第389話~お色直し~
今日は三十分も余裕がありました( ˘ω˘ )(ドヤァァ
その後、対策を話し合いながら休んでいる間にドラゴニス山岳王国から俺達に晩餐会への招待状が届けられることになった。招待されたのは俺とグランデ、それにアイラとドリアーダだが、その他にも俺がそうするべきと判断したお方はどうぞお連れ下さいという内容だった。
「これはどういう意味だろうか?」
「ハーピィ達のことだと思う」
「私達はともかく、ハーピィに関しては誰がコースケくんとどういう関係なのか把握するのが難しいから……」
「俺ですら正確に把握しきれていないんだよなぁ……」
彼女達とのアレはなんというかこう、入れ代わり立ち代わりで最終的に今誰を相手にしているのかわからなくなるし。ふと正気に戻ったら見覚えのない娘が交じってたりするし……正直に言うと、このままハーピィちゃん達がすくすくと育っていったら、俺の知らない間に超えてはならない一線を超えていそうで怖いんだよな。今度しっかりと話しておこう。あの子達が大きくなる前に。
「とりあえず、レイに連絡しておくか」
「そうした方が良い」
テーブルの上に接しておいたゴーレム通信機を使い、レイに通信を繋ぐ。
「レイ、コースケだ。聞こえるか?」
『聞こえてる。どうしたの? 仕事?』
「いや、ドラゴニス山岳王国から晩餐会に誘われてな。俺と深い関係にある女性は何人でも連れてきてくれって話だったから、ハーピィ達の中からも連れて行こうと思うんだが」
『必要ない。私達は他の人族と違って手が不自由だから、そういった場に出ていくのは相応しくない』
「いや、相応しくないということは無いと思うが」
『いい。私達はコースケをこの上ない主人として愛しているけど、一般的な意味での妻としての立場を欲してはいない。引け目を感じるなら、また私達に子供を授けて欲しい。たくさん、たくさん』
「お、おう……善処する」
『言質は取った。約束は守って。通信終了』
通信機の向こうから感情の薄いレイの声が響き、ぷつりと途切れた。
「……良いそうです」
「高くついたのう?」
「頑張って」
「ええと……お盛んね?」
「たすけて」
俺の心からの懇願は全員にやんわりと断られることになった。こういう時に夫を守ってくれるのが良き妻、良き伴侶ではないのですか? 自分の発言に責任を持て? はい、ごもっともです。
「近い将来訪れる試練の話は横に置いておいて、ええと……こういう晩餐会、というかパーティには従者を伴って行くものなのか?」
「近くの控室に待機させておくのが通例ですね。私とコースケくん、それにグランデちゃんとアイラの四人で行くなら、二人ほどでしょうか」
「それじゃあゲルダともう一人だな。ゲルダが選抜しておいてくれ」
「承知致しましたぁ」
ああ、ゲルダのほんわか癒やしボイスは良いなぁ。あののんびりゆるふわな声を聞いていると本当になんだか安心する。まぁ、その。戦う時は分厚くて巨大なタワーシールドとごっついロングメイスで敵を挽き肉にする凶悪くまさんなんだけれども。
「俺の服はこういう時のために用意してきたエルフ産の織物で作った着物で良いとして、アイラはどうする?」
一応アイラ用のドレスなんかも用意はしてきている。俺のエルフ織物の着物と同じで、メリネスブルグの服飾職人に作ってもらったやつだ。
「私はこのままでいい。王族でも貴族でもないし、ここにはメリナード王国の宮廷魔術師という肩書きで来ている。見合った服装で十分」
「そういうものか?」
「大丈夫だと思います。私は着替えてきますね」
「お手伝い致しますぅ」
ドリアーダがゲルダ達を連れて彼女に割り当てられた部屋と消えていく。
「のうコースケ、妾は着替えなくて良いのかや?」
「そうだな、ちょっといつもと雰囲気を変えてみるか?」
「うむ、まかせる」
グランデの場合、どうしても手足のゴツい爪や翼のせいで着られる服が限られるんだよな。角もゴツいから頭から被って襟に首を通すタイプの服も着られないし。なおかつ、本人があんまりピッチリしていて動きを阻害するような布地の多い服を好まないときた。まぁ、そもそも服なんか着る文化のないドラゴンなわけだから、それも当然といえば当然なのかも知れないけど。
「前に着た時にこれは悪くないって言ってたよな」
「おお、その服か。それは着心地もそんなに気にならんかったの。それにするか」
俺がインベントリから取り出したのは紅く、艶のある生地で作られたチャイナドレスである。無論、グランデが無理なく着られるように大幅に改造してあるので、最早チャイナドレス風の何かのようになっているが。翼の邪魔をしないように背中はバッサリと開いているし、足の爪や鱗で傷つかないように丈も短い。正直に言うとこれをチャイナドレスと呼んだらあちらの人に断じて違うと憤慨されそうだが、グランデが着るためのやむを得ない魔改造なので許して欲しい。
「角にも飾りをつけるか」
「ふむ、まぁ良いじゃろう。前に妾の角に合わせて作ったのがあったじゃろう?」
「ああ、あの先っぽにつけるやつね」
シルフィ達にはちょくちょく指輪や腕輪なんかを作って贈っているのだが、グランデやハーピィさん達はそういったものを身に着けられないからな。代わりに彼女達でも身につけられる装飾品を作って贈っている。
まぁ、グランデはそういったものを管理する癖がないので、俺がインベントリに預かっているのだが。たまに俺に言って全部取り出させて、ニマニマしながら眺めていたりする。とても可愛い。
「うむ、今日はこれの気分じゃな」
「ゴージャス」
「舐められてはいかんからの」
グランデが今日の装いに選んだのは金製の土台に大粒の宝石を散りばめたゴージャスな装飾品だった。グランデの角にフィットするように作られていて、角の先端にピッタリと嵌る。滅茶苦茶に豪華な角カバーみたいなものだ。
「どうじゃ?」
「うん、可愛い可愛い。それにとっても豪奢な感じで似合ってるな」
人化したグランデの鱗や角は金色に近い明るい黄色だし、髪の毛もそれに負けず劣らず輝かしい金色だ。赤いドレスと角の豪奢な装飾品も相まって神々しさすら感じるゴージャスさだな。倒したら経験値高そう。
「何か不穏なことを考えんかったか?」
「キノセイダヨー」
グランデの姿を見て脳裏にぐれいとどらごんなんて言葉が過ぎったが、しらばっくれておく。子供の頃仲間にするためにボッコボコにしまくったなぁ。
「むう」
グランデの姿を見て、アイラが自分のローブを摘んで唸っている。めかしこんだグランデの姿を見て羨ましくなったが、このままで良いと言い切った手前やっぱり着替えると言いづらいんだろうか。
「やっぱりアイラも着替えないか? こう、もう少し宮廷魔術師らしい威厳のある格好とかしてみよう。ほら、ミスリル糸を使ったちょっと派手なローブがあっただろ? あれ、アイラに似合うと思うんだよな」
「ん……わかった。着替える」
そう言ってアイラが俺の寝室に入っていく。アイラの荷物はとりあえず俺の寝室に運び込んだんだよな。俺の荷物は全部インベントリに入ってるから手ぶらだし。
「コースケはいかんのか?」
「流石に女性の着替えをガン見する趣味はないな」
「妾は?」
「グランデは俺がお世話するのが当たり前だろ」
俺の答えが気に入ったのか、グランデがニヤニヤしながら尻尾でビシビシと叩いてきた。痛いを通り越して打撃が重いので勘弁してくれ。緩衝材つけてても尻尾攻撃は俺に効く。