第402話~軍議開始前~
年末なのでだらけています_(:3」∠)_(だらけるな
翌日、午前中にシンドリエル王太子から連絡があり、昼食を摂りながら軍議ということに相成った。
「優雅に昼食を取りながら軍議ねぇ。やっぱりどこもこんな感じなのかね?」
「今回は指揮系統の違う二つの軍の合同作戦。親睦を深めるのも大事」
「なるほど」
本日はフライングバイターの巣をうちの魔導飛行船とドラゴニス山岳王国の飛竜兵達との合同で掃討するということで、その打ち合わせのための軍議である。俺とアイラはその打ち合わせのために魔銃隊の小隊長であるテッドとダルコを伴って会場へと向かっていた。
「昨日はそっちにもちゃんと料理が回されていたのか?」
「えぇ、料理だけでなくお酒も届けられました」
「見たことのない料理ばかりでしたが、美味かったですね」
流石に俺達と全く同じ料理が出されたわけじゃないだろうが、見たことのない料理ばかりだったということはドラゴニス山岳王国の地元料理が多数届けられたということか。もしかしたら城下町から買い上げた料理も含まれていたのかな。まぁ俺達だけでなく兵達もしっかりともてなしてくれたということだな。後でシンドリエル王太子にお礼を言っておこう。
「トラブルは無かったか?」
「はい、何も。非番の者は宿舎で飲み食いしていましたし、そうでないものは魔導飛行船の警備に当たっていたので。他の国の護衛達の宿舎と我々の宿舎は離れているようでしたし、ドラゴニス山岳王国の兵は親切でしたから」
「なるほど。なら良い。念を押しておくが、魔銃の管理は怠るなよ」
「はい、それはもう。非番の兵は必ず魔導飛行船の武器庫に魔銃を保管してから下船することにしていますし、分隊ごとに管理係を置いて更に我々がチェックしているので抜かりありません」
「予備を含めて私の部下にもチェックさせているから大丈夫」
「トリプルチェックしているなら大丈夫だな」
ダブルチェック、トリプルチェックも全く同じ項目をチェックさせるとあまり意味がなかったりするから気をつけないといけないんだよな。
例えば一から十まで順番通りに収納してあるか、という項目を三人にチェックさせると二人目とか三人目が前の人がヨシって言ってるからヨシ! とかやりかねない。トリプルチェックさせるなら一から十まで順番通りに収納してあるか、収納箇所に空きが無いか、収納されている品が別物であったりはしないか、とか三人それぞれに別項目をチェックさせるとミスを減らせる。
まぁ、その分手間はかかるんだが……今の所、魔銃の技術流出だけは絶対に起こしてはならないからな。手間がかかってもやってもらう他ない。
銃身や部品の加工精度や小規模の爆発魔法を発生させるコア部品のコピー難易度の問題でそう簡単に模倣できるようなものでもないが、この世界の技術レベルで製造可能な銃であることには変わりない。水車動力やゴーレム動力の旋盤が無いと一つ一つ名工の手を使った一品物の手作りになるだろうから、うちみたいに大量配備するのはかなり難しいだろうけど。
「あの……?」
「コースケはたまにこうやって突然黙って考えに耽ることがある。気にしなくていい」
「人を変人みたいに言うのをやめないか」
アイラは俺の抗議をガン無視した。どうやらこの件についてはあとでゆっくり話し合う必要があるようだな。そんな頻繁に急に黙って考えに耽ったりしてないし。してないし!
☆★☆
指定された部屋に着くと、既にそれなりの数の人数が集まっていた。まだ全員が揃っているわけではないし、特別遅刻したというわけでも無さそうだ。
「メリナード王国の皆様はこちらへ」
ドラゴニス山岳王国の兵に案内されて横長のテーブルの中央辺りに案内される。恐らく対面にドラゴニス山岳王国の軍関係者が座るのだろう。
「なんだか微妙に視線を感じるな」
「気にしなくていい」
俺に対してはともかく、どうもアイラやテッド、ダルコを侮っているような気配を感じる。まぁアイラの見た目は少女と見紛うような小柄な単眼族だし、筋肉ムキムキマッチョマンに比べたら弱そうに見えても仕方がない。それはわかるが、体格の良いテッドや戦闘に長けるとされているらしい多腕族の女性であるダルコにまでそういう視線が向けられているのは何故だろうか。
「飛行船に乗ってきたから舐められている」
「なるほど?」
「我々は魔物の蔓延る参道を歩いて上がってきたわけじゃないですからね」
「気にすることはないでしょう。個人の力はともかく、集団戦なら私達は負けませんから」
テッドは本当に気にしていないようだが、ダルコはそう言いつつも明らかに半ギレである。もし喧嘩を吹っかけられても応じるなよ? 魔銃を使えば一対一の戦闘でも一撃で決着が着くだろうけど、俺の銃よりも更に手加減が利かないんだからな? 口径15mmの魔銃で人族なんぞ撃とうものなら四肢は千切れ飛んで胴体に大穴が空いて、下手すりゃ上半身と下半身が一撃で真っ二つだからな? 近距離に限れば下手な対物ライフルより威力があるんだぞ、魔銃は。
そんな事を考えているとカルータス殿の他、数名の軍関係者らしき者達を付き従えたシンドリエル王太子が会場へと入ってきた。
「待たせたな。揃っているようなら軍議を始めたいと思うが」
そう言ってシンドリエル王太子が会場内の顔触れを見渡し、一つ頷いて席に着く。どうやら全員揃っているようだ。
「それでは軍議を始めよう。本格的な食事は軍議が終わってから運ばせる」
そう言ってシンドリエル王太子が合図をすると、会議場に待機していた兵士達が飲み物を配り始めた。流石にノンアルコールであるらしい。
「ん……?」
供されたお茶を一口飲んでみると、なんだか懐かしくも馴染みのある風味であった。黒き森やメリナード王国領で一般的に飲まれているお茶は所謂ハーブティー的なものであったが、このお茶は緑茶に限りなく近い風味を感じる。ドラゴニス山岳王国の特産品だろうか?
「どうしたの?」
「いや、美味しいお茶だと思ってな」
「そう。これは高山で育つテアという木から採れるお茶」
「故郷で飲んでたお茶に近いんだ」
「ドラゴニス山岳王国の特産品。後で譲ってもらえるように言っておく」
「そうだな、そうしよう。俺も一緒に頼みに行くよ」
意外なところで意外な発見をしたことを喜びつつ、シンドリエル王太子の進行を待つことにする。
さて、どんな話が飛び出すかな。聞いた話からいくつか攻略法は考えてあるが、実際にフライングバイターを相手取っているドラゴニス山岳王国の意見も聞いてみたいところだ。