第406話~再進軍~
天気が悪すぎるとどうにも筆が進まない_(:3」∠)_
「見事なものだな」
「そうだな。驚異的だ」
「チッ、出る幕がなかった」
「落ちなければそれでいい……」
魔道飛行船と魔銃兵による迎撃戦闘の結果は観戦武官達の目にも明らかだったらしい。つまり圧倒的な勝利というやつである。まだ前哨戦の段階だが、これでうちの魔道飛行船が飛ぶだけのハリボテなどと言われることはあるまい。
「こちらにも友軍にも損害なし。完全勝利です」
「ご苦労さん。まぁ、今のは小手調べみたいなもんだ。本番では倍以上の数に群がられる可能性もあるから、油断せずいこう」
「はっ」
戦闘報告をしにきたテッドにそう言っておく。上手く今くらいの数を竜騎兵達が釣りだしてきてくれれば良いんだが、しくじって倍どころか三倍、四倍の数を釣りだしてくるかもしれないわけで。そうすると敵の数がこちらの迎撃能力を上回って取り付かれる恐れもある。そうなると威力の高すぎる魔銃は使いづらくなるのだが……既にその問題は解決済みだ。
要は威力と貫通力が高すぎるのが問題なので、通常の椎の実型の弾丸の他に弾頭部をすり鉢のように凹ませたホローポイント弾を作ったのだ。遠距離での命中力はだいぶ落ちるが、近距離戦で使う分には何の問題もないし、対象の外皮さえ貫通できれば甚大なダメージを与えられる。何より敵の身体を貫通し難くなるのが良い。それでも貫通する時はするんだけど。
魔銃は装薬を魔法で代用したライフルド・マスケットのようなものなので、細かく性能を調整するとなると装薬の代用である爆発魔法を発生させる尾栓部分を改良するか、弾頭に細工をするかしか無いんだよな。口径を変えるとなると銃身を作るラインから整備するというか、製造ラインそのものを新しいものにする必要があるし。まぁ、新型の連発式魔銃も開発中だから、そのうちラインの再構築は必要になるんだけども。
「引き続き対空警戒を行いつつ前進だ。第三種戦闘配置は継続」
「「アイアイサー」」
操舵手を務める魔道士さんと通信手を務める魔道士さんが俺の指示に返事をして各自必要な操作を行い、魔道伝声管で通達事項を伝える。緊急時には俺が直接魔道伝声管で指揮を執るが、通常時は通信手の魔道士さんに丸投げだ。
「フライングバイターは素材としては使い勝手はどうなんかね?」
「牙は鋭くて大きいから加工して刃物にされたり、飾り物にされたりする。皮革も割と丈夫で使い勝手も悪くない。魔物だから魔石も取れる」
「なるほど? そうなると、撃ち落としてそのまま放置ってのもちょっともったいない気がするな」
「仕方がない。回収のしようがない。この高度から落下したんじゃ死骸もぐしゃぐしゃ」
「それもそうか。魔道飛行船で着陸しようにもどうにも地形が良くないしな」
この辺りは高低差の激しい岩山で、魔道飛行船を着陸させるとなると俺が降りてかなりの広範囲を整地してスペースを作らなければならないだろうな。仮に岩山の頂上を整地して着陸したとしたも、そこからフライングバイターの死体がある麓までどうやって降りるのかという話になるし、そもそも岩山と言っても木々が生えていないわけでもないので移動するのも一苦労だろう。死体の回収は明らかに労力に見合わないか。
「都合よく船上に落ちて来たのを回収するくらいだな」
「ん、それしかない」
今回の作戦ではフライングバイターの巣の制空権を確保したら魔道飛行船とハーピィ爆撃部隊による徹底的な爆撃で巣を破壊する予定なので、巣に落ちた死体の回収も難しいだろうと思われる。
魔銃部隊を突入させて制圧することも考えたのだが、リスクにリターンが見合わないので取りやめた。欲を出して出さなくても良い死傷者を出すのは阿呆のやることだ。
そうして更に飛ぶこと一時間弱。合計で三時間と少し飛んだ辺りで竜騎兵から連絡が入ってきた。
「間もなくフライングバイターの縄張りだそうです」
「そうか、それじゃあ各員第二種戦闘配置。本艦は予定通りフライングバイターの縄張りにギリギリ踏み込んだ空域で待機し、竜騎兵が釣りだしてきたフライングバイターどもを迎撃して数を減らす。対空監視を厳にしろ」
「「「アイアイサー」」」
環境に詰めている魔道士さん達が一斉に返事をして各々の作業に取り掛かり始める。
「あと、今のうちに交替で小休止しとけ。戦闘に入ったら暫く小用も足せなくなるかもしれんぞ」
「コースケ」
「大事なことだろ。それで集中できなかったり、我慢の限界を迎えて決壊とかしたら大変じゃないか。それともおむつでもするか?」
いたい。俺はとても真面目に言っているのに何故かアイラにペシペシと叩かれた。まぁ艦橋にいるのは殆ど女性だし、デリカシーの無い発言だったかもしれない。でも大事だと思うんだよ、こういうのは。
「わかった。俺が悪かった。俺は甲板の見回りに行ってくるから、ここは任せたぞ」
「ん、わかった」
あんなことを言った後に男の俺が居てはお花摘みにもいけないだろうから、ここは気を遣ってクールに去るとしよう。え? そんな気を遣うくらいなら最初から変なことを言うな? アレは変なことではない。敢えて空気を読まずに明け透けに発言しただけだ。




