第413話~勝利の美酒~
PONPON! PAIN!_(:3」∠)_(お腹でも冷やしたかな
今回の討伐は負傷者こそ出たものの死者はゼロ。討伐目標は問題なく討伐され、巣も破壊。それに各国の観戦武官達に我が国の武力も見せつけることができたということで、まぁ成功と言って良いだろう。
で、今は戦利品を味わっているのだが。
「かった。かたい。かたくない?」
「噛み切れない」
フライングバイターの肉を1cm厚くらいのステーキにして焼いたものを食っているのだが、これが硬い。牛タンを更にもう一回り硬くしたような肉質で、噛み切るのが一苦労だ。ナイフで一口大に切っても顎が疲れてくる。
「私もちょっとキツイですね」
「私はこれくらいの肉の方が好きですが」
俺と同じくヒューマンであるテッドはキツいという評価。多腕族のダルコはイケると。基本的に肉体派というか肉食系の獣人には好評で、俺やテッドのようないわゆる普通の人間やアイラのような単眼族など、獣人系ではない亜人や、獣人は獣人でも草食系獣人には不評であるようだ。
「ああ、もっと薄く切ったのは丁度良い塩梅の噛みごたえで良いな」
「スープに入っている煮込まれた肉は美味しいですよ」
ステーキ肉ではなく薄切り肉の塩焼きはそれこそ牛タンみたいで美味しいし、ドリアーダが食べているスープに入っているフライングバイター肉は同じ肉なのかと疑いたくなるほど柔らかい上に良い出汁が出ているようだ。この肉はスープにするのが正解なのではなかろうか?
「別に普通じゃろ?」
グランデは分厚いステーキ肉をブチブチと噛み千切っている。流石はドラゴンの牙だ。硬い肉なんてなんともないぜ。そして分厚いフライングバイター肉を噛み千切っているグランデに各国の獣人やリザードマン達が称賛するような視線を向けている。なんだろう。君達は硬い肉を噛み千切る事ができる人物に敬意を持つような文化でもあるのかね?
「しかし、随分とデカいフライングバイターが多かったよな」
「魔物の調査も完璧ではない。あのコロニーには10m超えの個体が沢山いたし、20m超えの個体までいた。帰ったら報告書を書く」
こうして魔物に関する知識が世界に蓄積されていくのだろう。もしかしたら今まで報告されていた個体は巣から飛び立った若いはぐれ個体とかだったのかもな。
「コースケ殿、此度は本当に助かった。まだ生き残っていた個体や巣から出ていた個体などが出現する可能性はあるが、残党の掃討は我が国の戦力で問題なくこなせるだろう」
「こちらにも思惑があってのことだけど、感謝の言葉は素直に受け取っておくよ。掃討が終われば海へのアクセスが容易になるんだったか?」
改めて礼を言ってきたシンドリエル王太子に問いかけると、彼は至極真面目な表情で頷いた。
「ああ、そうだ。海側にも我が国の集落がいくつか存在していて、海産物や塩を生産している。今までは飛竜でも片道二日がかりであった行程が半分で済むようになるだろうし、通行も安全になるだろう」
「なるほどなぁ……陸路では行き来していないのか?」
「無論、行き来はある。しかし今まではフライングバイターの襲撃などもあり護衛の数も多くせざるを得ない状況であったので、陸路での輸送はあまり効率の良いものではなかったのだ。それも今後改善するかもしれないな」
なるほど。空路でも陸路でも交通が面倒な場所だったのが、今後は便利になるだろうという話だったわけか。フライングバイターの巣が破壊されて、あの一帯から居なくなったなら宿場町なんかを新しく作って国内流通の中継地みたいにすることも可能かもしれない。それで陸路で十分な量の塩や海産物を運べるようになれば、今まで西の海方面に割いていた空輸能力を他に回すこともできるようになるわけだ。案外今回の西方面へのルートを打通させるっていう作戦はドラゴニス王国の国家戦略上重要なものだったのかもしれないな。
