第386話~決闘~
一回目の副反応は大したこと無くてよかったです( ˘ω˘ )(遅れたのはユルシテ
時は少し遡る。
「それじゃあコースケ、頑張って」
そう言ってアイラは取り出していた短杖をローブの中へとしまいこみ、俺の顔を見上げた。
「うん?」
俺、困惑。さっきの流れはアイラがあの人相の悪いライオンマンに決闘を仕掛けたって流れじゃなかったか? 俺が頑張るの? なんかおかしくない?
「あのオラついた躾のなっていない猫をコースケがぶっ飛ばせば万事解決する」
「待って待って。俺? 俺がやるの?」
「侮辱されたのはコースケだから、コースケ自身が戦って名誉を取り戻すのが常道」
「なるほど……?」
そう言われれば確かにそうかもしれない。あくまでもライオンマンが侮辱した対象は俺であって、アイラはそれに激怒したのである。侮辱の内容も考えれば、俺自身があのライオンマンに力を示すのが一番後腐れがないというか、侮辱された内容を完璧に否定することに繋がるだろう。
「外交的な意味で不味くない? あと、アイラは俺の戦い方を知ってるよな? 手加減とか全くきかないんだが?」
「殺しさえしなければ私が魔法で治す。魔法薬もある。腕の二本や三本吹き飛んでも再生薬がある。半殺しを超えて九割くらい殺しても問題ない」
「いや腕は二本しか……そうじゃないな。というかこんな簡単に挑発に乗って良いのか?」
「これでいい。貸し一つになる」
「貸し?」
突然意味のわからないことを言い始めたアイラに思わず首を傾げる。貸し一つとは誰に対するものなのだろうか? つまり、俺が決闘をすることを望んでいる人がいて、それを素直に受けることによってその人――あるいは集団に対する貸しになるってことだよな。
「コースケは何も考えないで即死させない程度にあの生意気な猫を叩き潰せばいい。多少派手でも構わない」
「いやだから、俺の戦い方は手加減が難しいって」
「大丈夫。獣人は身体が丈夫だからそうそう死なない。というか、あまり舐めてかからないほうがいい。この城まで来ている他国の人間ということは、それなりの実力者。レオナール卿やザミルほどじゃないと思うけど、ダナン並みにはやるかもしれない。私はちょっと釘を刺してくる」
そう言ってアイラは立会人をすると言っていた竜騎士の方へとテクテクと歩いていってしまった。
俺に突っかかってきたライオンマンは愛用の武器と思われるグレイブ――刃がでかい薙刀のような武器を振ってウォーミングアップをしている。
「えぇ……」
もうなんかやる気満々である。俺は痛いのは嫌なんだけど……まぁもうこれ以上文句を言っても仕方がないんだろう。それならもうそれなりに対処する他あるまい。
それなりの実力者が相手となると、拳銃では少々心許ない。前に試したことがあるが、ダナンでも45口径の拳銃弾は余裕で避けたり武器でいなしたりしていたし、レオナール卿やザミル女史には拳銃では刃が立たなかった。無論、シルフィにも。彼らをして対処が難しいと言われたのは、拳銃弾を高速で連射するサブマシンガンや、同時に複数発の銃弾を放つショットガン、それにサブマシンガンよりも高初速、高威力のライフル弾を発射する銃器による銃撃である。
まぁ順当に行けばサブマシンガンで様子見。本命ショットガン。無慈悲に行くならアサルトライフルか汎用機関銃で制圧といったところだろう。でも、ライフル弾は威力も貫通力も高すぎて危ないんだよなぁ。
やはりここは本命のショットガンで行くか。一口にショットガンと言っても色々あるわけだが、今俺が手元に用意してあるのはシンプルなポンプアクション式のショットガンが一丁と、上下二連式のショットガンが一丁。あとは水平二連式のショットガンの銃身を切り詰めたソウドオフショットガンが一丁だ。こんなことならマガジン給弾式の自動式ショットガンを作っておけばよかった。
「両者、中央へ。決闘を始める!」
そして冒頭へと戻る。
「さぁ、戦ろうか!」
「どうして……? どうして……?」
ビュオン! とマッスルライオンマンが振るったグレイブが風を巻き起こし、俺の頬を撫でる。すっげぇ怖いんですけど? あんなのまともに食らったら完全に真っ二つだが? だって距離かなりあるよ? 多分余裕で10m以上あるよ?
「真剣でやるの? これ」
「怖気づいたか? 決闘である以上は真剣を使うのが当たり前だろうが。命が惜しいなら決闘を取り下げても構わんぞ?」
マッスルライオンマンの言葉を聞いた俺はアイラに視線を向けてみるが、アイラはふるふると首を横に振った。たまに無茶振りするよね。アイラって。
「ではメリナード王国王配、コースケ殿と、ライオス族長連合、切込み隊長イオルン殿の決闘を執り行う。各々、自らの名誉のために全力を以って戦うが良い」
俺の身分を初めて耳にしてマッスルライオンマン――イオルンの顔に若干動揺が……動揺してないな? うん? これはどういうことだろうか? こいつは俺がメリナード王国の王配であることを知っていたということか?
