第392話~提案と承諾~
明日ワクチン接種二回目なのでまた数日更新をお休みします。
生き残りたい( ˘ω˘ )
その後もシンドリエル王太子とは暫く話をした。彼は現在飛竜貿易の差配をしており、その前はドラゴニス山岳王国内で軍の統括をしていたらしい。つまり、魔法畑の人間ではなく軍務畑の人間なわけだ。だから魔道具と言われてもピンとこないし、魔道飛行船が飛んでいる仕組みや機構に関しては聞いても理解が出来ないからあまり聞いてこない。
「ふぅむ、聞けば聞くほど凄まじいものだな。あの空船は」
しかし戦力としての魔道飛行船には大層興味があるようで、なかなかに細かく聞いてきた。答えられる範囲で答えたが、いたく感心している。飛竜貿易を差配している身としては荷物の積載量も実に驚異的であるらしい。
ちなみに彼は魔道飛行船のことを『空船』と呼んでいる。海をゆく船ではなく空をゆく船だから空船。実に安直と言うかシンプルな名前だ。魔道飛行船なんてお堅い呼び名よりも浸透しやすいかもな。
「実力を披露できる機会があればお見せするんだがね。まぁ、今のところは聖王国との戦も小康状態というか停戦状態だし、暫くは平和的な利用方法を模索していくことになりそうだな」
空を飛ぶ魔物が大量発生したとか数万単位の魔物の群れが現れたとかならともかく、そうでもなければ戦闘艦としてあの魔道飛行船が出張るほどのことは無いだろう。むしろ、輸送能力と速度を生かした国内流通の足として使うほうが良さそうに思えるな。魔銃隊から人員を引き抜いて専門の空軍でも作るかね?
「ふぅむ、実力を披露できる機会、か……」
そう言ってシンドリエル王太子が考え込んだ。その間に俺は隣でパンケーキをむしゃむしゃしているグランデの口元を拭いてやる。山羊乳から作ったバターやクリームを利用して作られており、梨や杏、ブルーベリーなどのジャムが添えられている。これも俺が作るものとは少し食感が違うが、美味しいな。ジャムも俺はいつもいちごのジャムを添えていたが、色々な種類のジャムがあって目にも楽しい。
こうして色々な種類のジャムが出てくる辺り、やっぱりドラゴニス山岳王国は豊かなんだよな。なんだかんだでジャムを作るには大量の砂糖が要るから、どうしてもお値段が張る。メリナード王国でも国民が気兼ねなく砂糖をバンバン使えるようにしていきたいな。
そうなるとサトウキビかテンサイ、それに準ずる作物の栽培がネックとなるか……ああ、サトウカエデの樹液を煮詰めたメープルシロップを更に煮詰めればメープルシュガーができるんだっけ。
「実力を披露できる機会、用意できるかもしれん」
「なるほど?」
砂糖に関する思考を一旦脇に置き、シンドリエル王太子に首を傾げて見せて話の続きを促す。
「この城から西に飛竜で半日ほど飛ぶと海に出るのだが、その途中にフライングバイターの巣があってな。危険だということで今は飛竜便も北か南に迂回しているのだ。おかげで今は片道二日がかりという行程になっている」
「フライングバイター?」
「飛蛇龍の一種。要は羽の生えた大蛇。大蛇って言っても、全長10mくらい。20mにまではならない」
「いやデカイよ。そんなの巻き付かれたら人間なんて余裕で絞め殺されるじゃん」
「結構危ない。あと巻き付き締め付けもしてくるけど、名前の通り噛み付いてくる。噛み付いて回転して肉を引きちぎる」
「やだこわい。というか最早それは空飛ぶ蛇というより空飛ぶワニでは?」
飛ぶ上に巻き付きもしてくるし噛み付いてからのデスロールもキメてくる大蛇とか怖すぎるわ。
「で、そのフライングバイターを間引くためにうちの船を使うと? 見返りは?」
「当然ある。私の権限の範囲内で叶えられることなら叶えるし、そうでない場合には父上に話を持っていくことを約束する。実質的にドラゴニス山岳王国に叶えられることであれば出来る範囲で、ということになる。無論、聖王国を滅ぼしてこいと言われても困るのだが」
