第397話~城下の様子~
間に合……わなかった!_(:3」∠)_
「テーマパークに来たみたいだ。ワクワクするなぁ」
「てーまぱーくですか?」
「聞き慣れない言葉ですね」
缶詰と即席麺を使った昼食会を終えた俺は獣人メイド達の中から狐獣人のビャクと馬獣人のシェンをお供にして、ドラゴニス山岳王国の王都ドラッド散策へと繰り出していた。
ドリアーダは街歩きは苦手ということで不参加。アイラは魔導飛行船の調子を見るのと、グランデの血を使った再生薬について質問をしたいというドラゴニス山岳王国の王族からの依頼で、ドラゴニス山岳王国の錬金術師に講義をするということで同じく不参加。
そういうわけで、獣人メイドをお供にして俺だけで街並みを散策することになったのである。ドラゴニス山岳王国からは護衛をつけると言われたのだが、不要と言って俺達だけで出てきたのだ。
見るからにメイドですという二人を引き連れて歩く俺は誰がどう見てもそれなりの地位を持つ人間だというのは一目瞭然で、建国記念祭を明日に控えた今日この日に出歩いている見慣れない者ということであれば他国からの来賓だということはある程度頭の回るものなら理解できる。そんな連中にちょっかいをかける人などそういない。見えている地雷――こっち風に言えば『寝ている竜の尻尾』みたいなもんである。
「しっかしアレだ。坂道と階段が多いな。しかもやたらとカクカク曲がってるし」
「岩山に張り付くように作られた街ですから、致し方ないかと」
「階段をあまり長く作らずにすぐに曲げて踊り場にしているのは滑落防止なのかもしれませんね」
「あぁ、なるほど」
長い階段とか坂道だと一度転げ落ちたら一番下まで真っ逆さまだものな。しかも基本的に石というか岩製の階段や坂道だから、普通の人間だと下に着く頃にはかなりスプラッタな状態になっていそうだ。
山で滑落すると性別の判別もできなくなるくらいよくわからない何かになるらしいって聞いたことがあるんだよな……周りに散らばってる装備を見てああ、これは滑落者の遺体なのかってわかるとかなんとか。そりゃ高速で岩肌に叩きつけられ、擦りつけられ続けるんだからそうもなる。
「つまり安全対策ってことか」
「それでもこの距離の石段を落ちたらただでは済まなさそうですけれど……」
「皮膚が強い爬虫類系の獣人なら軽傷で済むかもしれませんね」
よく見ると階段を降りていった踊り場の突き当りは家屋の壁なのだが、その手前には低木を刈り込んだ植え込みが備えられていた。もしかしたらクッション代わりなのかもしれない。石の壁に叩きつけられるよりは随分とマシだろうな。
「気をつけて歩こうな……それにしてもなかなかに賑やかだな」
「そうですね。やはり建国記念祭を明日に控えているからでしょう」
シェンが周囲に視線を向けながら頷く。坂や階段の多い街並みはドラゴニス山岳王国の国旗や、色とりどりの布で作られた飾りで大変に賑やかな様子であった。それにしても布ね? こういう祭りの時には紙で作った提灯とかを使うイメージだけど、ドラゴニス山岳王国では紙の生産があまり多くないのかね? まぁ植生が豊かな環境とは思えないからなぁ。
「振る舞い酒や振る舞い料理が供されているようですね」
「そうみたいだな。ふん? 城では各国の酒やワインなんかが飲まれていたようだけど、城下では違う種類の酒が振る舞われているみたいだ」
振る舞い酒や料理や供されている場所に近づいてみると、既に酒が回っているらしい住人に声をかけられた。
「やぁ、異国からのお客人かな?」
「ああ、城の方に滞在していてね。城下の賑わいを実感したくて見学してるんだ」
「佳き日を共に祝ってくれるなら異国のお客人でも大歓迎だ。さぁ、振る舞い酒を味わってくれよ」
そう言って彼が周りの人に声をかけ、木製のカップに入った褐色の濁り酒のようなものを用意してくれる。
「ありがたく頂くよ。ビャクとシェンも頂くと良い」
「ええと……はい」
「頂きます」
酸味が効いているな。酒精も感じられるが、そんなに強くはない。ブドウジュースっぽく感じるが、ブドウではない……と思う。何が原料なんだろうか?
