第388話~グランデ、怒る~
18時台に投稿できているので実質セーフ( ˘ω˘ )(アウト
「つまり、誰かわからんが妾がコースケに騙されるか何かして付き従っているのではないかと疑っている連中がこの城にいると。そういうことじゃな?」
「ごく大雑把に言えばそういう可能性が無きにしもあらずかなって感じ――」
「よし、わかった。この城を根本から崩して瓦礫の山に変えてやろう。コースケのみならず妾まで侮るとは良い度胸じゃ。その喧嘩買ってやろうぞ」
「OKOK、お怒りはご尤もだがステイステイ。むしろそうして欲しくないからこうして話したんだ。ちょっと落ち着いてくれ」
俺達の話を聞いて憤慨するグランデを宥めようとするが、激怒したグランデは全く聞く耳を持ってくれない。おこである。激おこである。尻尾ぶんぶん丸である。いや、ぶんぶんというかドンドンか。よほど強く打ち付けているのか、スライム素材製の緩衝材をつけているにも関わらず石造りの部屋が揺れているように感じる。
「落ち着けるか! コースケと妾のことを何も知らんくせにコソコソとつまらん小細工をしおって! 妾は許せんぞ!」
そう言ってグランデがダンダンと地団駄を踏む。うん、カーペットが傷つくし、なんかカーペット越しに床が砕けてそうな音が聞こえるからやめようね。
うん、ヤバい。思った以上に激おこである。これはグランデの精神的逆鱗に触れてしまったようだなぁ。さて、どうしたものか。こうまで激怒すると流石に食い物で釣るのも難しそうだし……ナチュラルに食い物で気を逸らそうとしてるのヤバいな、俺。反省しよう。
「わかる。私もできることなら今すぐ魔道飛行船の全能力をもってこの城を瓦礫の山に変えてやりたい」
「アイラさん?」
どうやって説得しようかと頭を悩ませているところなのに更に煽るようなことを言うのはやめてくれまいか? なまじっかそうすることが出来てしまうだけに洒落にならない。初手で飛竜の発着場を破壊してしまえば、常時上空警戒をしている数騎の竜騎兵くらいなら魔道飛行船の敵じゃないだろうからな。
「でもそんなことをしたらコースケが困るから私はやらない」
「むっ……」
そう言ってドヤ顔をするアイラにグランデの勢いが弱まる。
「じゃが妾にもアレじゃ、ぷらいどというものがある。番であるコースケと、コースケを番と認めた妾自身のことを虚仮にされては妾とて引き下がれんぞ」
先程よりは落ち着いた――それでもまだガンガンと尻尾で床を叩いている――様子でグランデがちろりと俺に視線を向けてくる。ううむ、ここはどう声をかけるべきか。
「まぁ、ドラゴニス山岳王国の人にしてみればグランデも俺もまだよく知らない人だからな。どんな人なのかっていうのをできるだけ正確に知りたいって気持ちが沸くのも致し方ないのかもしれん」
「その考え自体が不遜かつ礼を失しているというのじゃ。妾はコースケを選び、コースケは妾を受け入れ、妾とコースケの関係は一族に認められた。そこに余人が口を挟む余地など存在しないじゃろうが」
「確かに」
まさか俺がグランデに説き伏せられる時が来るとは夢にも思わなんだ。しかし確かにそう言われればグランデの言う通りである。
「でもそれと暴れて壊して良いかというとまた別の話だ。でもグランデの言うことも尤もだし、これはこちらからも仕掛けるというか、脅すというか、釘を刺す必要はあるように思えるな」
このまま放置して延々と『試し』を仕掛けられ続けるのも業腹だ。そもそも、建国記念祭なので是非お越し下さいとか言って呼びつけておいて、お前本当に竜の伴侶に相応しいんか? 相応しいってんなら証明しろや! と言わんばかりにマッスルライオンをけしかけてくるとか何なん?
「うん、なんか俺も今更ながら腹が立ってきたな。魔煌石爆弾で城ごと爆破してやろうかな?」
「いやそれはやりすぎじゃろう?」
「それはやりすぎ」
「コースケくん、落ち着いて」
「そ、それはやりすぎですよぉ……」
冗談なのに全員にマジトーンで止められた。いや流石に冗談だよ。やるわけ無いだろ。やるとしてもこっそり城の各所に爆発物ブロックを仕込んで爆破するくらいだよ。
「それは冗談として、このまま舐められっぱなしも良くないよな。とはいえここでもまた武力オブパワーみたいな感じで強力な力を見せつける砲艦外交じみた真似をするのもな……」
話に聞く限り、基本的にドラゴニス山岳王国はかなりプライドの高い国だ。言い換えれば、面子を大事にする国だ。そして強き者を尊び、惰弱な者を軽蔑する。そうなると、彼等に俺の存在を認めさせるには彼等の尊ぶ力を示して――あれ? 結局いつもの武力オブパワー路線では?
「ちょっと考えてみたけど、結局いつもの単純なる暴力を見せつけるのが一番手っ取り早かったりするのか?」
「それはそう」
「こう言ってはなんだけど、結局のところ常に魔物に脅かされている土地であればあるほど力を尊ぶ傾向は強いのよねぇ……」
アイラが肩を竦め、ドリアーダが困ったような笑みを浮かべる。うーん、グランデの威光で虎の威をかる狐状態になるのもどうかと思ったんだが、それ以外となると結局脳味噌を筋肉にして暴力で片付けるのが一番ってことになるのか。悩ましいなぁ。
「建国記念祭本番までまだ数日ある。焦る必要はない」
「それもそうか。今晩の晩餐会とやらで探りを入れてみるのもアリか」
「そうね。私が思うに、この流れはドラゴニス山岳王国全体の総意という感じではないと思うの」
「でも国王陛下の預かり知らぬところで他国の護衛に他国の王配を公然と侮辱させて、その上で決闘までやらせるってのは大事じゃないか? もしこれが王族による謀略だったら、場合によっては廃嫡とか王位継承権剥奪とかにならない?」
俺の指摘にアイラとドリアーダとついでにゲルダとメメが沈黙する。一方グランデは何を言っているのかわからないという顔をしている。
「それが何かまずいのか?」
「まずいと言えばまずいんだよなぁ……」
公然と糾弾して大々的に犯人探しをするように要求してしまうと、下手をするとドラゴニス山岳王国の王族の誰かが失脚することになるかもしれない。場合によってはそれは強い遺恨を残すことになりかねない。
「これはドリアーダに任せたほうが良さそうだなぁ。俺は腹芸なんて出来ないぞ」
「善処します」
ドリアーダが苦笑いを浮かべる。俺に出来ないことは出来る人に任せるのが一番だな、うん。