第039話~進むべき道は?~
とりあえず、今この砦にいる面子には俺が現時点で作り終えている武器の類を全て公開することにした。ここにいる面々は今後のメリナード王国解放戦において、俺の作る先進的な武器を直接運用するか、間近で見ることになる面子でもあるからだ。今度、里で留守番をしてもらっているダナンやメルティ、アイラやキュービ達にも見せないといけないな。
各々、実に様々な反応をしてくれた。基本的に武人と言うよりは兵であるジャギラやピルナには好意的な反応を。兵というよりは武人であるレオナール卿やザミル女史には否定的な反応を返された。
「いや、どれもこれも凄いな。こんな武器を全員が持ったら向かうところ敵なしなんじゃないか?」
「この航空爆弾というのは凄いですね! 空から一方的に攻撃できるのは物凄いことだと思います」
こんな感じだ。単純に、強い武器に喜んでるって感じだな。強い武器を持てば敵を沢山倒せるし、自分の生存率も上がる。兵としては嬉しいだろう。
「なんというか……武威や武人の誇りも何も無いのであるな」
「鍛え上げた肉体も、磨き上げた技も、コースケ殿の武器の前では紙切れのようなものになりますね」
二人とも非常に微妙な表情をしている。バリスタや拳銃くらいまでは良い。超人的な身体能力と磨き上げた技を持つ二人にとっては対応できる範囲の武器らしい。いや、それも凄いと思うけどな?
だが、対人地雷やショットガン、旋回砲はどうにもならない。二発や三発程度の銃弾や、高速で飛んでくるバリスタの矢ならどうにかなるが、一度に無数の弾丸や金属片が飛んでくるといくらなんでもどうしようもないそうだ。
大丈夫だと言い張るから実際に自動拳銃でレオナール卿を撃ってみたのだが、全弾両手のファルシオンで切り払われた。なんだよお前アニメのキャラか何かかよ。
「視線と銃口を見れば弾が飛んでくる軌道は大体読めるのである」
「銃弾は早くて小さいですが、達人が放つ至近距離からの突きに比べればなんとかなります」
「うーん、まぁ、拳銃くらいならなんとか……?」
ジャギラも頭を捻りながらも同意している。マジか。
「まぁ、拳銃ならなんとかなるな。ボルトアクションライフルの弾は早すぎて至近距離では無理だが」
「マジで」
シルフィもあっち側だった。いや、そんな気はしてたけどさ。
「うーん……俺のやろうとしている武器の方向性、間違ってるんだろうか……?」
「いや、間違ってはないと思うけど。コースケの作る武器が強いものであるのは間違いないと思う」
「そうですよ、ハーピィ用のこんなに強力な武器なんて見たことないです」
ジャギラとピルナは俺の言葉を否定するが。
「吾輩はやはり人間向きの武器だと思うのである。発想は良いというか、優れた武器であるのは間違いないのであるが、これなら人間が持っても我輩達が持っても同じであるな」
「そうですね。我々の強みは全体的に人間よりも身体能力に優れるという点です。あの手投げ弾というのは良い武器だと思いましたね。我々なら人間よりも遠くに投げられます。少し軽すぎると思いましたが」
レオナール卿とザミル女史は辛口のコメントである。シルフィは? というと。
「私が心配なのは、もしコースケの武器が聖王国に奪われた場合だな。すぐに模倣されるということはないと思うが、同じ武器を聖王国の連中が使い始めると手がつけられなくなりそうだ」
「む、確かに鹵獲は怖いな」
鹵獲品からリバースエンジニアリングされて地球の殺戮兵器がこの世界で使われてしまうのは非常に不味い。いつかシルフィにも言ったが、兵器の知識というのは非常に危険なものだ。
クロスボウなら鹵獲品からの模倣は簡単だろうし、銃と爆弾に使われる火薬に関してもこの世界独自の物質だとか、魔法的な方法で解決されてしまう可能性はある。なんせ魔法と錬金術がある世界なのだ。
鑑定魔法みたいなもので解析されて、錬金術で錬成されて、なんて流れが無いとも言えない。
「む、むむむ……」
「コースケ殿がうなり始めたのである」
「ああなると長そうだな。あたしは畑を見てくるよ」
「あ、私も行きます」
ジャギラとピルナが畑のほうに歩いていくのを見送りながら考える。
まずは勝ち取らなければならない。そう思って俺は人を効率的に殺傷できる武器を考えてきた。勝ち取り、奪い返すためには力が必要だからだ。
だが、俺の発想で作った武器というのはそもそもが地球の人間が人間同士で殺し合うために作ったものである。当然ながら人を効率的に殺傷することに特化している武器だ。もちろん、使い手も人間を想定している。だが、殺傷対象は兎も角として、使い手は亜人だ。亜人の使いやすい武器、という方向性で見直しをするべきか?
