第390話~山地の祝宴~
なんか季節の変わり目であんま体調良くないな( ‘ᾥ’ )(うたた寝してしまった
エルフの織物で作られた着物を着た俺、真紅の改造チャイナドレスと宝石の散りばめられた金細工で身を飾り付けたグランデ、ミスリル糸で装飾された豪華なローブを身に着けたアイラ、そして俺と同じくエルフの織物で作られたドレスを身に着けたドリアーダ、更にゲルダとオリビアという獣人メイドの二名というメンバーで招待された晩餐会へと向かう。
まぁ、晩餐会と言っても格式張った会食などではなく、立食パーティーのようなものらしい。というか、そもそもドラゴニス山岳王国にはカトラリーなどを使うような格式張った会食をする文化が無いそうで、王族が主催するパーティーでも豪勢な料理と浴びるほどの酒を用意してどんちゃん騒ぎをするようなパーティーをするのだそうだ。王族は他国を訪れた際に格式張った会食にも対応できるようにマナーをちゃんと習得しているそうだが、国内では決してそういった会食を開くことはないらしい。
彼等曰く、そのような虚飾に満ちた食習慣などは卑しい人族が自分達の権威を誇示するために作り出したもので、本来の食事というものは供された糧を仲間や家族、客人と分かち合い生命を頂く神聖なる儀式なのだと。わかるようなわからんような話だが、肩肘張らなくても良いのは有り難い話だな。
でも、俺もしっかり格式高い会食のマナーとやらを学ばないといかんのだよなぁ……そこそこできるようになったと思うが、まだ苦手意識がある。ちなみにシルフィは俺より酷い。黒き森で過ごす時間が多かったし、警戒のために森の中で独りで過ごす時間も多かったそうだからな。そうなるのも致し方なしなのだろうか。今後はそうも言っていられないのだろうけど。
「「「おぉ……」」」
俺達が晩餐会の場に姿を現すと、なんだかどよめきの声が聞こえてくる。これは多分グランデの姿に驚いているんだろうな。この場にはドラゴニス山岳王国の貴族というか名士も多いという話だし。無論、俺達のような客人もそれなりにいるのだろうが、流石にドラゴニス山岳王国の人以外が俺達を見て驚きの声を漏らす理由はないだろう。
ちなみにだが、ゲルダとオリビアは従者用の控室で待機しているので、この場には居ない。
「こういう時はどう行動するのが良いのかね。まずは主催に挨拶か?」
「そうね、それが良いと思うわ」
「うむ、この宴を開いた主催に挨拶するのは大事じゃの」
グランデからも同意を得られたので、連れ立って主催であるホスカット陛下の元へと向かう。しかし王陛下は主賓席で挨拶ラッシュを受けている真っ最中のようで、挨拶待ちの貴族や名士、他国からの客人が周りを取り囲んでいるようだ。
「あー、こりゃ時間がかかりそうだな?」
「いえ、行きましょう」
「えぇ?」
ドリアーダがずんずんと進んでいくので、俺も困惑しながらついていく。しかしグランデとアイラは全くもって困惑も動揺もしていないな。えぇ? 列の横入りはいけないんだよ? と思っていたのだが、俺達の姿を見るなりホスカット王陛下を囲んでいた人の群れがスーッと左右に割れていった。どうやら順番を譲って頂けるらしい。
「ご機嫌麗しゅう、陛下。今宵はお招き頂きありがとうございます」
「そちらもな。我が国自慢の料理人達の心尽くしと、大陸各地から取り寄せた美酒を思う存分味わって欲しい。それにグランデ様。今宵は私の主催する宴に足を運んでくださってありがとうございます」
「うむ。美味そうな匂いがここからでも感じられるのう。遠慮なく食らわせて貰うが……妾は正直機嫌を損ねてもがっ!?」
「ははは、グランデ。その話はドリアーダに任せるって話をしただろう?」
「むむぅ」
「このような不作法な姿を見せて申し訳ない。グランデ共々宴を堪能させていただきます」
「うむ……伴侶殿も大いに楽しんでもらいたい。そちらの魔道士殿も」
ホスカット王陛下に視線を向けてそう言われたアイラは無言で頭を垂れて返答とした。ふむ? 王配である俺や王族であるドリアーダ、それに人族の身分など関係がないグランデと違ってアイラは宮廷魔道士という立場だから、王族に対する直答を控えたのかな。
「シンドリエル」
「はい、お任せ下さい。ドリアーダ殿、コースケ殿、グランデ様。魔道士殿もこちらに」
