第381話~王族との面談~
昨日作ったカレーを食べます( ˘ω˘ )(もう食べきりそう
「ホスカット陛下、ご機嫌麗しゅう」
「うむ……ドリアーダ姫、久しいな。お父上については残念に思う」
「ありがとうございます」
ぞろぞろと貴賓室に入ってきた人々をドリアーダさんが立って出迎え、挨拶を交わすのをソファに座ったまま見守る。うん、俺も立って出迎えようと思ったんだけどな?
『何故向こうから勝手にやって来る連中相手に何故コースケが立って出迎えなきゃならんのかの?』
という言葉とともにグランデが俺を強引にソファに座らせ、膝の上に上体を投げ出して寛ぎ始めたのでもうどうしようもない。俺もドリアーダさんもゲルダでさえもグランデのフィジカルには全く敵わないからな。こうなると好きにさせておくしか無い。
「それで、そちらが……」
「このような格好で失礼。メリナード王国女王、シルフィエル陛下の伴侶にしてこのグランデの伴侶でもあるコースケだ。お会いできて光栄に思う、ホスカット陛下」
「グランデじゃ。ふむ、やはり竜の血を感じるの」
俺の膝に肘を立てて頬杖を突いたグランデがホスカット陛下とその伴侶である王妃陛下、そして王子や王女殿下達に視線を向け、そう言う。よくわからんが、グランデには王族達に流れる竜の血とやらを感じ取ることができるらしい。
「グランデ様、お会いできて光栄です。我らが父祖もこの慶事を喜んでいることでしょう」
「ふむ? そうかの? まぁ苦しゅうない。コースケ、アレを出してやれ」
「はいはい」
俺はグランデに言われるがままインベントリから三本の小瓶を出した。それは複雑な文様の彫り込まれた水晶の小瓶で、中には真紅の液体が入っている。中身は何を隠そうグランデの血だ。
「妾の血じゃ。なんぞ知らんが、使い途が多いのであろう? お主らにはコースケもシルフィも大いに助けられたと聞いておる。妾はメリナード王国なんぞには何の興味もないが、シルフィは我が友で、何よりコースケは我が伴侶じゃ。受け取るが良い」
グランデの言葉を聞いた王族達の視線が瓶に集中し、それから俺に集中する。怖い怖い、目がマジだよ。俺は内心ドン引きしながら頷く。
「グランデの言うようにこれはメリナード王国から、というようなものではなく、あくまでもグランデが個人的に贈ったものなので、難しいことは考えずに受け取ってくれると有り難い。これはメリナード王国の王配としての言葉でなく、グランデの伴侶としての言葉と受け取って欲しい」
「うむ……シンドリエル」
「はい」
シンドリエルと呼ばれた体格の良いイケメンが震える手で三本の小さな瓶を手に取る。一本一本がそんなに大きくないとはいえ、三本いっぺんに掴み取るとかでけぇ手だな。よく見ると手の皮も相当厚そうだ。
「ああ、その瓶だが」
「っ!?」
俺の声に驚いたのか、シンドリエル――多分殿下が危うく小瓶を取り落しかける。危ないな。まぁ落ちたところで欠けることすらないと思うけど。
「急に声をかけて失礼。その瓶だが、魔法的な処理で非常に頑丈かつ中身の鮮度を保つようになっているらしい。その瓶に入れている限り、百年でも二百年でも中身は大丈夫だとうちの宮廷魔道士が言っていたよ」
「そうか……この瓶だけでも万金に値するものなのだろう。宮廷魔道士殿にも礼を言わせてもらう」
「今回の旅に同行しているから、機会があれば直接伝えてくれると喜ぶと思う」
「承知した」
それからはとりとめもない話をすることになった。主に俺とグランデの出会いとか、グランデの実家――黒き森の深部の話とか、実家の洞窟の中でやった馬鹿騒ぎの事とか。
「うむ、楽しい時間であった。また時間がある時に話を聞かせて欲しい」
「喜んで」
「またの」
俺とグランデの話を聞いて満足したのか、最後に少しだけ実務的な話をして王族達は悠然と貴賓室から去っていった。うむ、あれが王たるものの振る舞いというやつか。しかしなんだ。
「一体何だったんだろうか、今のは」
「恐らく、コースケくんとグランデちゃんの仲がどれくらいのものなのかを確認したんじゃないかしら」
「ふむ? どういうことじゃ?」
「二人がどれくらい親密なのか、間に入り込む余地はあるのか、そして二人の人となりがどうなのかってことを探っていたんだと思うわ」
「なるほど」
俺とグランデの仲が思ったよりも親密じゃなかった場合はなんとかしてグランデを籠絡しようとか考えていたんだろうか?
「なんじゃそれは。つまり妾とコースケの仲を疑っておったのか? 不愉快な話じゃな」
唇を尖らせて怒るグランデを見てドリアーダさんが困った顔をする。ここでグランデにへそを曲げられると色々と大変だからな。
「あくまでも私の想像よ? 案外、単にコースケくんとグランデちゃんに興味があっただけかもしれないし。普通の王族、貴族なら私がさっき言ったような事を考えて行動すると思うけれど、ちょっとこの国の人達のグランデちゃんに対する行動というか考えは普通の王族、貴族の行動とかけ離れているから……」
「それは確かに。魔道飛行船の離着陸場を作る時もグランデの一言で全部すっ飛ばしてOKがでたからな」
普通に考えてこれはありえない。飛竜の離着陸場はドラゴニス山岳王国に無くてはならないものである。ある意味では戦略上の最重要施設とも言えるだろう。その改造、拡張に関する事柄をドラゴニス山岳王国に所属というわけでもないグランデの一声で現場で決めてしまうというのは明らかに異常だ。
「つまり……どういうことじゃ?」
「変な思惑なんて何にも無くて、単にグランデと俺とお喋りしたかっただけかもしれないってこと」
「なるほどのぅ……まぁ、あまり邪な思惑は感じんかったの、そう言われてみると」
尖っていた可愛らしい唇が引っ込み、今度は何やら思案顔になる。ところでそろそろ足が痺れてきたんで膝の上に上体を投げ出したままなのをやめてくれませんかね? 嫌だ? さいですか。
「何にせよ今の所は穏当な感じじゃないか。このまま何事もなく行けば最高なんだけどな」
「そうですね。そうだと良いのですけれど」
「何か懸念が?」
「いえ、ドラゴニス山岳王国に関してはグランデちゃんの存在がある以上はなにも変なことはないと思うんですけど、小国家連合の中にはちょっと問題のある人達も多いので……」
「なるほど」
そういや割と脳味噌筋肉な連中とか蛮族マインドな連中もいるんだっけ。むしろそっちに気をつけるべきなのかね。