いや、でも結局鹵獲されると不味いという点はクリアできないな。うーん……そもそもの発想を逆転する必要があるのだろうか?
そもそもの発想というのは、つまり俺が武器を作った目的だ。さっきもシルフィと話したじゃないか、殺すことだけじゃなく、救う方向に目を向けていかなくちゃならないって。
今までに作った武器というのはメリナード王国を奪還するために、聖王国の軍をやっつけなきゃならないという発想のもとに作ったものだ。つまり、武力行使による領土奪還だよな。試しにここの発想を逆転させてみよう。
つまり、メリナード王国を戦って奪い返すのではなく、他の方法を模索してみるというわけだ。
直接的な武力行使以外の方法ねぇ……うーん?
発想を逆転させるとなると、メリナード王国を戦って奪い返すのではなく、話し合いで返還を求めるとか?
いや、無理だろう。聖王国は狂信的な一神教の宗教国家だ。しかも亜人に排他的な思想の。話し合いで解決するならそもそもメリナード王国に攻め込んで属国化なんてするはずがない。却下だ。
じゃあ、メリナード王国の奪還を諦める? いや、それはどうだろう。故郷を取り戻したいというシルフィ達の思いは切実だ。目標としてのメリナード王国奪還は必須事項だろう。
ぐぬぬぬ……と、考えていると、ジャギラとピルナが慌てて戻ってきた。
「あの畑すごいな! もう収穫できそうなくらいに育ってるぞ!」
「あんな畑があればオミット大荒野に住めそうですね。水もありますし」
「それだ!!」
そうだ、オミット大荒野に新生メリナード王国を作れば良いんじゃないか? 俺なら安全な住居と道をいくらでも作れるし、畑だって農地ブロックを使えばいくらでも作れる。収穫だって早い。
いつまで促成栽培ができるのかはわからないが、もし時間と共に効果が落ちたとしても普通の畑よりも悪くなるということはないだろう。
オミット大荒野に砦を作り、道を作り、街を作り、国を作る。そして聖王国の支配下で苦しんでいる亜人達を集めて、国力を増す。きっと聖王国の連中も黙っていないだろう。それは開発した兵器で撃退する。そして最終的にメリナード王国の領土を併呑する。
気の長い話だが、メリナード王国の奪還を急がなくてはならないという状況でもないはずだ。メリナード王国が属国化されてから随分と時間が建っているし、ダナン達が反乱を起こしたのも数年前の話だ。だからこそ一刻も早く、という意見もあるだろうがこれだけ時間が経っているならその逆もまた然りだろう。
そもそも、俺のクラフト能力は明らかに攻めよりも守りに向く能力なんだよな。
「コースケ、何が『それだ』なんだ?」
「いや、皆に同意を得られるかどうかわからんのだけどな」
と前置きしてジャギラとピルナの言葉で閃いた思いつきを皆に話していく。すると、皆も俺の発想になるほどという顔をした。
「ふむ、悪くない考えだと思うのである。我輩達は数が少ない。コースケ殿の武器で戦には勝てると思うのであるが、実のところ占領した街や土地を維持するのは難しいと思っていたのであるな。オミット大荒野で態勢を整え、味方を募って数を増やすというのは理に適っていると思うのである」
「メリナード王国やその周辺国に潜伏している亜人も多いことでしょう。彼等にシルフィエル姫殿下の無事と、オミット大荒野を開拓しているという事を伝えられれば人が集まってくる可能性はありますね」
「でも、そうすると聖王国だって黙っちゃいないんじゃないかな?」
