第380話~貴賓室へ~
今日は間に合った( ˘ω˘ )
「こんな感じで良いかな?」
「はい、ご主人様。完璧だと思います」
狐耳獣人メイドのビャクが自信有りげに頷く。他の獣人メイド達にも異論はないようなので、これで大丈夫なのだろう。物資管理担当の文官も横で太鼓判を押してくれているしな。目録通りに物資を放り出すだけなら一瞬で終わるけど、何も考えずにただ積み上げると大惨事になるからな、こういうのは。俺はゲームでも物資の管理とか結構細かく分類して整理する方だから、よくわかる。
「じきに船から降りることになるだろうから、そのつもりでな。多分君達は俺と一緒に一番に降りることになるだろうし」
「はい! お任せください!」
山羊獣人メイドのオリビアが気合の入った返事をする。その後ろでは双子の犬系獣人メイドであるルナとラナもこくこくと頷いているし、馬獣人のシェンと大兎獣人のメメも静かに俺に視線を向けてきている。
「ご主人さまー、ボク達の寝床はどうなるのかな?」
いつの間にか俺の直ぐ側まで近寄ってきていた鼠獣人のミトがくりくりとした可愛らしい瞳で俺を見上げながら聞いてくる。
「ドリアーダさんが今交渉中だ。まぁ、俺とかドリアーダさんの世話をして貰う必要があるわけだから、俺達の部屋の近くに用意されるんじゃないか?」
「そっかー、なら安心かな? あいたっ!?」
「ミト、言葉遣い。ご主人様、申し訳ありません。よく言い聞かせておきますので」
「あー……個人的に言うと俺は全然構わないんだが、公の場でやっちゃうと庇うのにも限度があるからなぁ。気をつけるようにしてくれ」
ミトの頭を引っ叩きながら頭を下げてくるフェイに俺は苦笑いを返しておいた。俺としては本当にミトくらい気楽に接してくれたほうが嬉しいんだが、従者である獣人メイド達が公式の場で俺やドリアーダさん、それに他国の王族や貴族に同じような口調で話しかけたら大変にまずいことになる……らしい。俺はピンとこないが、場合によっては解雇とか下手すると牢屋行きなんてことも有り得るとか。身分差こえぇな。
「とにかく、俺からも皆の寝室はできるだけ近くにしてもらえるように言っておくから。心配しないでくれ」
「「「はい」」」
獣人メイド達の息の合った返事を聞き、今度はレザルス殿と話しているであろうドリアーダさんの元へと向かう。
「グランデー、いくぞー」
「うん? もう良いのか」
船倉の片隅に積み上げたクッションに埋もれて寛いでいたグランデがクッションの山の中からぴょこんと顔を出す。うん、可愛い。俺は顔を出したグランデをクッションの山から引っこ抜き、クッションを回収してから船倉を出るのであった。
☆★☆
船倉を出た後は再びドリアーダさんと合流し、レザルス殿に案内されて城の貴賓室へと通された。
「ふーむ、なんか高そうなことしかわからん」
「ドラゴニス山岳王国が飛竜貿易で大陸各地から集めた一級品ばかりですよ。コースケくんにとっては大したものではないかもしれないけど」
「コースケにかかればどんなに豪華とされる調度品も野山の木石と変わらぬからな」
「ハハハ、こやつめ。まぁ事実なんだが」
もしここにある調度品をインベントリにぶち込んで解体したらおそらく殆どはただの木材や石材、金属くずになってしまうからな。俺の能力は市場価値なんて一切考慮してくれないし。でも流石にソファは座り心地が良いし、テーブルの高さや位置、それに手で触った時の触感も良い。天然の木材の質感を大事にしつつ、触った時に角を感じないように注意深くヤスリがけをしているようだ。こういう職人芸の産物と比べると、やっぱ俺のクラフト能力で作るものっていうのは画一的っていうか、規格通りに加工したモノって感じがするな。
そんな事を考えながら出されたお茶を飲んでドリアーダさんと今後の動きについて相談する。まぁ、今後の動きと言っても今回俺達は何か特別な意図を持ってドラゴニス山岳王国を訪れたわけではない。招待されたから、ついでにウチの技術力を見せつけて周りの――特にメリナード王国西方に広がる小国家連合にナメられないようにしようって感じだからな。ドラゴニス山岳王国は俺と、何よりグランデに対して何か一物抱えている可能性もあるが、正直向こうの出方がどうなるかは予想がつかない。
「やっぱり高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変に対応するしかないか……」
「難しそうな言葉で言っとるが、それはつまり行きあたりばったりという意味ではないのか?」
「ハハハこやつめ」
「うゆゆゆゆ」
鋭いツッコミを入れてくるグランデの頬を突き回してやる。うゆうゆ言いながらも決して避けたり振り払ったりしようとしていない辺り、意外とこういうのは嫌いでもないらしい。
「がぶ」
「痛い痛い」
「私を放置していちゃいちゃするのはどうかと思うのだけど。ねぇ、コースケくん?」
「ちょっとまってくすぐったい、くすぐったい痛い!」
甘噛みでもグランデの歯は結構鋭いから普通に痛い上に焼き餅を妬いたドリアーダさんが俺に絡みついて脇腹をくすぐり始めた。やめたまえ、痛さとくすぐったさのダブルパンチはなんだか変な扉が開きそうになるから! というか時と場所を考えよう! あ、待ってなんかノックされてる! 扉ノックされてるから!
「失礼しま――お邪魔致しました」
「待って待ってウェイト! 取り込み中じゃないから大丈夫だから!」
ほら! リザードマンのメイドさんに要らぬ誤解を与えてしまったじゃないか!
「それで何の用かな?」
「はい。王族の皆様がグランデ様とその伴侶であるコースケ様、そしてドリアーダ殿下との面会をお望みなのですが」
「あー、それは受けたほうが良いんだろうな。ドリアーダさん?」
「勿論そうですね」
「グランデ?」
「構わぬぞ」
「オーケー、ではそういうことで」
「ありがとうございます」
メイド服を着たリザードマンが深々と頭を下げてから退出していく。ふむ、リザードマンは俺の目から見ると性別の判別がつきにくい上に、表情を読み取るのも難しいんだが、それでもメイド服を着ていると可愛らしく見えるな。メイド服の力ってすげー。
などと益体もないことを考えていたらすぐに再び貴賓室の扉がノックされた。ついにドラゴニス山岳王国の王族の皆様とご対面らしい。どんなことを言われるかわからないし、気を引き締めてかかるとしよう。