第384話~堕落への誘い~
言い忘れていましたが来週土曜辺りに一回目のワクチン接種なので、土曜から数日更新できないと思います( ˘ω˘ )(ユルシテネ
「疲れた」
「よしよし。アイラは働き者で偉いな」
「むふー」
魔道飛行船での監督を終え、俺達に割り当てられた部屋に到着したアイラを抱きしめてなでなでしてやる。大変に満足そうで結構なことだ。アイラは可愛いなぁ。
獣人メイド達も到着し、各々ゲルダが割り振った部屋に荷物を運び込んでいる。
「どうして私はこっちの部屋なのでしょうか」
「ご主人様愛が強すぎるからじゃない?」
「寝室と繋がってる部屋だと夜這いしそうだと思われてるとか」
「ぐぬぬ……」
馬獣人のシェンと鼬獣人のフェイに突っ込まれてオリビアが唸っている。ぐぬぬじゃねぇよ否定しろよ。まぁ冗談で言っているんだろうけどさ。冗談だよな?
ちなみに彼女達に割り当てられたのはドリアーダの部屋に繋がっているコネクティングルームである。
「私達、こっち」
「うん、いっしょ」
「つかれたー」
俺の部屋に繋がっているコネクティングルームに荷物を運び込んでいるのは犬獣人の姉妹であるルナとラナ、それに鼠獣人のミトだ。全体的にちんまい三人だ。
「荷物の搬入はこれで終わりですぅ」
「では私は周辺の把握とこの城のメイド達に挨拶してきますねぇ」
リビングに繋がっているツインの寝室はメイド長のゲルダと大兎獣人のメメが使っている。狐耳獣人のビャクは魔道飛行船に残っており、ゲルダと交代でこちらの部屋に泊まるらしい。あっちはあっちで人手が要るからな。この後もゲルダとメメ以外は船に戻って色々と雑務をこなすらしい。荷物を片付け終えたメイド達がメメだけを残してパタパタと部屋から出ていく。
「仕事はどうだ? メメ」
「はぁい、覚えることが多くて大変ですぅ。わたし、あんまり頭がよくないからぁ……でもぉ、皆さん優しいですしぃ、仕事もやりがいがあって楽しいですぅ」
ニコニコしながらメメがそう言う。うん、言っている内容はとても好意的というか、模範的な回答なんだけど……なんだか不安になるな。
「大丈夫か? 無理してないか? 本当は辛かったりしないか? 労働環境の改善に関していくらでも相談してくれよ。俺は自分の配下をブラックな――あー、過酷な環境で働かせるつもりはないからな?」
「大丈夫ですよぉ。本当に今の生活には何の不満もないですぅ。不満どころか大満足ですぅ」
「それなら良いんだけど……面と向かって言うのが難しいなら、手紙でもメモでも何でも良いからこっそり渡してくれ。あまり無理に溜め込むなよ?」
「ありがとうございますぅ」
メメは俺に礼を言いながらにっこりと微笑む。いつもニコニコしてるから逆に感情が読みづらいんだよなぁ、メメは。ホッとする笑顔ではあるんだけど、本当に何か内側に溜め込んだりしていないか心配でならない。
「コースケ、状況は?」
「ああ、情報共有しようか」
王城側で起きたことと飛行船側で起きたことに関してアイラと情報共有する。こちらは王族と会談してグランデの血を渡したこと、その際の反応からやはりドラゴニス山岳王国の王族にとってグランデの存在は大変に大きく、それに伴って俺の存在も大きいと思われること。もしかしたら、メリナード王国の王配という立場よりもグランデの伴侶という方が重く見られている可能性もあること。
「なるほど。こっちには小国家連合の人達が沢山見物に来てた。飛竜の発着場への進入は禁止されていたから、遠くから見られていただけだけど。ただ、宿舎に移動する魔銃隊の隊員や文官を捕まえて話を聞こうとするのが何人かいた」
「捕まえて?」
「物理的に拘束してとかそう言う意味じゃなく、単に話しかけてってこと。流石にドラゴニス山岳王国の縄張りで無茶をやるのはいないみたい」
「なるほど。何か対策したほうがいいかな?」
ドラゴニス山岳王国の目があるところでは大丈夫だと思うが、場合によっては脅迫紛いの手を使って情報を引き出そうとするやつもいるかもしれない。
「一応文官が行動する際には魔銃兵の随伴をつけたほうが良いかも知れませんね。もしうちの人員を捕まえて非道な方法で情報を聞き出そうなんて真似をすればドラゴニス山岳王国の顔に泥を塗ることになってしまうので、大丈夫だと思いますが」
「なるほど」
仕事を増やして申し訳ないが、小隊長のテッドとダルコに連絡してそのように取り計らってもらう。それと同時に文官衆にも連絡を入れてくれぐれも気をつけるようにと言い含めておいた。別に魔道飛行船のスペックがどれだけ漏れたところで他国が模倣することなど不可能だと思うが、スペックがわかれば何かしらの対抗策を開発する可能性はあるからな。
それに、魔銃に関しては現物が手に入らずとも仕組みなどがわかれば模倣することはできなくもないかも知れない。むしろこっちのほうが危ないくらいだ。なので、魔銃隊に関しては絶対に魔銃を紛失しないように言いつけておく。
「しかし、こんなに部下を働かせているのに俺はこんなところでゆっくりしていて良いのだろうか……何か、何かやらなければならないのでは……?」
左右にアイラとドリアーダを置いて両手に花、しかもバニーメイドまで侍らせている上に少し離れたところにはドラゴン娘まで寝ているというこの状況。客観的に見ると部下を働かせて美女とイチャついているクソ上司の図なのでは? 俺が部下なら全身全霊をかけてぶっ殺したいぞ。
「コースケは普段働きすぎ。それにこんな状況で使節団のトップがあちこち走り回ってあくせくと働いていたらメリナード王国が軽く見られることになる」
「そうですよ。我慢してください」
左右からアイラとドリアーダが人の心を取り戻そうとする俺を誘惑してくる。しかしここは立たねばならぬのでは? 人として堕ちるかどうかの分水領では?
「よし! 視察に行こう! 他所のお城を見て回って見聞を広めるのは王の伴侶である俺にとって必要なことだ。気晴らしにもなるからこれは労働ではない。完璧だな」
左右から絡みつくアイラとドリアーダを振り切って座り心地の良いソファから立ち上がる。それに犬も歩けば棒に当たるなんて言葉もある。歩き回っていれば何か良いことがあるかも知れない。
いや、本来の意味は野良犬がうろつきまわっていると人間に棒で叩かれるかもしれないとかそういう感じで、無用なトラブルを招きかねないって意味だったか? まぁどっちでも良い。このままここにいると二人に堕落させられそうだ。
「コースケは生き急ぎ過ぎ」
そう言いながら、アイラも席を立つ。ドリアーダはここに残るつもりのようだ。
「次は私の番。ドラゴニス山岳王国には初めて来るから、楽しみ」
「はい。では私はここでお留守番をしていますね」
当然ながらドリアーダを独りこの場に残していくわけにはいかないので、メメがここに残ることになる。従者もつけずに王族が独りで過ごすなんてありえないらしいからな。俺はたまに独りの時間が欲しいくらいなんだけど。
「それじゃあ行ってくる」
「ん、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
「いってらっしゃいませぇ」
ドリアーダとメメに見送られながら、俺とアイラはゲストルームを後にした。