「そうしたらそれこそコースケさんの武器を使って撃退すればいいんじゃないですか?」
俺の思いつきはシルフィ以外の面々には概ね好評のようだった。ではシルフィはどうか、というと。
「……私は、一刻も早くメリナード王国を奪還したい」
シルフィの絞り出すような声に、賛成ムードだった場の空気が一気に冷え込む。
だよな、シルフィはそうだよな。恐らく、シルフィの親族のエルフ達は聖王国の連中に奴隷とされて、今この瞬間もその尊厳を蹂躙され続けているのだ。一刻も早く奪還したいという気持ちは理解できる。
「だが、コースケの案が現実的だろうな。我々は数が少なく、あまりに弱い。コースケに頼って力を手に入れ、聖王国の連中に死を振り撒いたところで先が無い。そういうことだな? コースケの力は万能ではない。豊富な資材を元に攻めている間は良いが、守勢に回って資材の補充ができなくなったら終わりだものな」
「そうだな。俺の能力は何もないところから便利なものをいくらでも取り出せる能力ではない。物資が尽きた俺は普通の人間よりもちょっと妙な動きができるだけの一般人だ」
実際、数を頼りに四方八方から攻められ続けたら早々に物資が尽きて詰むという可能性は高い。そして俺の力を頼りに戦っていたシルフィ達の戦闘能力も激減するだろう。そうなれば数で劣るシルフィ達になす術はない。蹂躙されるだけである。
「わかった、その方針で行こう。我々はオミット大荒野に拠点を作り、力を蓄える。だが、ただそれだけでは足りないと私は思う。メリナード王国に潜入し、民衆をオミット大荒野に引き入れる工作が必要だろう」
「それはそうでありますな。聖王国の軍も王都や大きな街はともかくとして、小さな村にまで大戦力を配備しているということはありますまい。村々を訪れ、同胞を解放して新天地に導くことは必須であると我輩も思うのでありますな」
「メリナード王国に潜伏している人間の同胞もいるはずです。彼等は亜人に比べれば比較的安全にメリナード王国内を移動できます。我々がオミット大荒野に拠点を築いているという情報を方々に拡散してくれるでしょう」
シルフィの打ち出した方針にレオナール卿とザミル女史も同意する。ジャギラとピルナも頷いている。
「俺もその方針に賛成だ。潜入のための装備も考えたほうが良いな」
迷彩服とか、迷彩マントみたいなものとか、荷物を大量に運べるバックパックとかだろうか。携帯型の浄水器とか、保存の効く携行用の糧食なんかも役立つだろうな。
あと、メリナード王国に近い位置に発見されにくい地下シェルターなんかも作ったほうが良いかもしれない。一時避難場所兼物資の備蓄場所だな。他にはライフル用のサプレッサーなんかもあれば良いだろうか……? いや、クロスボウで十分かな? ジャギラとかキュービの意見が欲しいな。
「また何かいろいろ考えている顔をしているな、コースケ」
「そうだな。潜入用の装備とか、敵に見つかりにくそうなシェルターづくりとか色々考えてるよ」
「人を殺すための武器を考えている時よりも良い顔だぞ」
「そうか? そうかもな」
人を効率的に、大量に殺す武器を考えるよりも確かに気は楽だな。救出作戦は基本的に人任せになりそうだし。俺は拠点の整備と拡張をしなくちゃならないもんな。
新たな目標と確固とした方針が出来て良かった。まだダナン達には相談してないけど、きっと同意を得られるだろう。アイラにも色々と相談したいし、畑の収穫を終えたら一度里に戻るとしよう