第404話~離陸、出陣~
あけましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします_(:3」∠)_(当たり前のように遅刻
出発当日。俺によって拡張工事が為された飛竜の離着陸場では簡単なセレモニーが執り行われていた。
「此度の討伐は我がドラゴニス山岳王国とメリナード王国が肩を並べて戦う記念すべき――」
と、今回の総大将を務めるシンドリエル王太子殿下がピカピカの鎧を着たまま熱弁をふるっている。ドラゴニス山岳王国の竜騎兵や竜騎士達はその演説を真面目に聞いている。俺も一応立場があるので真面目に聞いている。内心はそんなことよりも早く行こうぜと思っているが、立場があるからそれを表に出すことは出来ない。
「とっとと行かんのか?」
「グランデ、しー」
俺に寄っかかりながらスライム素材製尻尾カバーのついた尻尾で地面をベシベシと叩いているグランデをアイラが注意している。グランデはいつでも泰然自若……いや傍若無人だな。
そうこうしている間にシンドリエル王太子の演説が終わり、出発することと相成った。竜騎兵や竜騎士だけなら騎乗して出発するだけなのだろうが、今日は彼らだけでなくうちの試作型魔道飛行船とその乗員達、として小国家連合の観戦武官達も同行することになる。
「このデカいのが飛ぶのか……」
「着陸するところを見たがなかなか信じられんな」
「落ちないだろうな……?」
「なんだ、怖いのか?」
ガタイの良い完全武装の観戦武官達が魔銃兵に案内されて続々と乗り込んでいく。その数は全部で三十人ほどだ。うち七割程度が小国家連合に属する国々の観戦武官で、残り三割ほどがドラゴニス山岳王国が飛竜便で招聘した遠方国家の観戦武官である。聖王国や帝国の人員は居なかったが、北方の海洋王国やメリナード王国から遥か北東に位置する砂漠の王国、その更に東に位置する草原王国から来た人々だ。まぁ、人々と言っても殆どが亜人種で、人間は二割も居ない。
「やっぱりこの世界では亜人種の方が強いよなぁ……」
観戦武官の数がこの世界における人間の優勢度を如実に表している気がする。こういう現実を見ると、聖王国の人間至上主義的な考えもある種の防衛反応なのかなと思わなくもないんだよな。この世界の亜人は基本的に人間よりハイスペックだからな。身体能力においても魔法的な素養に関しても基本的には人間より優れている種族が多いし、寿命なども長い種族がいる。少なくとも人間より極端に短命な種族というのは今のところ聞いたことがない。
まぁ、あまりにハイスペックな種族は代わりに増えにくいだとか、食糧問題が付きまとうだとか繁殖に関するデメリットも多いようだけど。
「ご主人? どうしたの?」
「お腹痛いの?」
「いいや、なんでもない。さぁ、出発するか。戦闘中は船の中に隠れてるんだぞ」
「「うん」」
犬獣人双子メイドのルナとラナの頭を撫でてやりながら戦闘中の行動について注意しておく。獣人メイドの半数と文官達、それにドリアーダは王都ドラッドに居残りである。
建国記念祭のお祝い品や本日の出征に必要ない分の物資などを吐き出したおかげで積載重量には余裕があるが、わざわざ非戦闘員を乗せて戦場に行く意味もない。獣人メイドの半数が乗っているのは一応俺のお世話と兵達の食事の準備を手伝うためという理由だ。食事に関しては俺がこっそりインベントリ出すという手もあるのだが、それでは運用の訓練にならないので今回はやらない。
しかしアレだな。魔道飛行船にはちゃんとしたキッチンも用意があることだし、乗組員の数も多い。搭乗する兵員の中から当番制で炊事をさせるのもアリだが、場合によっては専門の乗員を乗せるのもアリかもしれんな。何せ乗員の数が数だから片手間で作るには量が多すぎる。専門の特技兵に指揮を執らせて当番制で一般兵に手伝わせるのが良いかもしれん。毎回獣人メイドを乗せるわけにもいかんしな。メリナード王国に戻ったらテッドとダルコ、それにアイラも交えてそのへんを話し合うとしよう。
☆★☆
「おお! 飛んだぞ!」
「なんというか、当然のように浮かび上がるな……不思議だ」
「ううむ、不安定さも全く無い。船体の軋む音も聞こえんな。これはいい仕事をしている船だ」
「……落ちないだろうな」
「その時はその時だろう」
甲板で観戦武官達が賑やかに騒いでいる。暫くしたら希望者以外は船室の方に移動して貰う予定だ。甲板はフライングバイターに直接狙われる恐れがあるからな。俺が今いる艦橋には強固な装甲屋根があるし、防御用の結界も張られるからわりかし安全だが、甲板にはそういった防御設備が無い。何せそんなものを張るとこちらからも対空攻撃ができないからな。タイミングを見計らって簡単にオン・オフができる防御結界装置なんかも開発したほうが良いかもしれんね。
「とりあえずは竜騎兵の誘導についていく方向で」
「ん、了解。魔力反応がわかりやすいから簡単」
魔道飛行船には魔力を検知するパッシブ魔力レーダーと、魔力波を放射して跳ね返ってくる魔力を検知するアクティブ魔力レーダーの両方が搭載されている。近くを飛んでいる竜騎兵の魔力反応を追っていくだけなら真っ暗闇の中でも問題ない。
「ダルコ、こちらコースケ。竜騎兵との連絡は大丈夫そうか?」
『はい、こちらダルコ。搭乗している連絡員と行動を共にしていますので大丈夫です』
「了解。何かあちらから連絡があったらこちらに回してくれ」
『了解』
竜騎兵同士が空中で連絡を取り合うためのサインを読み取り、こちらからも送信できる人員をドラゴニス山岳王国から二人預かっている。竜騎兵の見習いらしいが、能力に不足はないという話なのでそこは信頼するしかないな。
「当船は王都グラッド発、フライングバイターの巣行き。快速特急です。途中下船の際は落下制御魔法をお忘れなくご安全に」
「なにそれ」
「乗船アナウンスのような何か」
「途中下船なんてしたら死ぬのでは?」
アイラに突っ込まれて俺がした返答に魔力パッシブレーダー担当の魔道士さんが更に突っ込んできたが、笑顔で誤魔化しておいた。ちょっとした気の迷いなので許して欲しい。