第394話~風呂の後~
今日は間に合った( ˘ω˘ )
「閣下のおかげで俺達は平穏な風呂を楽しめたよ」
「あいつら、俺らと給料同じだから懐事情を完璧に把握してるんだよな……」
「たまに怖いんすよ。気付いたら周りが女の連中ばっかりだったりしてさり気なく逃げ出したことが何度あったか……」
「うちの軍では鈍いやつから人生の墓場行きですからね」
女湯での公開処刑後、泣きながら女湯から脱出した俺は男性兵士諸君の宿舎に避難していた。とても長い風呂だったので、男性兵士諸君は既に風呂から上がって非番の連中は宿舎で休んでいたのである。
単身で女性兵士達の注目を集め、結果として魔銃隊の男性兵士諸君に平穏なお風呂タイムを与えた俺は彼らの間で英雄扱いされていたのであった。
「できれば明日も明後日も俺達の弾除――げふんげふん。女連中の興味を満たしてくれると有り難い」
「今弾除けって言ったよな?」
「気の所為ですよ閣下」
この野郎……後でこっそり女湯と男湯を繋げる通路でも作っておいてやろう。男側のは目立ちにくく、女側のは目立ちやすく作ってやるからな覚悟してろよ。お前ら全員食われちまえば良いんだ。
俺? 俺はほら、腐っても王配だから。大乱交ポールシスターズ的な展開にはならなかったよ。公開処刑されたけどな。公開処刑されたけどな! そうは言ってもなんだかんだで耐性がついてしまっている自分が怖い。
「ところでこんなところで油を売ってて良いんですか? 閣下。お部屋に戻ったほうが良いのでは」
「そうですよ。ほら、ここは権謀術数渦巻く他国のお城なわけですから。お部屋を女性だけにしておくと何か変な陰謀にでも巻き込まれるかも知れません」
「お前ら、俺を追い出そうとしてない?」
「そんなそんな」
「別にこのまま居座られたらしびれを切らした宮廷魔道士殿やドラゴン殿が突撃してくるんじゃないかと恐れているわけではありませんよ」
「なし崩し的に他の女連中も突入してきたら嫌だなぁとか思ってませんよ」
「お前ら本当に覚えておけよ?」
よし決めた、俺は計画を実行する。結果として魔銃隊を寿除隊する連中が出るかもしれないが、その辺は魔銃隊の元締めであるウォーグが苦労することだから俺は知らん。
☆★☆
風呂場に細工をして部屋に戻ると。居住まいを正したアイラ達に出迎えられて謝られた。
「ごめんコースケ、調子に乗った」
「楽しくてつい……ごめんなさい」
「すまん、煽りすぎた」
アイラとドリアーダ、それにグランデと獣人メイド達も揃って俺に謝ってきた。俺が男性兵士諸君の宿舎に逃げ込むという事態を受けて反省したらしい。
「ええんやで。明日はゆっくり俺達だけで入ろうな」
一度譲ってその末にNOを突きつけておけば皆はちゃんと反省してこうして謝ってくれる。この上でこちらから怒っても何も良いことはないので、謝罪を受け入れて次はやめようねと言っておけば万事丸く収まるというわけだ。
順調に調教されているような気がしないわけでもないが、深くは考えないでおく。そのうち新しい扉を開きそうで怖い。
「それでええと、何だっけ。明日の予定は?」
「特に予定らしい予定は無い。持ち込んだ乾麺や缶詰の利用方法を教えるくらい」
「手配は済んでおりますぅ」
ゲルダがそう言って胸を張る。まぁ、さっきのお風呂タイムで話したんだろうね。男性諸君以外はあの場に全員いたからね。
「なるほど。うーん、部屋でただぼーっとしてるのもつまらないな。とりあえず乾麺や缶詰の利用方法解説は視察するとして、他の時間はどうするかね? 確か乾麺や缶詰の利用に関しては午前中に教えて、昼飯に出す予定なんだよな?」
「そう。昼食後から晩餐会まで時間が空く」
「晩餐会ね。明日もやるのか」
「建国記念祭当日まで毎日そうなると思うわ。ドラゴニス山岳王国の富を見せつけるという意味もあるのだからね」
「なるほどなぁ。文官の皆さんには勉強をしてもらうことが多いな」
今のメリナード王国にはこういった王族としての振る舞いのあれこれを知る人間が少ないからな。セラフィータさんやドリアーダは王族たるものの振る舞いそのものについては十分以上の知識を持っているが、実務面――というか実際の作業の流れなどについて一から十まで知っているというわけではない。今回のドラゴニス山岳王国の記念式典や、それに付随する晩餐会の用意などの視察は大いに参考になるのではないかと俺は思っている。
「軍事方面はともかく内政や国家運営に関する人材の育成が急務だからなぁ、うちは」
「元内政官や官僚、冒険者ギルドや商業ギルドの元重鎮、潰された商会の元商人、それに懐古派のアドル教の神官なんかも登用してるけど、全然足りない」
「アドル教の神官の皆さんは優秀ですけれど、あまり官僚として迎え入れすぎるとそれはそれで問題がありますしね」
アドル教懐古派は所謂亜人に対しても平等に接し、隣人として、友人として共に行きていくべきだ、というようなアドル教主流派とは亜人に対するスタンスが正反対の宗派なのだが、メリナード王国の民は亜人を虐げる教えを説くアドル教主流派の連中に二十年以上苦しめられてきたからな。今でもアドル教徒に対する不信感が根強い。そんな彼らを重用するのは国民感情的に受け入れられない可能性が高く、あまり大っぴらにアドル教の神官を重用するわけにもいかないのだよな、現状。
「カネとメシと軍事力には苦労してないけど、人材はなぁ……俺の能力でも人材だけはどうにもならんし」
単に強くするとか、レベルを上げる――この世界に俺以外にもレベルの要素があるのかは知らんが――だけならなんとでもなるが、書類仕事や官僚としての仕事をこなせる人材を促成する、というような方面に俺の能力を使うのは無理がある。
「時間をかけて育成するしか無い」
「だなぁ。モノみたいな優秀な人材がどこかに転がってないものか」
「モノ?」
「前に農地開発で走り回ってた時に会った単眼族でな。博識だし、判断力にも優れていて逸材だと思ったんだよなぁ」
そういやあいつは結局男だったのか女だったのか……声が中性的だったし、服装のせいで体つきもよくわからなかったからどっちなのかわからんかったのだよな。まぁどっちでも良いんだけど。
「今度拾いに行こう」
「その辺に転がってる石ころとかいい感じの木の棒じゃないんだから……」
それにモノはあの開拓村の人達に信頼されて、頼りにもされていたからな。強制連行ってわけにもいかないだろう。でも優秀な人材を辺境の開拓村で遊ばせておく余裕が無いのも確かなんだよなぁ。
「まぁ、どっちにしろ帰ってからな。地方貴族の領地に作った開拓村の住人だし、勝手に拐ってくるわけにもいかんだろ」
「それはそうね。でも、コースケくんが優秀って言う人物なら是非欲しいわね」
ドリアーダも乗り気だな。すまんモノ、俺がお前の名前を口走ってしまったばっかりに。
俺は心の中でモノに謝りながら、シルフィとメルティにどう言ってモノを引っ張るかという相談を始めるアイラとドリアーダのやり取りをただ眺めるのであった。