第378話~王都ドラード~
今日は間に合った( ˘ω˘ )
魔物に襲撃されるなどの問題も特に起こらず、メリナード王国の使節団一行を乗せた魔道飛行船はドラゴニス山岳王国の王都であるドラッドに辿り着いた。ちょっと変わったことがあったと言えば、ドラッドから迎えの竜騎兵が十騎ばかり緊急離陸してきたことくらいか。
なんだか最初はものすごく警戒されていたような気がするけど、あれは歓迎。いいね?
とにかくドラッドに着いたわけだが、これがなかなかに珍妙というか、いかにも異世界の歳って感じの見た目で実はちょっと感動している。王都ドラッドは巨大な岩山に作られた都市だったのだ。
頂上に当たる部分に立派な王城が建てられており、岩山の外部に張り付くように様々な建物が建っている。どうやら岩山の内部にも街が形成されているようだ。
そして王城のすぐ横に突き出ているのが飛竜の発着場であるらしい。
「よし、推力カット。高度を維持して待機しろ。下で発着場を整備次第着陸だ。総員着陸準備」
「アイアイサー」
「艦の統制はアイラに任せる。飛行艇で降りて着陸地点を確保するぞ」
「それじゃあ、私がついていくわね」
ドリアーダさんが同行者として名乗りを上げる。まぁ、妥当かな? 着陸地点を確保するための交渉はドリアーダさんに任せるとしよう。
「妾も行ったほうが良いじゃろうな」
「いざという時のことを考えると助かるな」
「うむ、存分に頼るが良いぞ」
万が一小型飛空艇がトラブルで墜落しそうになってもグランデなら小型飛行艇を担いで飛べるからな。俺やドリアーダさんが乗っていても何の問題もないだろう。
「話を通すのにカルータス殿にも来て貰ったほうが良いよな」
「そうですね。あとは護衛か従者を連れて行くべきですが」
「両方こなせるのはゲルダだな」
「そうですね……今回は親善訪問でもあるわけですから、必要以上に護衛を目立たせるのは得策ではないかも知れません。彼女にしましょう」
「OK、じゃあ甲板に呼び出すとしよう」
艦橋の魔導伝声管を使ってゲルダを甲板に呼び出し、グランデとドリアーダさんを引き連れて俺達も甲板へと向かう。カルータス殿は甲板で竜騎兵の指揮を取っている筈だ。小型飛空艇も甲板に用意してあるから都合が良いな。
「おや、お揃いで……着陸に関しては今連絡をしていますが」
「うん、その事でな。今から下に降りようと思う」
「下に……? しかしこの甲板の広さでは飛竜は……まぁなんとか着艦できるかもしれませんが、飛竜の重量に耐えられるので?」
「それは多分大丈夫だと思うけど、ぶっつけ本番でやるのは事故が怖いな。なので既に何回も地上との行き来ができている物を使う」
そう言って俺は甲板の後部側、艦橋に近い位置に設置されている小型飛空艇を指差した。残念ながら設置されているのは左右に一隻ずつの二隻だけで、乗組員全員が乗り込むのには全然足りていない。まぁ、乗組員全員に落下制御の魔法を込めた魔道具を配備しているので、全員がパラシュートを常に装備しているようなものなのだけども。
「あれですか。気になってはいたのですが、あれも飛ぶので?」
「まぁ少人数を地上との間でやり取りできる程度には。長距離飛行には全然向かないな。防御手段も乏しいし」
「確かに。あれではワイバーンの体当たりを受けただけでバラバラになってしまいそうだ」
そんな話をしている間にゲルダも甲板に姿を現した。既に甲板に俺の姿があるのを見て慌てながら全力でダッシュしてくる。おいおい、勢い余って甲板から落下するなよ?