「始め!」
考える間もなく決闘開始の合図が発される。互いに最初は様子見――などするわけもない。
「覇ァッ!」
「おっと」
「うごォっ!?」
速攻で間合いを詰めて俺を真っ二つにしようとしてきたイオルンと俺の間に高さ2m、幅3m、奥行き1mの石壁を設置する。突如現れた石壁に激突したのだろう。イオルンの苦悶の声が壁の向こうから聞こえる。
さて、どうしたものかな。一瞬で10m近い距離を詰めてくるような相手とまともに戦うのは嫌だな。でも、この決闘場はそんなに広くない。逃げ回るにも限界がある。
「くっ、面妖な!」
ショートカットからポンプ式ショットガンを取り出し、イオルンが驚いている間に設置済みの壁の右側に壁を増設しつつ走る。奴は右手でグレイブを操っていたので、奴から見て左手側に逃走した方が武器は振るい辛い筈だ。後ろから回り込んでくるのを警戒しつつ、銃口は前に向ける。奴の身体能力を考えれば恐らくこうすれば――。
「ちょこまかと――」
「いらっしゃい」
増設しつつある壁を先回りして姿を現したイオルンに発砲する。俺のショットガンに装填されている弾薬は同時に九発の鉛玉を発射する尤もオーソドックスなタイプの散弾だ。銃口初速は凡そ音速と同等。つまり、イオルンにしてみれば音と同じ速度の突きを同時に九発放たれたのと同じ状態である。
まぁショットガン使うなら角待ちは基本だよね。
「ぐおあァッ!?」
至近距離での発砲であるため、発射炎が見えると同時に着弾しているだろう。距離が近いから殆ど弾は拡散していない筈だ。殆ど同じ場所を拳銃で同時に九発撃たれたようなものだが――。
「グッ、ヌゥ! これしきぃ!」
「マジか」
あの一瞬で身を翻して直撃を免れたらしい。とは言え完全に避けきることはできなかったようで、右腕から激しく出血している。とはいえ、あれではもうまともに武器は振るえまい。俺も会敵と同時にバックステップして距離を空けているし、次弾の装填も完了している。ダメージでたたらを踏んでいるイオルンの足元にすかさず発砲する。
ズドォン! という発砲音と共にイオルンの足元で石畳が砕け散り、煙を上げた。
「降参しろ。今のはわざと外した」
「こんな……一合も打ち合うことすらなく敗北を認めるなど」
「俺の武器は手加減がきかないんだ。これ以上抗うなら命を貰うことになるぞ」
グレイブを取り落した右腕を押さえているイオルンから距離を取りつつ、その土手っ腹にショットガンの銃口を向ける。こういう時に一撃必殺を狙って頭を狙ったり、無力化を狙って手足に照準するのは悪手だ。確実に無力化するなら胴体に散弾を打ち込むのが確実だし、急に動かれても外しづらい。
「そこまで! コースケ殿を勝者とする。この決闘によってコースケ殿の名誉は守られ、戦う力があることが証明された!」
立会人を務めていた竜騎士が声高らかにそう宣言し、何やらひらひらとした衣装を着たリザードマン達がイオルンに近づいていった。判別が全くつかなかったが、どうやら彼等――彼女等か?――はこの城に勤める治療師か何からしい。そう理解した俺は息を吐きながらショットガンをリロードし、ショートカットからミスリルツルハシを取り出す。この壁をこのままにしておくわけにもいかないだろうからな。
「コースケ、頑張った」
「初見殺しが上手くいっただけだ。次は同じ手は通じないだろうな」
俺の武器の特性と石壁を設置する能力は知られた、俺の戦い方を見た連中は対策を練ってくるに違いない。
「それで、敢えて俺にこんなことをさせた理由は教えてくれるんだろうな? すげぇ怖かったんだぞ」
「ん、部屋に戻ったら教える」
「ならよし。こんな無茶を強いるのはこれっきりにしてくれよ。この世界の戦士相手に近距離戦は本当に肝が冷えるんだ」
マジで洒落にならないんだよ。身体能力が違い過ぎる。初見殺しを駆使しないでまともにやりあったら、俺なんて一瞬で真っ二つにされるぞ。
「ん、ごめん。後でお姉ちゃんがなでなでしてあげるから許して」
「……まぁ、いいよそれで。うん」
なでなではどうでも良い……いや良くないけど。それで懐柔されたわけじゃないけど。本気で悪いとは思っているようだから許す。なでなでで懐柔されたわけじゃないけど。