第038話~褐色エルフとリボルバー~
殺すことだけでなく、救うことにも目を向けていかなければならない。確かに、シルフィの言う通りだ。シルフィの、俺達の目的はメリナード王国を取り戻すことであって、聖王国の人間を殺し尽くすことではない。
殺すことは手段であって、目的ではないのだ。どうも俺はいつの間にかその点を履き違えてしまっていたようである。
「とはいえ、生かすよりも殺す方が簡単ではあるんだよな」
「それは勿論そうだろうな」
俺の物言いにシルフィが苦笑いをする。結局の所、今求められているものは何かといえば、メリナード王国を聖王国から取り戻す力なのだ。つまり、破壊と殺戮と暴力である。
「どちらにせよ、一度、もしかしたら二~三度は聖王国の横っ面を引っ叩いて、メリナード王国に手を出すのは割に合わない、と思わせなければならないわけだ。とりあえず、生かす方向に舵を切るのはその後の話だな」
「そうだな。まずは勝ち取らねばならない」
暴力は何も生み出さないだの、戦力を放棄すれば侵略されることはないだのといったお花畑理論は現実には通用しない。暴力を持ち、また見せつけなければ一方的に殴られるのが現実というものだ。
敵をなるべく殺さないように、なんてのは絶対的勝者にのみ許される贅沢品だ。少なくとも、現時点で俺達に許されるものではない。
そう言うわけで、俺はシルフィに開発が完了している武器を公開することにした。情報共有は大事だからな。
「基本的に、俺達は砦に籠もっての防御戦を展開することになると思う」
「そうだな、我々の数は少ない。野戦を仕掛けるのは無謀だろう。コースケの能力を使えば夜陰に乗じて敵に接近し、明るくなる前に砦を築き上げることも可能だろうな」
「そしてハーピィの航空爆撃で敵を叩く」
俺の言葉にシルフィが頷いた。砦や要塞の弱点というのは『建設した地点から動けないこと』この一点に尽きると思う。敵からすればいかに堅固で強力な要塞であろうとも、自分の拠点や交通の要衝などに近い位置に無いのであれば何の脅威にもならないのだ。
それを解決するのが俺のクラフト能力による一夜城の作成と、ハーピィによる航空爆撃だ。
敵拠点の近くに俺達の拠点を作り上げ、防衛準備を整えたらハーピィによる航空爆撃を敵拠点に行なう。矢や魔法の届かない位置から行われる航空爆撃に敵は為す術もないだろう。一方的に滅多打ちにすることになる。それで勝負が決まることすら考えられる。
敵が賢明であるならば早々に俺達の拠点を潰そうと襲いかかってくるに違いない。しかし、そこに待っているのはさらなる暴力である。
「攻め寄せてきた敵兵を待っているのは改良型クロスボウによる制圧射撃と、柄付き手榴弾による爆撃だ。勿論、ハーピィによる航空爆撃も加えられるだろう。あと、こんなのも作ってある」
そう言って俺が取り出したのは柄付き手榴弾に似た物体だ。柄付き手榴弾と違うのは柄にあたる部分が中空でなく杭になっているのと、弾頭に当たる部分から金属製の細い杭がついた紐が伸びている点である。また、弾頭部がより大きく、弾殻も分厚く見える点も違っているだろう。
「対人地雷っていってな。まぁ罠だよ。地面にこの杭の部分を刺して、紐をピンと張るようにしてもう片方の杭も地面に刺す。そして誰かが足を引っ掛けて紐を引くと……バン、ってわけさ。弾頭内の火薬が炸裂して、爆発と共に細かく砕け散った金属の弾殻を周囲に飛散させる」
「それは……危ないのではないか?」
聡明なシルフィはすぐにこの武器の危険性を見抜いたようだ。
「そうだ、危ない。設置して、戦闘が終わった後は確実に回収しなきゃいけない。きちんと管理しないと大変なことになる。敵味方関係なく引っかかったら爆発するからな」
「出来る限りその武器は使わないほうが良いな」
「そうだな、俺もそう思うよ」
こちらの数は圧倒的に少ない。数の少ない俺達にとって、対人地雷はその数の差を埋められる貴重な武器になるだろうと俺は思っている。クラフトコストも安いんだよね、これ。
「あとはな、こんなものもある」
