第408話~快勝~
若干頭痛がペイン。多分例の気圧変化ではなく肩こり( ˘ω˘ )
雷撃砲三門の斉射によって多くのフライングバイターが撃墜されたが、それでも魔道飛行船の左舷側には多数のフライングバイターがひしめいていた。パッと見では三十弱といったところだろうか。
一斉に襲いかかられるとかなり危ない数に思えるが、残念ながらフライングバイターどもはそれどころではなかった。ある個体は雷撃砲の余波で視覚や聴覚をやられ、ある個体は絶命せず、墜落はしないまでも雷撃によるダメージでその場に留まるのがやっとという状態、そしてある個体は音と光、そしてボトボトと墜ちていった仲間の姿に怯んだのか、逃げようとしている。つまり、敵軍総崩れといった状態であった。
「怯んでいるぞ! 撃てぇっ!」
「撃ちまくれ!」
当然、その隙を逃すテッドとダルコではない。彼らの指揮の下、魔銃兵達がフライングバイターどもを釣瓶撃ちにし始める。
「意外と怯むな。ワイバーンは雷撃砲を食らっても結構向かってきたもんだが」
「あの出力の雷撃を受けて向かってくる魔物はそういない。ワイバーンは腐っても亜竜。空飛ぶ大蛇でしかないフライングバイターとは比べ物にならない」
「なるほど」
俺が想定していたよりフライングバイターはかなり弱い魔物であるらしい。というか、ワイバーンを基準に考えていたのがおかしかったのか。
「何匹かは抜けてくるかと思ったんだがな」
「雷撃砲が上手く当たった。竜騎兵達が上手く誘導したように見える」
「一回見ただけで雷撃砲の攻撃範囲を把握したのかね? だとしたら大したもんだなぁ」
眩しすぎて殆ど何も見えない筈だけどな。竜騎兵恐るべしといったところだろうか。
「お、突撃してきたぞ」
「何匹か抜けそう」
破れかぶれにでもなったのか、それとも魔物としての殺戮本能が恐怖やダメージを乗り越えさせたのか、五匹ほどまで数を減らしたフライングバイターが魔道飛行船へと突っ込んできた。魔銃兵達がそれを阻止すべく銃撃を浴びせたが、いくら魔銃の威力が高くても速度の乗った魔物の身体を押し返せるほどではない。結果、二匹のフライングバイターが甲板へと飛び込んできた。
「おっと、こいつは大変だ」
ショートカットからアサルトライフルを取り出し、いつでも撃てるように構える。二匹のうち一匹はすでに絶命しているようだが、もう一匹は傷つきながらもまだ健在みたいだな。
「あ」
「当然そうなる」
巨大な鎌首をもたげて周囲を威嚇したフライングバイターであったが、素早く飛びかかった複数の影にその身体に刃を突き立てられ、あるいは切り裂かれて殆ど抵抗することもできずに絶命することになった。
「ふはは! 一番槍は頂いた!」
「何を言う、一番槍はメリナード王国の面々だろうが」
「あの武器では誰が一番槍かわからんが」
「海の上と違って足元が揺れないから楽なものだ」
「……海以上に船から落ちたら助からんがな」
活躍の場を今か今かと待ち受けていた観戦武官達の行動は大変に早かった。早かったのは良いんだが、君達自分の任務覚えてる? 武功を挙げることじゃなくて俺達の戦闘を見学するのが君達の仕事だからね? もしかして揃いも揃って脳筋ばかりだったりするのだろうか。
「コースケ」
「だな。死体片付けてくるわ」
そう言って俺は艦橋から甲板へと降り、フライングバイターの死骸をインベントリに収納しに行くことにした。
「あー、何度嗅いでも慣れるもんじゃないな」
濃密な血の臭いがガツンと脳髄に響いてくる。ここまで濃いと香るとかそういうレベルじゃないんだよな。こりゃ後で甲板を掃除するのが大変そうだ。
「はいはい、死体を回収するからちょいと通してな」
念の為アサルトライフルを手に持ったままフライングバイターの死骸に近寄り、観戦武官達が仕留めた方の死骸をインベントリへと収納する。フライングバイターの巨体が突然消えたことに観戦武官達が驚きの声を上げるが、魔銃兵達は慣れたものだ。
「ふむ……」
死んでいることを確認してからもう一体の魔銃兵達が仕留めた方の死骸を検める。見たところ、魔銃兵の銃撃は何の問題もなくフライングバイターの鱗と表皮を貫通し、身体に甚大なダメージを与えているようだ。胴体部分を掠めた弾丸も鱗と表皮を引き千切ってダメージを与えているので、どう当たってもダメージを与えられるほどにフライングバイターの防御力は低いらしい。
まぁ、低いと言っても比較対象がワイバーンなので、比べるのが間違いと言われればそうなのかもしれないが。
「銃撃の効果は問題ないようだな」
「はい。やはりワイバーンよりかなり脆いようですね」
いつの間にか近くに寄ってきていたテッドも俺と同様に魔銃がフライングバイターの身体に与えるダメージについて確認したようだ。続いてダルコも二名の連絡員を伴って近寄ってくる。
「閣下、このまま次の群れを誘導してよいかと問い合わせが来ています」
「問題無さそうだな。補給に要する時間も見計らって次の群れを誘引するよう伝えてくれ」
「了解」
少なくとも、同規模の群れであれば問題なく捌けそうだ。仮に同じ数のフライングバイターが飛んできたら、次は抜けられることなく撃墜できることだろう。あくまでも雷撃砲による攻撃がうまく決まればという条件付きだが。
「雷撃砲が振るわなかった場合は乱戦も予想されるから、兵達の気を引き締めておけよ。二回うまく行ったからって三回目が上手くいく保証は無いんだからな。あと、雷撃砲が要だから雷撃砲に何か異常が見られた場合にはすぐに報告するように。左舷側のが駄目になっても右舷側の雷撃砲だってあるんだからな」
「承知」
仮に十匹以上のフライングバイターが抜けてきても甲板に乗り込んでこられるフライングバイターの数は最大でも六匹か七匹くらいだろうが、その他のフライングバイターは魔道飛行船本来を攻撃してくる可能性がある。魔道飛行船の船殻は主に魔化された木材で作られているのでそこそこ頑丈だが、フライングバイターの攻撃にどれだけ耐えられるかはわからない。最悪、船を壊されて墜落なんて事も有り得る。それだけは絶対に避けたい。
後は雷撃砲だが、連続でバンバン撃つとたまに壊れるんだよな。どうも入力する魔力量が多いせいで何度も使用すると魔道回路が過熱を起こして焼き切れるらしい。ソレル山地での訓練中に発覚した不具合なのだが、流石に今回の旅には間に合っていない。一応信頼性を高めた次世代型を研究開発部で研究中である。
「回収したフライングバイターはグラッドに戻ったら丸焼き……はデカすぎるから、輪切りにでもした豪快に焼いてもらうか」
長さ15メートルから20メートル、胴回りはアイラよりも太い大蛇である。さぞかし食いでがあることだろう。美味いかどうか知らんが。そういえば肉の味については聞いていなかったな。あとでアイラに聞いてみるか。




