第387話~お小言~
一時間は遅れなかったから実質間に合ったようなものでは?( ˘ω˘ )(そんなわけがない
「貴方達は何かやらかさないと死ぬ病気とかに罹っているのでしょうか?」
「反省してます」
「ん、でも仕方がなかった」
ゲストルームに戻ると、既に俺達が起こした――正確には巻き込まれただと思う――騒動をどうやってかは知らないが既に聞きつけていたドリアーダにお小言を頂くことになった。
ああ、ドリアーダの横に控えているゲルダが満足そうなお顔でドヤ顔をしている理由がわかった。多分ゲルダが何らかの方法で情報収集してたんだな、これは。何をどうやったのかわからんが仕事が早い。
「公然と侮辱されて黙っているわけにもいかない」
そう言いながらアイラが並んで横に腰掛けている俺の服をクイクイと引っ張る。えぇ? まだお説教中ですよ? と思ったのだがどうやら引く気は無いようなので大人しくアイラの要求に従って彼女の膝に頭を乗せて横になる。
「それはそうかもしれませんけれど……って、なんですそれは?」
「約束通りなでなでしている」
「なんですかそれズルい」
「あとで交代」
「ならよしとしましょう」
よしとしちゃうのか。まぁ俺としては構わないんだけれども。
「それで、わざわざ挑発に乗って決闘を受けた理由は何なんだ?」
「アレはドラゴニス山岳王国の仕込み。コースケの実力を見たかったんだと思う」
「えぇ……?」
困惑する。俺の実力を見たかったって、一体どういうことだ? まるで意味がわからんぞ。
「正確には、ドラゴニス山岳王国の誰かの差し金でしょう。国ぐるみの策謀ではないように思います」
「俺個人の実力というか、戦闘能力を把握することに一体何の意味があるのだろうか。というか、国ぐるみじゃないのに竜騎士や他国の護衛を動かしたってことは相当地位の高い人物の差し金ってことだよな」
察するに軍務関係で人脈を築いている人物だろう。もしかしたら震える手でグランデの血が入った水晶瓶を運んでいった王太子とかかもしれない。まぁ先入観を持つのは良くないか。リセットリセット。
「人望も人脈もある人物なのは間違いないでしょう。察するに、コースケくんがグランデちゃんの伴侶として相応しいかどうかを探っているとか、そういう感じではないかしら」
「ますます意味がわからない。仮に探っている人の基準で相応しくないと判断されたとしても、俺とグランデには何の関係もない話だろうに」
「ドラゴニス山岳王国の竜信仰――というか父祖信仰は文字通り宗教。アドル教と違って宗派などは存在しないけど、所謂タカ派が居ないわけではない」
「ぐえー……また面倒そうなワードが飛び出してきたな」
タカ派。所謂強硬派という連中だ。宗教系のワードで表現するなら狂信者とか原理主義者といった連中だろう。なんだろう、この世界では何が何でもそういった連中に煩わされる運命なのだろうか。
「詳しくは知らんけど、そもそもドラゴニス山岳王国の父祖の物語って人間の娘に恋したドラゴンが人間と同じ姿になって添い遂げたとか、そんな感じの物語じゃなかったか? ドラゴンの伴侶となった娘さんが実は滅茶苦茶強くてドラゴンをげんこつで殴り倒して『貴様、我の夫となれ』『はい(涙目)』みたいな話じゃないよな?」
「コースケの考える話は面白い」
「コースケくん、それドラゴニス山岳王国の人に絶対話さないでね?」
アイラにはウケたようだが、ドリアーダは本気のトーンで絶対に話すなよと釘を刺してきた。それは話せってフリかな? 押すなよ? みたいな。まぁ宗教関係は触ると危ないから話すつもりはないけど。
「話が逸れたな。つまり、ドラゴニス山岳王国側の何者かの策であることを見抜いた上で敢えてその策に乗ってやることで貸しを作ったとかそういう話ってことか」
「そんな感じ。その策に乗って実際にコースケの力を見せつけることによって、これ以上変なことを企むのはやめさせるという意図も含んでいる」
「うーん、なるほど……その目論見は上手くいくんだろうか?」
「行動しなければ何も得られない。何にせよ鬼札は私達の手の中にある」
そう言ってアイラが大きな目をクッションの山へと向ける。確かにあれは俺達にとって、そしてドラゴニス山岳王国に対してのジョーカーだな。グランデが白と言えば黒も白になるようなところあるからな、この国。
「対策はアレか。グランデと一緒に行動するくらいか?」
「そうね。グランデちゃんと一緒に行動している時に下手なことをすればグランデちゃんの怒りを買うことになるでしょうから、ドラゴニス山岳王国の人はそうそう手を出せなくなるわね」
「でも、俺としてはグランデをそういう感じに都合よく、手札みたいに扱うのは嫌だな。グランデがそう望むならともかく、俺達の都合で振り回すのは反対だ」
グランデはあくまで俺との個人的な縁から行動を共にしてくれているのだ。それを利用してメリナード王国の利益に繋がるように行動するのは俺としては避けたい。
「コースケならそう言うと思った。でも、グランデに事情は説明したほうが良い。その上でグランデに判断させるのが良いと思う」
「私もそう思います。コースケくんとグランデちゃんはどちらかが相手を一方的に庇護するような関係ではなく、対等なパートナーなんでしょう?」
「それはそうなんだけど……下手に話すと怒り心頭で暴れ始めないか心配でな」
「「あぁ」」
なんだかんだ言ってグランデは俺に激甘な上に、自分自身の判断が全てというか実にドラゴンらしい唯我独尊な気質を持ってもいるので……グランデ自身が選んだ俺というパートナーを相応しいかどうか他人が試した。それも下手すると俺が大怪我を負ったかもしれないような方法で、なんて話を聞いたらそのままこの城を崩しにかかってもおかしくない。
「まぁ、俺が居ないところでその事実を知った時の方が危ないか……できるだけ穏便に済むよう注意しながらグランデにも情報を共有しよう」
「ん、それがいい」
そういうわけで、俺達はグランデを起こすことにした。そうだな、丁度良い時間だしおやつでも用意するか。それでいくらかでも鎮静効果を得られれば良いんだが。