そう言って俺は地面にとある建築ブロックを設置してみせる。1立方メートル分みっちりと赤い筒が結束されているブロックだ。側面には『TNT』と書かれている。
「それは?」
「爆発物ブロックだ。火を点けると多分大爆発する」
「多分?」
「作ったはいいものの、まだ一回も起爆してないからな」
「なるほど。それで、その物騒なものは何に使うんだ?」
「罠に使えないかなー、と思ってるけど行き詰まってる」
この世界では今のところ遠隔起爆に使えそうな素材が見つかっていない。信管は作れているから、遠い場所から紐を引っ張って爆破することは出来るんだけどね。もっと安全で確実な電気式の爆破か、レッドストーン的な爆破手段が欲しい。これも帰ったらアイラに相談してみよう。
「遠い場所から確実に起爆する方法があればいいんだけどな」
「遠い場所からか……火を着ければ起爆するのか?」
「うん、それ起爆すると思う」
「なら、火矢を使うか、火の魔法を使うか、魔道具を使うかだろうな。確実に、ということなら魔道具が良いだろうな。アイラに相談すると良い」
「わかった。ちなみに、遠隔からこれを確実に爆破できるなら敢えて砦を敵に取らせて、砦ごと敵軍を爆破しようかと思っているぞ」
「……コースケは意外と考えることがえげつないな」
「それほどでもない」
あとは敵拠点の防壁とか砦の直下までトンネルを掘って爆破するとかな。爆破解体は男のロマンだよね。
「今考えてるのはこれくらいかな。また考えついたら話すけど」
「ふむ……コースケ、ボルトアクションライフルは改良しないのか?」
爆発物ブロックを回収したところでシルフィがそんなことを言い出した。
「改良?」
「もっと多く、早く連発できるようにすれば強くなると思うのだが」
「おお、シルフィはすごいな。確かに、俺の世界にはそういう武器がある。というか、装弾数が少なくて連射が利かないボルトアクションライフルは狙撃に使われるくらいで、シルフィの言ったように多弾数で連発できるものが主流だな」
「そうなのか。何故作らないんだ?」
シルフィがこてん、と首を傾げる。やだかわいい。
「何故かと言うと、弾薬の消費が激しすぎるからだよ。連発式の銃は間違いなく強力なんだが、どうしても無駄玉が多くなるんだ。湯水のように弾をばらまくことになるからな。現状では複数の連発式の銃を運用できるだけの弾薬を生産するのはコスト面で難しいんだよ。というか、三百人全員がボルトアクションライフルを装備・運用するのも難しい。今の生産能力で満足に運用するなら精々十人くらいが限界だろうな」
「そうなのか。つまり、銃というのは基本的に金食い虫だということなんだな?」
「そういうこと。特に弾薬がな。本体の整備コストに関してはクロスボウもボルトアクションライフルもたいして変わらないけど、矢玉の調達にかかるコストが違い過ぎる」
鉛や銅、それに硝石が大量に手に入るなら話は違ってくるけどね。
「ボルトアクションライフルではないけど、別の銃は作ってるぞ。これとかこれとか」
そう言って俺はインベントリから。四つの銃を取り出す。一つは回転弾倉のついた拳銃、所謂リボルバーというやつだ。もう一つは弾倉を交換できるタイプの自動式拳銃。三つ目は二本の太い銃身が縦に並んだ長銃である。最後の一つは二つ目の銃と似たようなデザインのやはり銃身の太い銃だ。こちらは銃身が一本である。
「結構多いな?」
「こっちはリボルバー式の拳銃で、こっちは自動拳銃、これは上下二連式の散弾銃だな、最後のは二つ目の発展型で、ポンプアクション式の散弾銃だ」
「ふむ……ボルトアクションライフルとは何がどう違うのだ? この拳銃というのはわかりやすいが……持ってみてもいいか?」
「いいぞ、弾は入れてないからな」
俺の許可を受けてシルフィがリボルバーを手に取り、仔細に眺める。おお、褐色エルフにリボルバー……似合うな。真面目な表情のシルフィはクールな美人さんなので非常に似合う。これは良い。
「意外と重いのだな」
「そりゃまぁ鉄の塊だからな。拳銃は近距離用の武器だな。その銃は六連発で、こっちのは最大八連発。指の先ほどの鉛玉を発射する。近距離なら十分に一撃で人間を殺せる威力があるぞ」