「それじゃあ目的も果たしたし、俺達は近日中に国に戻ることにするよ。国に残してきた女王陛下が恋しいからな。子供達の顔も見たいし」
「子供達? もう世継ぎが?」
「女王陛下との子供じゃないんだけどな。まぁ色々あるんだよ、俺にも」
大体手を出しているというか手を出されている俺であるが、強く拒否をしたわけでもなく結局は流されて関係を持ってしまっている以上、俺にも多分に責任があるのは確定的に明らかである。一人一人に対して可能な限り真摯に向き合い、かつ俺自身も楽しんで生活を送っていくのが最善の道だろう。義務感や責任感だけの関係なんて上手くいくはずもないからな。
何かを感じ取ったのか、シンドリエル王太子はそれ以上は何も聞かずに俺のグラスにそっと酒を注いでくれた。イケメンは察する能力も高いよな。精神までイケメンかよ。
「ならば帰りには我が国が誇る各国との交易の成果を山程持ち帰ってもらおうか。あの大きな船なら荷物を積む余裕はあるだろう?」
「お土産まで頂けるとはありがたいね。いずれ魔道飛行船を使った交易なんかもしたいもんだが、いつの話になるのやら。課題が山積みで頭が痛いよ。聖王国とも一時休戦になっただけで、色々解決したわけじゃないしな」
「ふむ、聖王国か……アレはいつまで保つか怪しいものだがな」
「ああ、まぁそれはそうだが、変な壊れ方をされると困るんだよな。隣国としては」
いつまで保つか、というのはつまりメリナード王国征伐に失敗して大きな被害を出した結果、国内の統治体制に問題が出てきているということなのだろう。元々亜人を奴隷として酷使することによって国を回してきた国家だからな。俺達メリナード王国との戦いで多くの兵力――主に亜人奴隷を管理する側の人間の兵士や騎士――を失った結果、亜人奴隷の反乱を抑える力が相応に衰えた筈なのだ。
しかも、メリナード王国の征伐に関しては向こうとしては楽勝ムードであった筈なので、俺達の反撃によって大きな被害を受けることは計算外であっただろうし、更には実質的な属国であった北方二国による侵攻も完璧に防がれた上に逆撃まで食らっている。現行の統治体制の求心力はガタ落ちであろう。
更に追い打ちをかけるように聖王国内部の反乱勢力に対してメリナード王国は食糧や武器の供給といった支援を秘密裏に行う予定だし、当然ながら聖王国を挟んで反対側に存在しているヴァリャーグ帝国も同様の工作を行っていることだろう。
このさじ加減が難しい。聖王国にはどんどん弱ってほしいが、やりすぎて変な死に方をされると一気に暴力が全てを支配する修羅の国になりかねない。そうなると、隣国としては大変に困るわけだ。なんだかんだでデカい国だから、国家の体制が崩壊したら大量の難民が発生するだろうし、そうなると聖王国からメリナード王国にも大量の難民が流入しかねないからな。当然、中には盗賊化する連中もいるだろうし、治安の悪化は避けられなくなるだろう。
もっとも、うちの場合は俺が働けば飯だけは多分食わせられるだろうし、住む場所や仕事もやろうと思えば作れるだろうから、打つ手が完全に無いわけではないんだが。開拓村を作って難民を放り込むってのが解決法なのか? と問われると俺も苦しいけど。でもまぁ故郷を失った人々に衣食住と新しい故郷と仕事を同時に与えるとなると俺の頭じゃこれくらいしか思いつかないんだよな。アイラやメルティ、ドリアーダなら何かもっと冴えた答えを出せるのかもしれないけど。
え? シルフィ? シルフィはどっちかと言うと脳筋枠だからね。うん。俺と同じレベルだと思います。
「まぁ、暗い話はやめておこう。今日は勝利と未来に乾杯しないとな」
「それはそうだな」
シンドリエル王太子の盃にも酒を注ぎ、盃同士を軽く打ち合わせて改めて乾杯する。
これで今回の親善訪問も終わりか。シルフィ達の顔を見るのが待ち遠しいな。




