第393話~風呂に沈む~
うたた寝しました( ˘ω˘ )
結局、今晩の晩餐会は最初から最後までシンドリエル王太子が俺達の接待をしてくれた。フライングバイターの巣を叩く話の後は、飛竜貿易で齎される様々な産品や飛竜貿易商隊が訪れる様々な諸外国の話を聞かせて貰ったのだ。これが実に興味深い話ばかりで、大変に有意義だった。
「礼儀正しく、博識で親切。しかも王族だから金も地位も併せ持っている。絵に書いたようなイケメンだったな、シンドリエル王太子は」
「コースケも負けてない。異世界の話は楽しい」
「地位も負けてないし、お金に関しては世界一のお金持ちでしょう?」
「まぁ気持ちの良い奴ではあったの。コースケには負けるが」
「親切さ、というか優しさという点で言えば、私達を救って下さったご主人様以上に慈悲深く、徳の高いお方はそういらっしゃらないかと思います。それに――」
「皆で滅茶苦茶フォローしてくれるじゃん……なんかありがとうな」
別にシンドリエル王太子と比べて自分は……みたいな意味で言ったわけではないのだが、こうしてすかさずフォローしてくれるのが嬉しくないわけでもない。ちょっとくすぐったいというか、気を遣われているようで若干いたたまれないけど。
というかシェン、わかったから。そんなに力説しなくてもわかったから。褒め殺すつもりか。
獣人メイドとして働く彼女だが、賊どもに囚われていた時には一番酷く痛めつけられていた。両足の腱とかバッサリやられてたし。その状態から救ったせいか、ある意味ではオリビア以上に俺を信奉しているんだよな……俺が言えば何でもやりそうで、ある意味で一番危なっかしい。
「そういえば俺の独断で色々と話を進めてしまってすまないな」
「構わない。この親善使節団の長はコースケ。長が方針を決めるのは自然なこと」
「結果的にメリナード王国の威を示すことになるし、調整も殆どあちらに投げた形だから苦労は少ないと思うわ。でも、向こうに任せたってことは向こうに限りなく都合の良いように進められるってことでもあるから、今後は注意してね?」
「はい、おねえさま」
「コースケくんにお姉様って呼ばれるのはなんだか違和感があるわぁ……」
「だって義姉さんなのは間違いないし」
他愛のない話をしながらふと考えつく。
「そういやここ、風呂はどうするんだろうか?」
部屋には風呂やシャワー――というか水場自体が無いし、それに適したような部屋も併設されていない。
「ドラゴニス山岳王国にはそもそも入浴の文化が無い。リザードマンや爬虫類系の獣人が多いから。勿論泥とかで汚れた時には濡れた布で身体を拭いたりはするけど」
「なるほど。しかし入浴や水浴びを好む文化の人々も賓客として訪れる以上、王城にはそういった施設が用意されているのでは?」
「その可能性はある。聞いてみるといい」
そう言ってアイラが俺の近くに控えていたシェンに視線を向け、シェンは頷いてしずしずと部屋を出ていった。恐らくこのお城のメイドさんでも捕まえて聞いてくれることだろう。
「しかしない場合はどうするね? あったとしても、兵達が入れるかというとそれは無理そうだろう?」
「流石に二百人以上の人員が入ることは想定してないでしょうね。飛行船を停めているところに仮設で作ってしまったらどうかしら?」
「それはいい考えだな。何なら俺らもそこで入っちゃえばいいし」
「コースケも一緒に入るの? 魔銃隊の皆と?」
「俺は男湯です。たまに色っぽいのはナシでゆっくりとリラックスするのも良いと思うぞ?」
というか、魔銃隊もメリナード王国軍の例に漏れず女性の方が多い。大体比率は男性3に対して女性7くらいだ。そんな中、俺だけ女湯に突入とかどう考えて色々とよろしくない。俺の身が危ない。色々な意味で。
「ふぅむ、それはちょっとつまらんのう。それに、コースケも興味がないわけではなかろ? 何せお主はなんだかんだと言って両手の数では足らんほどの女を囲っている大助平じゃしのう?」
そう言いながらグランデがニヤニヤと笑っている。どちらを向いても女性の裸体、という光景は確かに男としてそそられるものがないとは言わない。言わないけれども。
「嫁入り前の娘さんも居るだろうし、全員が全員俺と一緒に風呂に入りたいなんて子ばかりなわけがないだろう? 無理なもんは無理だ」
「では、入る者全員が良しとすれば良いのじゃな?」
「ははは、そんなことはあり得ないだろう」
「良いのじゃな?」
威圧感すら感じるグランデの確認に俺は――。
「やってやろうじゃねぇか! もし全員に了承が取れたなら混浴風呂にでもなんでも入るよ!」
「よう言うた! それでこそ妾の番じゃ!」
いくら貞操観念が地球とは違うと言っても流石に全員から了承なんて取り付けられるわけがないからな!
☆★☆
「どうして……? どうして……?」
やぁ、コースケだよ。今、僕はとても広い女湯に裸でいます。周りは……うん、あえて発言は避けておこう。ご想像の通りだよ。
「どうして手で目を覆っている? しかと眼を開いて目に焼き付けよ」
カラカラと笑いながら隣に立ったグランデがペチペチと俺の尻を叩いてくる。うん、手加減してくれてありがとう。グランデがその手で俺の尻を思いっきり引っ叩いたら尻が十個くらいに割れちゃうからな。
「目を隠して下隠さず」
「やめろォ!」
どこをとは言わないがペシペシするんじゃあない! 危険だから!
「はいはい、じゃれていないでまずはお身体を洗いましょうねぇ」
「転ばないように抱っこして運びますねぇ」
目を隠している間にひょいと誰かに抱えられて持ち上げられる。所謂お姫様抱っこなんだけど、ヤバい。何がヤバいって左腕というか左半身に感じる感触がヤバい。柔らかい。つつまれている。
多分だけど、俺を運んでいるのはゲルダだ。ゲルダはシュメル達には負けるが、俺よりも身長が高いし、何より相応にデカい。正面装甲が分厚い。俺の左半身に感じられるのは間違いなくソレであろう。
「ふ、ふふ……お、お身体に触りますよ」
「し、失礼します」
「おー……意外としっかり筋肉ついてるじゃん」
「左脚、洗う」
「私、右脚」
目を瞑っているから誰がどこを担当しているのかわからないが、石鹸塗れの手でねっとりと撫でるように俺の背中を弄っているのは絶対にオリビアだ。間違いない。おいこら、誰だ尻を撫で回しているのは!
「重要な場所は私が洗う」
「アイラ、それはズルいんじゃないかしら?」
「慣れてるからお手本。何回でも綺麗にしてあげればいい」
「なるほど」
「なるほどじゃないが? 公開処刑か何かか?」
なお、抵抗は無意味であった。身体能力も人数でも圧倒的に劣勢なのに勝てるわけ無いだろ!
彼は犠牲になったのだ……男性兵士六十名に安寧を与えるための犠牲にな( ˘ω˘ )