ちなみに両方ともハンバーガーの国の拳銃である。個人的にはウォッカの国の拳銃も好きなんだけどね、俺は。
「これは近距離戦闘用なのか?」
「そうだな。俺の世界では剣や槍なんかを使った近距離戦闘はもう廃れていたから、基本は連発式のライフルで戦って、近距離戦ではこういう拳銃や、拳銃弾を連発できるサブマシンガンって武器で戦ってたんだよ」
「だが、これは六発しか撃てないんだろう? 乱戦時にはそれじゃ困るんじゃないか?」
うん、実に接近戦主体のファンタジー世界の住人らしい疑問だな。剣や槍なら折れない限りは何度でも使えるもんな。
「そもそも俺の世界ではそういう戦闘自体が殆ど起きないんだよ。考えても見ろ、連発式のライフルをお互いに一人一人が持ってるんだぞ? 乱戦なんて仕掛けようものならバンバン撃たれて穴だらけだよ。不意の遭遇戦でライフルが使えないとか、護身用って用途が使われることが多いな。あと、警官……衛兵が使う武器って感じかな」
それでも21世紀にもなって銃剣突撃をかます頭のおかしい奴らも居るんですけどね。紅茶の国の軍は本当に頭おかしいぜ。(褒め言葉)
「なるほどな……こっちのでかい銃は?」
「接近戦なんてまず無い、なんて言いながら言うのもなんだが、これは接近戦用の銃なんだよな。まぁそれでも50mくらいまでは普通に有効射程だけど」
「ほう、ライフルとはどう違うんだ?」
「これはな、色んな種類の弾丸を放つことが出来る。こっちの拳銃で撃つような弾を複数発同時に発射することも出来るし、もっと小さい弾を無数に撃つことも出来るし。一発の大きい弾を撃つこともできる。基本的に撃つ弾が小さくなるほど射程は落ちるな」
「ふむ……どういう用途に使うんだ?」
「市街戦とか、敵が立て籠もってる建物に突入しての室内戦とかかな。あと、狩猟に使われることが多いな」
「なるほど。これで終わりか?」
「まだあるぞ。見たいか?」
「どうせなら先に全て見ておきたいな」
「わかった。防壁に上がろうか」
銃をインベントリにしまいこみ、シルフィと二人で防壁に登る。そして俺はインベントリから大型の兵器を取り出して設置した。これ、設置型オブジェクトなんだよね。
「随分大きなクロスボウだな」
「バリスタって言うんだ。槍みたいな太さの矢を飛ばすんだよ。このレバーを二人で回して弦を引き絞るんだ。やってみよう」
「うむ」
二人で協力してバリスタの後方にあるレバーを回し、弦を引く。なかなか力がいるな、これ。
「引けたな、それで?」
「これがバリスタ用の矢だ」
「……殆ど槍だな」
「わかる」
バリスタに専用の矢をセットし、台座を動かして照準を移動する。
「発射はこのレバーを引くんだ。遠くを狙って撃ってみてくれ」
「ああ、わかった」
シルフィがバリスタで遠くの岩を狙い、発射レバーを引く。バシンッ! という大きな音を立てて弦が弾け、物凄い勢いで矢が射出された。飛翔した槍のような矢は素晴らしい精度で岩に命中し、矢が深く突き刺さって岩が砕ける。
「すごい威力だな」
「クロスボウよりも遠くまで飛ぶから、より遠方の敵を攻撃できるな。破城槌とかも遠くから破壊できると思うぞ。次はこいつだ」
バリスタをインベントリにしまって、今度は鉄製の大砲を取り出して胸壁の上に設置する。大砲と言ってもそこまで大きなものではない。砲身長は1mくらい。口径は5cm弱くらいだ。
「これは……? 銃なのか?」
「惜しいな。銃じゃなくて砲って言うんだ。これは旋回砲って名前でな、銃よりもでかい弾をもっと遠くに飛ばす武器だよ。威力的にはさっきのバリスタより上だけど、製造コストがな……見ての通り鉄を大量に使うし、火薬も砲弾もコストが重い。威力は凄いけどな」
「つまり、量産には向かないというわけだな?」
「少なくとも、今はな。メリナード王国を奪還して、鉱山を獲得でもすれば話は変わると思うけど」
と言っても、火砲が必要な場面なんてそうそうあるとも思えないが。ダナンやレオナール卿から話を聞く限り、バリスタでも十分に思えるんだよな。
