第398話~街歩きの終わり~
マニアワナカッタ……_(:3」∠)_
異国情緒溢れる城下町の賑やかさを十分に堪能した俺達は露店で土産物などを買い込んで城へと戻ることにしたのだが。
「いやぁ、降りてきた分登るのは大変だなぁこれ」
「あまり大変そうに見えませんが……」
自分の足で真っ当に坂道を登っているシェンがなんとも言えない表情を俺に向けてくる。俺の場合、坂道や階段と認識している場所ならコマンドアクションでスイーっと滑るように登れちゃうからね。自分の足を動かす必要もないし疲れもしないので大変に楽である。歩く歩道にずっと乗っているようなものだからな。若干周りから奇異の目で見られている気がするが、気にしてはいけない。
「お土産も買い込みましたね……」
「俺のインベントリに入れておけば邪魔にもならないし、温かいものは温かいまま保存しておけるからな」
インベントリには買い占めにならない程度に買い込んだドラゴニス山岳王国のお祭り料理が詰め込まれていた。肉料理に使われている肉は山羊肉が多く、それと同じくらいに多かったのはモルモットくらいの大きさの大型のネズミのような生き物が多かった。クイとかクエと呼ばれていて、なかなかに可愛い見た目の名前の動物である。
そんな山羊肉やクイ肉がスパイスやハーブで味付けされて串焼きや丸焼きにされていて、食べてみるとこれがなかなかに美味だったのである。流石に金をばらまいて根こそぎ買い上げるような真似は大人げないので自重はした。
他にはメリナード王国ではあまり見ない獣の毛皮や、手触りの良い毛織物なども売り出されていたのでそれらも購入した。こちらもメリナード王国ではあまり見かけないものが多く、標高の高いドラゴニス山岳王国で寒さを凌ぐために作られているだけあって大変に保温性に優れる品だった。これから生まれてくる赤ちゃんの産着に良いかもしれない。
宝石や鉱石も売られていたが、これらのものは俺がいくらでも採取できるのでスルー。ただ、銀細工や金細工は見事なものが何点かあったので、購入した。加工精度の高いものやデザインに関してはうちの研究開発部に所属している細工師や彫金師にとって興味深い研究対象となるだろう。
「しかし、私達のような者にこんな高価な銀細工など本当によろしかったのですか……?」
ビャクがそう言いながら首元に手をやる。彼女の首元にはなかなかに瀟洒な作りの銀細工が光っていた。シェンの首元にもデザインの違う首飾りが同様に光っている。
「俺直属のメイドがアクセサリの一つもつけていないのは逆に舐められるんじゃないか。まぁドリアーダにダメ出しされたら、その時はプライベートの時にでも使ってくれれば良いさ」
お留守番をしている獣人メイド達にもちゃんとお土産として買ってきてあるので、二人だけズルい、みたいなことにはならないだろう。ちなみに、アイラとグランデ、そしてドリアーダ用には銀細工ではなく金細工の装飾品を買ってきてある。アイラはシンプルにネックレス。グランデには角飾り、ドリアーダにはイヤーカフを買ってきたのだ。この世界には角を持つ種族が結構いるから、角飾りってのもなかなかにメジャーなアクセサリなんだよな。
「そういうものでしょうか?」
「そういうものということにしておこうね。俺がそう言ってるからヨシ! の精神で行こう」
何せ俺は一国の女王の王配様である。見ようによっては一国のナンバー2みたいな立ち位置だ。それくらいの権力があれば勝手な主張をして配下のメイドを着飾らせるくらいわけもなかろう。権力を笠に着て好き放題してやるぜフハハ。
☆★☆
「むぅ、私もついていけば良かったわ」
城下町から帰ってきてその様子をドリアーダに伝えると、彼女はそう呟いて唇を尖らせて見せた。
「でも坂道がなかなかにキツかったぞ」
「その時は抱っこして運んでくれるわよね?」
「がんばる」
ここでそれは辛いとか言い淀むこと自体が危険のような気がしたので、即座に短く返事をしておく。まぁ、俺も地球に居た頃よりは遥かに力が強くなっているし、女性一人抱えて歩くくらいなんてことないだろう。多分。
「ふぅむ、これはなかなか。なかなかじゃのう……」
なお、グランデは俺が城下町の露店で買い込んできた金銀の装飾品を一つ一つ矯めつ眇めつしながら目をキラキラさせている。地属性のグランドドラゴンは土を掘り、岩を砕いて住処を作る。その際に出てくるキラキラした宝石や金属――特に金や銀を溜め込む習性もあるらしく、そのグランドドラゴンのご多分に漏れずグランデもキラキラとした金銀財宝が好きだったりする。
「ううむ、やはり人族の作る宝飾品というのは天然の金銀や宝石には無い輝きというものがあるのう。これこそ人族の叡智というやつじゃな」
「グランデにはお世話になっているから、今度そういうのをたくさんプレゼントしような。専用の宝物庫も作って飾ったりしたら良いんじゃないか?」
「おお! それは良いのう! 城に帰ったら絶対じゃぞ!」
「わかったわかった」
メリネスブルグの王城には空き部屋も沢山あるし、ライム達がいるからセキュリティも万全だ。聖王国による略奪で宝物庫もほとんど空っぽという話だし、一国の宝物庫の名に恥じない量の財宝をでっち上げて入れておくのも良いかもな。緊急時にはそこから財物を持ち出すようにすれば良いだろうし。
「ただいま」
と、談笑しているとアイラが俺達に割り当てられている客室に戻ってきた。なんだか少し疲れた様子だな。
「講義が大変だったのか?」
「ん、それなりに。再生薬の作り方の指導をいちからすることになった」
長椅子に座っている俺の前までぽてぽてと歩いてきたアイラがそのままの勢いで俺に抱きついてくる。どうやら随分とお疲れの様子だな。
「城の錬金術師の腕が今ひとつだったのか?」
「そういうわけじゃないけど、ここの錬金術師に伝えられている再生薬のレシピが私の持っているレシピと違った。その内容の違いをいちから検証して、どっちのレシピを使って作るか決めるのに時間がかかった」
「なるほど。確かに昔グランデと同じように人化していたドラゴンが居たなら、その血を使った再生薬やら何やらの独自レシピがあってもおかしくないのか」
「そう。ドラゴニス山岳王国に伝わっているレシピは作成時間が短い代わりに竜の血の運用効率に劣る。三の血から二の再生薬を作るようなもの。私の持っているレシピは作成に時間がかかる代わりに二の血から三の再生薬を作る。手間と時間はかかるけど、素材消費量的には有利」
「なるほど。時間と手間をかけても問題ないならアイラの持っているレシピの方が良いわけか」
「そうなる。それを検証するためにはレシピの全貌を知る必要がある。でも秘伝のレシピだからという話になって揉めた」
「ああ……それは面倒な話になるわね」
「最終的には王太子を呼ぶことになった」
長椅子に這い上がって俺の膝に頭を落ち着けたアイラが大きな目を半目にしながら呟いた。なるほど、よほど揉めたんだな。そりゃ疲れるわ。
そんな話をしながら寛いでいると、扉がノックされた。入室を促すと、入ってきたのはリザードウーマンのメイドさんである。一刻――つまり二時間後に晩餐会を執り行うので、是非出席していただきたいという流れであった。本日は建国記念祭の前夜祭にあたる宴を開催するらしい。
「それじゃあ身支度を整えて行くとしますかね」
「ん、お腹すいた」
「まだ二時間あるからなぁ……我慢だな」
「ん、頑張る」
あまりにお腹が空いて辛いようならアイラには果物か何か出してやるとしよう。