第401話~宴の終わりと打ち合わせの打ち合わせ~
空は暗いし寒いしおかげで眠くなるし集中力が続かない……_(:3」∠)_(リハビリ中だからゆるして
各国の挨拶攻勢も終わり、ドラゴニス山岳王国が手配した様々な見世物を楽しんでいるうちにいつしか陽は沈み、宴の会場に明かりが灯され始めた。実は事前に聞いていたのだが、本当に朝から晩まで宴を続けるらしい。
「……凄まじいタフネスだな」
「ん、部屋でゆっくりしている方が楽な身には辛い」
「ここまで長いのは珍しいわよ」
流石に疲れ果てた俺達は宴会場の隅に用意されている衝立で区切られたスペースに避難していた。やはり長時間の宴なだけあって途中で俺達のように疲れてくる人も出てくる。そう言った人達のためにこういったスペースも用意されているらしい。
「グランデは大丈夫だろうか」
「心配いらない」
「心配し過ぎだと思います」
俺が心配しているグランデはまだまだ色々食べたいということで一人で本会場に残っている。ドラゴニス山岳王国の人が歓待してくれるということだったので、任せたのだ。
本人も「子供ではないのだから心配無用じゃ」と言っていたので送り出したのだが、何せグランデだからな……誰か事情を知らない奴がグランデに突っかかってとんでもないことになったりしないか不安だ。竜であることを疑われてそうかそうかなら証明してやろうとか言ってブレスなんぞぶっ放した日には大惨事である。いや、ブレスまで行かなくとも強大な土魔法でも大惨事だし、それどころかあの頑丈な爪や尻尾を本気で振るうだけでも大惨事だ。
あの小さいがゴツい手の爪も尻尾も見かけ倒しなどではなく、本気で振るえばそれは人間サイズの竜の一撃に他ならない。爪の一撃は容易に人体どころか金属製の鎧を引き裂くことができるし、尻尾の一撃は魔力で強化された石材をいとも容易く砕く。俺にこの前絡んできたライオン頭なんぞ軽く骨を砕いた上で宙を舞わせるほどの威力を発揮するだろう。
「あー、なんか頭回らん。明日から何するんだっけ」
「魔物退治」
「ああ、なんだっけ。空飛ぶでかい蛇だかワニだか」
「フライングバイターね。ちょっとお酒が周り気味かしら?」
「そうかも」
挨拶攻勢に来る度に人のグラスに酒を注いでいきやがってあいつら。急性アルコール中毒で死んだらどうしてくれるんだ。というかこの世界に来る前の俺ならとっくにぶっ倒れている量を飲んだ気がする。絞られて枯れて死にそうになっても復活し、バジリスクの毒を肝臓に食らっても生きているくらい生命力が上がっているからな。酒にも強くなっているのかもしれん。
そんな事を考えていると、でかい皿に食い物を満載にしてグランデが戻ってきた。その後ろには苦笑いを浮かべている王太子殿下と、み物を運んできたリザードメイド達もいる。
「戻ったぞ」
「また随分と持ってきたなぁ」
「山盛り」
「流石にその量は無理では」
「残ってもコースケにとっといてもらうからええじゃろ」
そう言ってグランデはテーブルの上に皿を置き、自分で座る位置をずらしたドリアーダと俺の間に収まって大皿の上の料理を手づかみで食べ始める。幸い、ドラゴニス山岳王国の宴ではスプーンやフォークなどを使わずに手掴みで食べられる料理が非常に多いので、グランデでもこうして問題なく食べられる。
「ご迷惑をお掛けしなかったかな?」
「グランデ様のお世話をするのは我々ドラゴニス山岳王国の民にとっては名誉なことなので、気になさらず。それよりもグランデ様にご不快な思いをさせて申し訳ない」
「ん? 何かあったのか?」
「酔った招待客の一人がグランデ様に絡んでな。幸い、私がすぐに気づいたので事なきを得たのだが」
「わからせてやっても良かったのじゃがな。まぁ、暴れてコースケに迷惑をかけるのも良くないし、酔っ払った雑魚をいたぶっても得るものも何もないしのう。祝いの場を血と臓物で汚すのも無粋というものじゃろうし」
「グランデ様に心からの感謝を……」
シンドリエル王太子が本気のトーンでグランデに感謝している。グランデが暴れたら宴会どころじゃない大惨事になること必至だし、色々な意味で建国記念祭にケチつくことになるからな。そりゃマジにもなるだろう。
しかしグランデに絡む、ねぇ。余程の使い手――それこそメルティ並みの猛者でもないと勝ち目は無いだろうな。シルフィも強いという話だが、流石に武器を使わないステゴロではグランデには敵うまい。レオナール卿やザミル女史でもミスリル武器無しで対抗するのは不可能だろう。そういう意味では武器がなくても魔法で戦えるアイラならなんとかなるのだろうか? いや、いくらアイラでもグランデはどうにもならんような気がするな。事前に準備でもして魔法的な罠にかければなんとかなるのかもしれんが。
「グランデが許すなら俺からは特に何も言わないけど」
「ちんちくりん呼ばわりされて多少はカチンと来たがの。まぁ酔っ払いのいうことじゃから許そう」
そう言いながらグランデが何かわからない肉のローストを手掴みで口に運び、もぐもぐとやり始める。美味そうだけど、もう満腹なんだよな……。
「寛大な対応、誠に痛み入る」
「気にするな。お主が悪いわけでもない話であるしの。折角の宴なのじゃからお主も座って飲み食いするが良い。ここなら妾達だけじゃから気楽にしても誰も文句は言うまいて」
そう言ってグランデがシンドリエル王太子に席と食事を勧める。ふむ? グランデが食事を共にしようとする辺り、シンドリエル王太子とはそれなりに打ち解けたみたいだな。俺もシンドリエル王太子の人柄は好ましいと思っているし、グランデが信頼するなら信用しても良いのかもしれない。
「フライングバイターの巣を叩きに行く計画でも軽く話すのはどうかな。この様子だと明日すぐにってことにはならないだろうし、予定は早めに立てておきたい」
「確かに。酒の席には無粋かもしれないが、そうしておいた方が後々良いだろうと私も思う」
「細かい話は素面の時に改めて話し合うとして、その素面で話し合うのをどのタイミングにするかだけ決めておくとしよう」
酒の入った頭で考えた作戦を実行するのは流石にどうかと思うからな。とりあえず、明日の午後以降にでも話し合いの場を設けるとしよう。テッド達にも出席するよう話を伝えておかないとな。