この世界の武器、特に投射兵器に関しては未発達の一言である。精々弓矢や投げ槍、竿付き投石紐くらいが良いところで、投石機やバリスタ、クロスボウなんかの機械的な構造を持つ武器が全くと言って良いほど発達していない。
推測でしか無いが、その原因は魔法にあるんじゃないかと思っている。
熟練の魔法使いが放つ魔法は弓矢よりも遠い場所から強力な攻撃を敵に与えられる。自然と魔法使いの地位は高くなり、彼等は支配者側に回る。要は貴族や王族だな。
支配者となった彼らにとって、遠距離から自分達を殺しかねない投射兵器は脅威だ。だから、その発展は彼らにとっては嬉しくない出来事だろう。地位を得た魔法使い達、つまり貴族や王族達の手によって機械技術の発展が妨げられているんじゃないかと俺は睨んでいる。
ただ単に、魔法があるから必要とみなされず発展していないだけかもしれないけど。長老達の天変地異級の喧嘩を見てると本当にそう思う。
「これも試射してみるか。さっきは大きい弾を撃つっていったけど、こいつは実は別の方法を想定してるんだ」
「そうなのか?」
「ああ。ちょっと待ってくれよ」
インベントリから専用弾薬を選択し、コマンドアクションで装填する。自力で装填するより確実だからな! 前装式大砲の装填なんて流石に知識がねぇよ。装填が終わり、旋回砲の照準をつける。
「撃つぞ」
「ああ」
ドォン! と、ボルトアクションライフルとは比べ物にならないほどの砲声が響き渡り、荒野に無数の小さな土煙が立った。
「すごいな、今のは。小さい弾を沢山飛ばしたのか?」
「ああ、キャニスター弾って言ってな。さっき見せた散弾銃で撃つ弾のどでかいやつだな。砦に押し寄せる敵兵を面制圧するんだ」
これが十台も砦の城壁に設置されれば歩兵はひとたまりもないだろうな。現状の生産能力じゃ配備するのは無理だけど。あと教練がな……正直、俺がコマンドアクションで装填するのを見てもらって覚えてもらうしか無い。知識がないからな。
「いつの間にこんなものを作っていたんだ……」
「里の防壁改築期間にコツコツとな」
どれもこれも作成に時間がかかって大変だったよ。これだけ色々作った挙げ句、準制式採用したのがボルトアクションライフルだったってわけだ。威力、運用性、弾薬消費とか諸々考えた上でな。
今出した武器はバリスタ以外は試作品、というかほぼ俺専用品みたいなものだ。
「ま、今見せた中で正式採用というか、量産できるようなのはバリスタだけだな。ある意味クロスボウの延長みたいな武器だし、習熟も比較的容易だろうし」
この世界力自慢の亜人なら一人で巻き上げるようなのもいるかもな。シュメルとか。シュメル用の大型クロスボウとか作ってみるのも面白いかもしれない。
あと、対人地雷も量産しておこう。人数差を埋めるのにあれほど有効な武器もないからな。
「そうか……だが、あの拳銃だったか? あれはなんというか、美しいものだったな」
「ん、気に入ったのか? 良かったらシルフィ用に一丁作ろうか?」
「良いのか?」
「良いよ。作っておく」
ボルトアクションライフルにはあまり興味を示さなかったシルフィがリボルバーには興味を示すとは……似合うな。片手にペイルムーン、片手にリボルバーとかセクシーじゃない? カウボーイハットとかもプレゼントしようかな。
銀髪カウボーイダークエルフとか属性盛りすぎですね、はい。でも見てみたいよね? 俺は見てみたい。
弾薬に関しては俺が使う分くらいは作ってあるし、シルフィにも分けてあげれば良いだろう。使い方もちゃんと教えてやらないとな。拳銃の暴発で怪我とか死んだとか絶対にあってはいけない。
そう考えながらシルフィ用のリボルバーを改良型作業台にクラフト予約を入れたところでレオナール卿達が帰ってきた。なんだか慌てているな。
「おかえり。どうしたんだそんなに慌てて」
「すごい音が聞こえたから急いで帰ってきたのである。さっきの音は何であるか?」
あ、旋回砲のせいだったのね。正直すまんかった。
武器開発話もそろそろ終わりだヨ!_(:3」∠)_