「す、すみません、遅れましたぁ!」
「いや、単に距離と情報伝達速度の問題だろう。謝らなくても良いぞ」
「うぅ……すみませぇん」
俺やドリアーダ、グランデに賓客であるカルータス殿を待たせてしまったと自分を責めているんだろうが、本当に気にする必要はないんだけどなぁ……まぁ後で改めて大丈夫だからと言ってやるとしよう。
「今から下に降りて飛竜発着場の拡張を打診する。ドリアーダさんは直接交渉に当たってくれ。ゲルダはドリアーダさんに付き従ってくれ。できるな?」
「はいっ」
「グランデは俺についててくれ。作業中に足を踏み外して落ちたりしたら助けてくれよ」
「うむ、任せておくが良い」
そんな話をしながら小型飛空艇へと乗り込む。俺以外は女性ばかりで若干カルータス殿が居心地悪そうにしていたが、少しの間の辛抱なのでどうか我慢して欲しい。
「全員シートベルトをつけるように。あと、カルータス殿はこれを」
俺はインベントリから落下制御の腕輪を取り出し、カルータス殿に渡す。
「これは?」
「落下制御の魔法が込められた腕輪だ。万が一この飛空艇が落ちた時の保険だな」
「役に立つことがないよう祈っておきます。使い方は?」
「腕輪に魔力を流すか、腕輪の上部にある白銀の部分に手を触れるだけで発動する。その場合は使用者の魔力を強制的に吸い出すことになるな。使用する魔力の量は大した量じゃないらしいから、魔法使いじゃない一般人でもこのくらいの高さなら安全に降りられるそうだ」
「コースケ殿は……?」
「俺には魔力が無いから使えないんだなこれが」
魔力結晶や魔晶石などの外部魔力源を使うタイプならなんとかなるんだが、そうなると腕輪サイズにするのが難しいんだよな。どうしても外部魔力源を嵌め込む機構とか取り付けなきゃいけないし。
「まぁ俺には頼りになる相棒がいるから」
「コースケ、相棒ではないぞ。番だ」
「うん、そうだな。相棒どころの関係じゃないものな」
「うむ」
俺の全肯定にグランデは大変満足そうな面持ちである。実際グランデには大変に助けられているし、相棒などという言葉で表現するのはある意味生温い関係かもしれない。
「ドラゴン様と伴侶殿の仲が良好なようで何よりです」
そう言いつつ、砂糖でも口の中に突っ込まれたような表情をしているな、カルータス殿は。甘えモードのグランデはこんなもんじゃないぞ?
「コースケくん、早く降りたほうが良いんじゃないかしら?」
「それもそうだ。では発進」
落下制御装置を起動してから小型飛行艇側面にあるレバーを操作し、小型飛空艇を魔導飛行船から切り離す。よし、それじゃあ安全運転で下に参りましょうかね。
☆★☆
「コースケ殿、お久しぶりです」
「レザルス殿も。今回はお世話になります」
小型飛行艇で飛竜の発着場へと降り立った俺達を出迎えたのは以前ドラゴニス山岳王国からの使節としてメリネスブルグに訪れたレザルス殿だった。相変わらず角が立派なイケメンである。
「伝令から聞いたのですが、あの船……飛行船ですか。アレを着陸させるために何か申し出があると」
「うん、そうなんだ。レザルス殿はメリネスブルグに滞在している間に俺が様々な建物を建てる様子を見たか、あるいは誰かに聞いたりはしたよな?」
「えぇ、まぁ。情報収集が任務でもありましたから。なるほど、コースケ殿の能力で?」
「そういうことだな。とりあえず臨時で船が降りられるだけの広さでこの発着場を拡張したい」
そう言いながら俺は飛竜の発着場を見渡した。なかなかの広さがあるな。
飛竜が空へと飛び上がるのには多少ながら助走が必要であることはわかっている。まぁ、多少とは言ってもなかなかの巨体だ。ワイバーンもなかなかの大きさだったが、飛竜はそれに輪をかけて大きい。多分地球のゾウよりもでかいな。体長は13メートルから15メートル、体高は7~8メートルはあるんじゃないだろうか。
あの巨体で空を飛ぶのも結構機敏に地面を走り回るのもなかなか信じられない話だが、竜というだけあって魔力で身体を強化したり、飛行時にも魔力を利用したりしてその辺りは何とかしているんだろう。元の世界の生物学者とかが飛竜を目にしたら大興奮するんじゃなかろうか。
まぁ、そんな巨体なので多少の助走と言ってもなかなかの距離だ。この発着場も助走距離を稼ぐためか結構な長さで、恐らく100m以上はあるな。
「可能なのですか? 魔法を使ってもこれ以上の拡張は難しいということで発着場の拡張工事は何度も見送られているのですが」
「俺にかかれば何の問題ない。万が一失敗しても俺が笑われるだけだろう?」
「いや、現状の発着場に破損等が起こると我々が大変に困るのですが」
「コースケに任せれば何の問題もない。良いからやらせよ」
「グランデ様がそう仰るなら是非もありません」
難色を示したと思ったらグランデの一言で了承するのか。その様子を見てドリアーダさんが静かに何か思案している。
なんというか、不安になるな。グランデが言えば黒も白になりそうだぞ、これ。ちょっと言い知れないヤバさを感じる。狂信的とでも言えば良いのか。
「許可が出たなら作業に移るぞ?」
「どうぞ。カルータス、コースケ殿の傍で飛竜の発着場に関してアドバイスをして差し上げてくれ」
「承知」
カルータス殿が頷く。
ふむ、まぁ俺達が使った後は飛竜の発着場として使われるわけだからな。使用者の意見を聞いたほうが良いか。