「何のお酒だろうな?」
「うーん、わかりませんね」
「ワインのような渋みはあまり感じられませんね」
次に供されたのは何かの葉で包んで蒸された『ちまき』のような料理だった。甘くて、スパイスも効いていて刺激的だ。だが、この料理を食べて思い当たる作物があった。
「トウモロコシか。酒もこの料理で使っているのと同じ穀物から作っているんじゃないか?」
「おお、そうだよお客人。我が国ではこのコルヌが主食なんだ。こうして料理にも使うし、酒もコルヌで作る」
「なるほどなぁ」
そういえば、南米のアンデス山脈の辺りでは古くからトウモロコシが多く栽培されていたんだっけ。ドラゴニス山岳王国も山岳地帯に築かれている王国だから、同じようにトウモロコシ系の作物がよく利用されているのかな? ここではコルヌと呼ばれているようだ。
振る舞い料理を楽しませてもらったお返しにメリナード王国産のエールを三樽ほど提供し、その場を辞することにした。何もない場所から大きな酒樽を三つも取り出したのには驚かれたが、魔法的なアレだということで誤魔化しておく。酔っ払っているのもあってか、はえー、魔法ってすっごい。みたいな反応で済んだ。
「酒精が弱めで良かった」
「そうですね」
「あの蒸し料理は美味しかったですね。城の料理人に聞けば作り方を教えてもらえるでしょうか」
どうやらシェンはコルヌの包み蒸し料理が気に入ったようだ。メリナード王国でもトウモロコシは栽培していたと思うけど、大体粉に挽いて薄焼きパンの材料って感じだったからな。ああ、でもトウモロコシは種によって用途が明確に別れているイメージがあるんだよなぁ。家畜用の飼料として使われる種は人間が食べても全く美味しくないみたいな話を聞くし。
「後で城に戻ってからそういう用途に合う品種の種を譲ってもらえるか聞いてみような」
「はい」
思い出したことをシェンに伝えると、彼女は素直に頷いた。
「水とかはどうしてるんだろうな?」
「魔法で補っているか、雨水ではないでしょうか?」
ビャクが視線を向けた先、家屋の屋根には水のタンクらしきものや集雨装置らしきものも見える。
「集雨装置かぁ。あれはなぁ、短期的には良いんだけど、虫や鳥の死骸や糞が怖いんだよなぁ。どこかにろ過装置があるか、あるいは飲料水じゃなくて生活用水として使っているのかもな」
もしかしたらあのタンク自体にろ過装置が備え付けられているか、魔法的な処理をしているのかもな。高価な浄化魔法の装置を各戸につけているとも思えないし、もしかしたらタンクに何らかの魔法術式を刻印してあるのかもしれない。
「多分そんな事を気にせず飲料水として使っているのではないかと」
「簡単な濾過と煮沸くらいはしてると思いますけどね」
「えぇ……胃腸強いなぁ」
元開拓民の二人は割とたくましい意見であった。まぁ、この世界だと多少腹が痛くなっても魔法なり錬金薬なりもあるわけだし、割とその辺無頓着な可能性は確かにあるな。俺の作る無限水源は常に水が流れ続けるあんまりその辺は気にしなくていいんだけどね。
「しかし賑やかで良いなぁ。いつかメリナード王国でもこんなお祭りを開けると良いんだが」
「そうですね、私もそう思います」
「これから、ですね」
メリネスブルグを取り返した日か、或いは聖王国との休戦協定を結んだ日を記念日としてお祭りをするのも良いかもしれないな。メリネスブルグに帰ったらシルフィとメルティに相談してみるとしよう。
原稿作業のためにまた少々お休みを頂きます( ˘ω˘ )(ユルシテネ!