「常識の範囲内でってことね。まぁ俺も無茶を言うつもりはないけど」
しかしドラゴニス山岳王国に頼みたいこと、ねぇ? すぐには思いつかないが……ドリアーダとアイラにも視線を向けてみるが、二人ともすぐには思いつかないのか首を横に振った。
「ああ、そうだ。それなら一つ頼みたいことがあるな」
「なんだろうか?」
シンドリエル王太子が居住まいを正して聞いてくる。
「メリナード王国でも砂糖の生産に挑戦してみたいんだ。砂糖の生産地から原料となる作物の苗か種、あるいは現物を入手してきてもらいたい」
「なるほど。わかった、必ず手配しよう。それならば私の権限の範囲内で約束できる」
「それじゃあ交渉成立ってことで。スケジュールについては調整が必要だと思うが、何にしても建国記念祭の後になるな?」
「そうなるだろうな。移動と戦闘、それに準備期間なども考えれば明日すぐに出るというわけにもいかない。建国記念祭の翌日に出陣するという予定で調整したいと思うが」
「オーケー。連絡は俺かアイラにしてくれれば良い。ドリアーダには外交に注力してもらいたいからな」
「そういたしますわ」
そう言ってドリアーダは処置なしという顔で肩を竦めてみせた。俺の独断でポンポンと話を進めてしまったからご機嫌斜めなのかな? あとでフォローしておくとしよう。
「しかし、コースケ殿は勇敢だな。口では怖いなどと言っているのに、全く動揺した様子もなく即座に出陣を決断するとは。流石はメリナード王国の影の実力者といったところか」
「影の実力者?」
「ああ、部下の話では近くは聖王国や小国家連合、遠くは帝国にまでコースケ殿の名は届いているそうだぞ。無位無冠の猛将、今世の稀人、メリナード王国奪還の立役者、メリナード王国の黒幕、影の実力者など色々な呼び名で呼ばれているな」
「マジで?」
「大真面目だとも。ただ、実際にどのような人物なのかはまるで伝わっていないがね。その容姿や人柄は謎とされている。黒髪で痩身の優男という話もあれば、筋骨隆々の武人という話もあるし、絶技を持つ剣士であるなどという話もあったな」
「優男って言われるほどイケメンじゃないだろう」
優男ってのはシンドリエル王太子みたいなイケメンに使われるべき言葉ではないだろうか。ああいや、彼は鍛えているしガタイも良いから優男ってガラではないか? ああ、キュービとかはそういうカテゴリな気がするな。帝国の大使であるキリーロヴィチもか。
「そんなことない。コースケはかっこいい」
「いい男なのは間違いないの」
「そうよ。コースケくんは可愛い系よ」
「可愛い系ではないと思う。断じて」
えー、とか不満げに言ってもそれだけは認めないからな。俺が可愛い系とか意味がわからない。俺は単なるフツメンです。
「話を戻そう。この話はこれで終わり。はいヤメ」
「えー」
何故君達は揃って不満そうなのか。シンドリエル王太子に笑われているじゃないか。いい加減にし給えよ君達。
「希望する国から観戦武官を招いても良いかもな。命の保証はできんから、自分の身は自分で守ってもらうことになるが」
「観戦武官か。それは良い。我々の国とコースケ殿の国、双方の力を広く示す良い機会になるだろう。そちらの件についても話を進めるとしよう。こちらで進めても構わないかな?」
「任せても良いなら頼む。新顔のうちが音頭を取るよりはスムーズに行くだろうしな」
そういうわけで、建国記念祭が終わった後に魔物退治を請け負うことになった。まぁ双方に利のあるあることだし、タダ働きってわけでもない。作物やその種や苗さえあれば俺の能力で砂糖の原料生産はなんとでもなるだろうし、まず損のない取引になるだろう。