第409話~終盤戦へ~
予想外のアクシデントで早起きさせられて寝不足気味( ‘ᾥ’ )
「危なげない」
「そうだな」
最初の迎撃を成功させ、更にその後二度の迎撃を行った。二回目は同じくらいの数のフライングバイターが襲いかかってきたが、今度は一匹も抜けずに迎撃しきった。まぁ、迎撃されて絶命したまま甲板まで突っ込んできたのが一体居たが。そして今しがた迎撃が終わった三度目の戦闘は一回目、二回目より数が少なくなっていた。
「どうやら巣の周りにいるフライングバイターの数が減っているらしい」
「ん、順調」
ダルコによって魔道伝声管で伝えられた情報をアイラに話すと、彼女は特に表情を変えず、しかし満足そうな雰囲気を醸し出しながら頷いた。
敵が無限湧きするゲームじゃあるまいし、大量に駆除すればそれだけ数が減る。道理だな。しかし本当にフライングバイターはもう打ち止めなのか? という点に関して確かめるのはなかなかに難しい。まさか人員を突入させて調査するわけにはいかないからな。
ならばどうするのか? と言われると一応考えはある。
「もう少し減ったらハーピィさん達に小突いてもらおう」
「ん」
小突く(爆撃)である。少々刺激的なノックになるだろうが、ハーピィ用の航空爆弾でノックされたら巣の中に籠もっている連中も出て来ざるを得なくなるだろう。いくら小突いても出てこなくなったら、いよいよ魔道飛行船で奴らの頭上に乗り付けて魔道飛行船用の航空爆弾で奴らの巣を更地にしてやるのだ。
「何にせよ、まずは釣れなくなるまで敵を釣り出すのが先決だな」
「ん。慎重にやるに越したことはない」
「タイムリミットがあるからあんまり悠長にもできないけどな」
タイムリミットとはつまり、竜騎兵達が駆る飛竜達の活動限界時間のことである。彼らの乗る飛竜は生き物だ。つまり、長時間飛んでいれば疲れもするし、お腹も空く。魔道飛行船は乗組員が生きていくだけの食糧と水が続く限り飛んでいられるが、飛竜はそうも行かないというわけだ。彼らは帰りの行程も飛ばなければならないので、それだけの余力を残してこの場を去る必要がある。
「最悪、後始末はこっちに任せてもらって先に帰って貰うしか無いだろうな」
「ん」
巣から湧き出るフライングバイターが打ち止めになった後なら竜騎兵の直掩は必要がなくなる。彼らとしては口惜しいだろうが、何にせよ無事に帰り着くのが先決だろう。その時には涙を呑んで撤退してもらう他あるまい。
☆★☆
散発的な襲撃を迎撃すること更に三回。すでにその数は十匹に満たないほどに落ち込んできており、そろそろ彼女達の出番であった。
「行ってきまーす!」
「気をつけてな」
航空爆弾で爆装したハーピィさん達が次々に飛び立ち、竜騎兵にエスコートされてフライングバイターの巣へと飛び立っていく。
「そら、ハーピィさん達に小突かれたフライングバイターどもが怒り狂って突撃してくるかもしれんぞ。迎撃準備だ」
「「「アイアイサー!」」」
俺と一緒にハーピィさん達が飛び立っていくのを見送っていた魔銃兵達がキビキビと迎撃準備を整え始める。そんな魔銃兵達を横目に、観戦武官達は魔道飛行船の左舷側に集まってフライングバイターの巣を眺めていた。
「距離感が掴めんな。どれくらいの距離なのだ、これは」
「ふむ……そうさな、風が良ければ帆船で四半刻くらいか。かなり近いぞ」
「今までの更に三倍くらいは来なければ我々の出番は無さそうだな」
君達はどれだけ戦いに飢えているんだよ。揃いも揃って戦闘狂か何かなのかね? うちの兵士連中でもここまで好戦的なのはそうそういないぞ。お国柄みたいなもんなのだろうか。
「始まったな」
竜騎兵とハーピィさんが飛んでいった山の中腹――ゴツゴツとした岩場の辺りで土煙のようなものが上がるのが見えた。航空爆弾が炸裂したのだろう。一発目の土煙を皮切りに、次々と岩山の中腹に砂煙びようなものが立ち上り、その表面が目に見えて削れていく。そして遠雷のような音が連続で聞こえ始めた。航空爆弾の炸裂音が遅れて届いたのだ。
「おぉっ!?」
「岩山が砕けているぞ!」
「十人程度のハーピィであのような破壊を引き起こすのか……」
「あの威力では帆船などひとたまりもないな……」
ただただ驚く連中がいる一方で、冷静に航空爆弾の威力を分析しているのもいる。どうも言動から察するに、北方にあるという海洋国家の観戦武官みたいだな。どれくらいの大きさの船を運用しているのかはわからないが、ハーピィさん達が扱っている航空爆弾は石製の城門や城壁すら砕く威力がある。木星の帆船ではまず耐えられないだろうな。というか、魔化された木材で作られているこの魔道飛行船でもハーピィさんが装備している航空爆弾をまともに食らったらひとたまりもない。
「おっと、湧いてきたな」
巣を攻撃されたことに怒ったのか、結構な数のフライングバイターが岩山のあちこちから飛び立ち始めたようだ。だが、思ったより数は居ない。意外と数は少な……いや、巣に着く前に討伐した分も合わせればすでに百匹以上のフライングバイターを討伐している。奴らは結構身体の大きな魔物だし、ここから見えるのが一つのコロニーと考えれば空を飛べる成体が百匹程度というのは割と現実的な数字なのかもしれない。
「さぁ、正念場だぞ」
ショートカットからアサルトライフルを取り出し、構える。艦橋の指揮はアイラに任せてきた。一回くらいは俺も魔銃兵達と一緒に戦っておこうと思ったのだ。実際に戦闘の現場に立たないと気づかないことなんかもあるかもしれないからな。まぁ、戦うとは言ってもフォローに回るくらいで、積極的にフライングバイターを撃ち落とそうというつもりではないんだけども。戦うことよりも、現場を見て何か改善点が無いか見るのが俺の仕事だからな。




