第377話~ドラゴニス山岳王国領へ~
今日はなんか集中力が持続しない! 短いけどユルシテ!_(:3」∠)_
ドラゴニス山岳王国の領空に入って暫く経ったが、特にこれといって危険な兆候は感知されることなく、大変に安全な空の旅が続いていた。
「うーん? やっぱ空路の安全は確保してあるのかね?」
「そうかも。飛竜貿易の邪魔になるような魔物は駆除してあるのかもしれない」
「それもあるじゃろうが、なにより魔物とて馬鹿ではない。何度も痛い目に遭っていれば学習もするというものよ」
「つまり竜騎兵が一緒にいるから襲ってこないってわけか」
「そうじゃろうな。もしかしたら妾が乗っているからかもしれんが」
「なるほど?」
グランデの放つドラゴンのつよつよオーラ的な何かが魔物よけになっているかもしれないってことか。見た目はこんなに可愛いけど元々は見上げるようなデカさのドラゴンだもんなぁ。そういう事も考えられるか。
「ちょっと残念だな。カルータス殿に魔道飛行船の性能を見せるチャンスがあるかと思ったんだが」
「国威掲揚、ですか?」
「いや、単に自慢したいだけ。うちの技術者と兵士達はすげーだろって。あと、こういうでっかくてつよくてかっこいいものは見せびらかしたくなるのが男の子ってものなんです」
俺の言葉を聞いた艦橋で勤務中の男性達が同意するようにコクコクと頷く。だよな? わかるよな?
「こちらから何かしなくとも、どうせ向こうから実力を披露して欲しいと言ってくる。それまで待っていれば良い」
「そんなものか?」
「そんなもの。今まで空の覇権はドラゴニス山岳王国だけのものだった。それを脅かす存在が現れたとなれば、いくらドラゴニス山岳王国がコースケとグランデに友好的とは言っても黙ってはいられない」
「そうね、私もそう思うわ。今は焦らないで、ね?」
「二人がそう言うならそうしようか。まぁ、是が非でも力を誇示したいってわけでもないしな」
と、口ではそう言いつつやっぱ折角作ったんだし度肝は抜きたいなぁと思ってるけど。アイラとドリアーダさんの二人に言われては仕方がない。とにかく機会を待つとするか。
「そういえば、スケジュールにはだいぶ余裕があるよな?」
「そうですね。ドラゴニス山岳王国の建国記念祭の開催日までは今日を含めてあと五日です」
今日は荷降ろしと腰を落ち着けるのに一日いっぱいかかりそうだから良いとして、明日からの四日間はどう過ごすべきなんだろうな? 時間があるなら鉱石を掘りたいんだが。魔道飛行船を作るのに結構資材を使ってしまったからなぁ。
「あれは隙あらばツルハシを担いで山に行きたいなぁと思っている顔」
「心を読むのやめてもらっていいですか」
「そんな暇、ありませんからね? ドラゴニス山岳王国や小国家連合の要人と顔を繋ぐ好機なんですから」
「えー……そういうのは俺が居なくても良くない? もうなんか良きに計らえで適当にやってくれれば良くない?」
「そういうわけには行きません。コースケくんはメリナード王国使節団のトップなんですよ? トップが出張らないと相手方にも失礼でしょう?」
そういうものであるらしい。しかし俺の素材集め、それも鉱石採掘はメリナード王国の経済を支える太い柱だぞ? メリナード王国領内で削り崩せる岩山や地形にも限度というものがあるわけだし、善意の仮面を被ってドラゴニス山岳王国の『造成工事』を俺が引き受けるのもメリナード王国の利益になるのでは?
俺は素材を手に入れられてラッキー。ドラゴニス山岳王国は険しい山岳地帯に建築に向く平地が手に入ってラッキー。メリナード王国は俺からのレアメタルや宝石の供給とドラゴニス山岳王国からの感謝を得られてラッキー。ほら、全員ラッキーで正にWin-Win-Winじゃないか。
と、熱弁してみたところ。
「う、うーん……そう言われると確かに国益に適うかもしれないけど」
「さっすがドリアーダさん、話がわかる。じゃあ隙あらばそういう方向で」
「……なんだか納得いかないなぁ」
よし、言いくるめに成功した。内心ガッツポーズをしていると、魔導伝声管経由で甲板から連絡が来た。どうやらあと一刻――二時間程でドラゴニス山岳王国の王都であるドラッドに到着するらしい。
「今更だけど、着艦できるような場所はあるのか?」
『飛竜が離着陸するための広場があるそうで、そちらに停泊させることは可能だろうとのことです。ただ……』
「ただ?」
『そうすると飛竜の離着陸が困難になるので、その後どうするか、と』
「なるほど」
それは問題だな。ドラゴニス山岳王国にとって飛竜の離着陸ができなくなるというのは息ができなくなるのと一緒だ。正に死活問題というやつだろう。
「その点については大丈夫だ。一時的に厄介になるのは間違いないが、ドラゴニス山岳王国側の許可さえ得られるのならなんとでもなると思う。そう伝えてくれ」
『承知致しました』
魔導伝声管を使った会話を終え、ふとアイラとドリアーダさんの方に目を向けると、二人がジト目で俺を睨んでいた。
「コースケくん。仕方ないのは理解できますけど、ある程度は自重しましょうね。下手に力を見せ過ぎると貴方を巡った争いが起きかねないわ」
「ん、国内ではともかく外国では自重するべき」
「わかった」
確かに二人の言う通りかもしれない。ここは異国の地。何かあっても戦力はこの船に乗っている人員だけだし、そう簡単にシルフィ達の助けを受けることもできない。距離という障壁があるからな。魔道飛行船が完成してちょっとテンションが上り過ぎていたかもしれない。自重しよう。