第396話~試食会~
ぎりぎり間に合った( ˘ω˘ )
「うーん、まぁこんなものですよね」
「俺は悪くないと思うけどなぁ」
「十分美味しい」
昼食は俺達が持ってきた缶詰やインスタント食品にアレンジを加えて調理されたものが振る舞われることになった。舌の肥えているドリアーダ的にはナシ寄りのアリという評価で、俺的にはアリ寄りのアリ、アイラとしてはアリという評価である。
「ふぅむ、美味いか不味いかで言えば美味いか?」
「宮廷で出すレベルの料理ではないな」
「だが、火と鍋があればどんな場所でもこれが食えるのだろう? 画期的ではないか?」
「年単位で保存も効くそうだぞ」
「コスト次第では備蓄食とするのも良さそうだが、穀物のまま保存するのと比べるとどうかな」
「過酷な任務を行う前線の兵の士気を維持するには良さそうだ。輸送にも耐えるそうだしな」
同じく俺達の持ってきた缶詰やインスタント食品を口にしている各国使節の反応も様々だ。絶賛するほど美味というわけではないが、これが年単位で保存できて長距離の輸送にも耐えるだけの耐久力があるという点は驚異的だと判断されているようである。所謂貴族的な人物よりも前線に出た覚えのある軍人などからの評価が高いようだ。
「これはつまみに良い」
「悪くない。いや、良いな」
なお、昼間から適度に砕いた即席麺をそのままボリボリと食いながら、冷えたビールやワインを飲んでいる飲兵衛の連中も観測された。ちなみに飲兵衛達曰く、相性は冷えたビールが最高。次点で白ワインが合うそうだ。なるほどね?
「こちらのカンヅメとやらも悪くない」
「調理されたものは全体的に味が濃いから酒のつまみに良いな」
「確かに晩酌に良いかもしれんな。だが料理人に作らせれば良いのではないか?」
「長期保存が効き、調理せずとも開けるだけで食べられるというのが利点だからな。普段の生活で利用することは無いように思えるが」
「だが調理の手間を省けるというのは強い。極論、調理器具や燃料の確保も必要としない上に火を使わなくてもそこそこのものを食えるというのは素晴らしいと思うが」
「そうだな。敵に見つかってはならない斥候や、魔物の領域奥深くに足を踏み入れる冒険者などには有用なのではないか?」
飲兵衛達もただ酒のアテにしてるだけではなく、それなりに真面目に議論をしてくれているようだ。ちなみに、グランデは「食事会とやらはつまらん」と言って部屋で寝ている。今回は缶詰や即席麺メインでグランデ好みの料理が出ることもまず無いのがわかってたしな。
「しかしこれ、珍しがられたり興味を引いたりはできるだろうけど、国威発揚って意味ではどうなんだろうな?」
「確かにそういう意味では微妙かもしれないわね」
「外国の珍しい食べ物、くらいのインパクトしかない」
「だよなぁ。やっぱ作り方とか公開して技術支援をするとかまでやらないと駄目じゃないか?」
「そこまでやるのは時期尚早かと思うわ。そもそも、メリナード王国でもまだ生産能力が足りていない状況でしょう?」
「国威発揚という意味では魔道飛行船だけで十分」
ドリアーダとアイラがそれぞれ俺の発言に否を唱える。むむ、確かに言われてみればその通りか。缶詰も即席麺もまだ国内に行き渡るほどの量は生産できていない。というか、現段階でも試作の行きを超えていないと言える。生産量は徐々に増えているが、軍用の先行量産型って感じだしな。
メニューもオニールと燻製肉のスープ、クリームチャウダー、塩辛い肉の缶詰、挽肉と豆のトメル煮込みの缶詰、魚の水煮の缶詰くらいで、多様性には乏しい。果物のシロップ漬けの缶詰とか作りたいんだが、砂糖が高くてなぁ。そのために砂糖を得るための作物が欲しいというのもあるんだよな。
「技術そのものを洗練してノウハウを積み重ねた後に技術を輸出、あるいは公開するという方向性で考えているということにしておこうか」
「それが良いと思うわ」
「ん、私も同意する。まだ技術を確立してから日が浅い。何か問題が出る可能性もある」
「それはそうだな」
理論上は年単位で保存できるはずだが、何かの影響で腐敗したり、その他の害が確認される可能性もゼロではないからな。例えばスープに一度火入れすることを徹底しているのも、万が一傷んだりしていた場合に毒素を無毒化するためのものだし。基本的には浄化魔法の効果で毒素や病原体は排除されているはずだが、それも確実じゃないからな。確かめる術もないし。
軍人達を実験台にするわけじゃないが、一般や他国に向けて手広く供給するのは時期尚早であるという意見には俺も同意する。
食事がある程度済み、俺達が持ち込んだ保存食を堪能したドラゴニス山岳王国や小国家連合の面々に色々と質問をされたが、とりあえずは今この場で話し合った方向性で説明してその場を凌ぐことになった。
最近開発されたばかりの新技術であること。今は軍用に限定して先行量産を始めたばかりで製作工程なども試行錯誤している途中であり、洗練の余地があるということ。最終的に十分なノウハウを積み重ねることができれば国内で大量生産を始める予定であり、その後には国外向けにもある程度の量を販売できるだろうということ。そして、情勢次第では技術の輸出や公開なども視野に入れていること。
「高性能の保存食というのは軍事的な価値が高いものだが、民生利用した場合には災害時の備蓄食料としても大いに活用できるし、食品加工の分野で新しい雇用も生み出せる。今まで保存に向かなかった作物を長期保存できるようになれば国全体の食糧事情も改善するし、新たな外貨獲得手段にもなり得る」
「そんな技術を将来的に公開すると? 貴国に何の得があるというのだ?」
どこの国の誰かはわからないが、気難しそうな有翼人の男性がそう聞いてきたので、俺は肩を竦めながら答えた。
「お腹が空くのは誰だって辛いだろう? 誰もが飢えずに済むようになれば、争いごとも少しは無くなるんじゃないかな。それに、多少なりともうちの国に恩を感じてくれればうちの国がいくらかやりやすくなるじゃないか」
「……そうか」
俺に問いかけてきた彼はそう言って苦笑いを浮かべた。青臭い理想論者だと思われたのか、それとも後半部分の露骨な発言に苦笑いしたのかはわからないが、気難しそうな顔を苦笑いにできたのでよしとしよう。然程悪い印象を与えたわけでも無さそうな雰囲気だしな。
「どちらにせよ将来的な話だからな、この辺りは。前にも言ったように、興味があるならば正式に使節を送ってもらえればある程度は対応できると思う。今のメリナード王国は旧メリナード王国とも、聖王国支配下のメリナード王国とも違った新しいメリナード王国に変わりつつあるところだから、色々と見応えのある部分も多いのではないかな」
無論、無制限になんでもかんでも公開しているわけでもないけども。基本的に研究開発部は部外者立ち入り禁止だし、銃士隊や魔銃隊は国防を担う中核戦力だ。クロスボウは民間にも普及しつつあるし、うちの軍の標準装備でもあるからある程度は見せても良いかもしれないけどな。
そんな感じで新型保存食試食会という性質を帯びた昼食会はそこそこの好評を得て幕を下ろしたのだった。
ここから夜の晩餐会までは特に予定がないな。さて、どう動くべきかね? 俺としてはドラゴニス山岳王国の普通の生活とか街並みを見てみたいんだけどな。