ホスカット王陛下に名前を呼ばれたシンドリエル――王太子であるということは調べがついている――殿が席を立ち、俺達を特別に用意したと思しきテーブルへと案内してくれた。パーティションで区切られていて、外部からは中が見えないようになっているスペースだ。
どうやら彼が俺達のホストを務めてくれるらしい。ふむ、用意された席に座っていれば王城のメイドさん達が料理を持ってきてくれるようだな。俺達だけの特別なサービスというわけか。
まぁ、ここにいると自由に動けないから他国の客人達と交流するのは難しくなりそうだが……それは追々でも構わないだろう。
「飲み物は? 聖王国産のワインや帝国産の蒸留酒などもあるが――おっと、砕けた言葉遣いになるのは許して欲しい。私はあまりかしこまった口調というのが苦手でな。コースケ殿も、淑女の皆様方も気兼ねなく普段通りの口調で、友に接するように話してくれ」
「ふむ……じゃあ俺はワインにしよう。皆は?」
「私もワインにします」
「私も」
「妾は料理を味わいたいのでな。酒ではない飲み物が良いの」
「承知した」
シンドリエル王太子の目配せを受けてメイドさん達が飲み物を用意してくれる。グランデには果物の果汁を水で割ったものが用意されたようだ。
「我々の紡いだ縁に」
飲み物が行き渡ったので、王太子の温度で盃を掲げる。うーん、やっぱりワインは蜜酒に比べると渋みと酸味があるよなぁ。正直飲み慣れた蜜酒のが好みだな。俺の舌が単にお子様舌なだけなのかもしれんが。
「まず最初に、練兵場での決闘について話をさせて頂こうか。建前としてはあの決闘に関しては我が国は立会人を務めたにすぎず、あくまでもメリナード王国とライオネル族長連合国との間の諍いというころになるのだが……まぁこのような建前で納得はするまいな」
「当たり前じゃ。本気でそう言っておるなら妾の力でこの城を瓦礫に変えてくれるわ」
「それはどうかご容赦願いたい……身内の恥を晒すことになるのだが、アレは我が愚弟の仕業でな。コースケ殿がグランデ様の兄君達を単独で調伏したとか、ほぼ独力でディハルト公国とティグリス王国を破ったとか、そういった話を嘘と決めつけて化けの皮を剥いでやるなどと息巻いていたようで……本当に申し訳ない。若いからなどという言い訳が見苦しいというのは承知の上だが、徹底的に締め上げておくのでどうか慈悲をかけて欲しい」
そう言ってシンドリエル王太子は深々と、テーブルに額がつくくらいに頭を下げた。グランデはまだあまり納得のいっていない顔だ。締め上げておくと言っても実際どのようにケジメをつけるのか明言していないし、まぁそうだろうなとは思う。
「締め上げるとは具体的にどのような? 下手をするとコースケくんの首や胴体が泣き別れしていたのですけれど」
「私が物理的にぶん殴っておいたのと、片方の角を叩き折っておいた。バランスよく生え揃うまでは人前に出られんだろう。まぁ少なくとも五年はかかるか」
生え揃うのか。メルティやオリビアの角は一度折れたりしたら生え揃わないって話だったんだが……竜の血が入っていると身体の再生能力が違ってくるのかね。
「……グランデの血で再生薬を作ればすぐ治る」
ボソリとアイラがツッコミを入れたが、シンドリエル王太子はとんでもないと首を振った。
「あのような愚か者にグランデ様の血を使うなどありえん。もしそんな話が持ち上がったら関係者を私がぶん殴って回るのでそこはどうか信用してもらいたい」
「ふむ……まぁええじゃろ。二度はないぞ」
「寛大なご判断を感謝致します」
「ちなみに、一応言っておくが妾よりもコースケを怒らせるほうが遥かに危ないからの。妾が本気を出せば一日で二つか三つくらいは人族の街を瓦礫に変えられるが、コースケが本気を出せば数十の街がこの世から消し飛ぶぞ」
グランデの話を聞いたシンドリエル王太子がははは御冗談をと言わんばかりの曖昧な笑みを浮かべるが、グランデの顔は至って真面目である。そしてドリアーダもアイラもせやな、という顔でうんうんと頷いている。
「……本当に?」
「妾は竜ぞ? 竜の吐息は吐いても嘘など吐かぬわ」
グランデの肯定の言葉を聞いたシンドリエル王太子が化け物でも見るような目を俺に向けてきた。
いや、そりゃやれるかやれないかで言えば多分やれるけどさぁ……いくら激怒してもそんな世界を滅ぼす魔王じみたムーブなんてする気ないから。ああいや、シルフィを含めたみんなを殺されでもしたらそうする可能性はゼロじゃないけど、そうはならないしさせないから。