだぞ。
だから俺は! 容赦をしない!
「ぐはぁっ!?」
横っ腹にスライムスラッグ弾を食らった男の子が吹っ飛んでいくのを見ながら、俺はポンプアクションを行ってショットガンに次弾を装填した。おらぁ! かかってこいや!




