第376話~小国家連合のおはなし~
こっちも更新再開!( ˘ω˘ )
小国家連合に立ち寄る予定は無いので、暫くは順風満帆な空の船旅である。
メリナード王国の西方に広がる小国家連合とは果たしてどのような土地なのか? 隣国でもあることだし、俺もある程度の興味を持って調べてみたことがある。調べてみたことはあるのだが……。
「ここは本当によくわからん土地だよな」
「要は様々な種族や部族が緩く連帯している土地。困った時には互いに助け合うけど、そうでない時には土地や利権を巡って常に小競り合いをしている。草原部ではケンタウロスの部族が、西側の山岳部付近ではドワーフの部族が、平野部では草食系獣人達の部族が、湖沼部ではリザードマンやギルマン系の部族が幅を利かせている。その間に雑多な亜人種が寄り集まった土地があって、それぞれの首長が王や族長を名乗っている」
「それで他国から侵略されないのがよくわからんし、大きな混乱に陥らないのもよくわからん」
「だいぶ端折って言うと、西側のドラゴニス山岳王国には領土拡張の意志がなくて、東側はオミット王国崩壊後から旧メリナード王国成立まで小国家連合を脅かす国が存在しなかった。旧メリナード王国成立後もメリナード王国は自国内の統治と開発が忙しくて小国家連合とやり合うメリットがなかった。あと、内部抗争が激化しないのはやりすぎると他の部族や小王国から袋叩きにされるから」
「北と南は?」
「南はオミット大荒野に至る。たまにギズマが南から侵攻してくるらしい。北は山岳地帯に阻まれている。その先にはカストゥール王国がある」
「カストゥール王国」
「私もよく知らない。獣人系の亜人が多い国だって話」
「なるほど」
アイラ先生の講義はためになるなぁ。しかし、なるほど? そうやっていつも内輪で小競り合いをしている連中だから、隙を見せた新メリナード王国にちょっかいかけようって気を起こしたのかね? 火事場泥棒的な感じで。もし本当にちょっかいをかけられていたら対処せざるを得なかったから、ドラゴニス山岳王国が牽制して手を出させなかったのは結果的に小国家連合にとってプラスだったのかも知れないな。
え? こっちが勝つ前提で話を組み立てているのはおかしいって? いや、小国家連合が聖王国よりも強力かつ多くの兵を用意して、更に一点突破じゃなく広範囲の浸透攻撃をしてくるなら話はちょっと変わるかもしれないけど、それは無理筋だろう。事実上、今のメリナード王国を脅かすほどの戦力を保持している国家は近隣には存在しない。
「この先、シルフィはどのように国を動かしていくのでしょうね」
俺と一緒にアイラの講義を黙って聞いていたドリアーダさんがポツリと呟いた。
「この先、ねぇ。少なくとも領土拡大って方向に舵を切ることは無さそうだけど」
正直、別に外に領土を求めなくとも国内に開発できる土地がいくらでもある状態だ。その大半は人跡未踏の魔物の領域だったりするわけだが、俺の能力をもってすれば開発そのものは難しくもなんとも無い。やろうと思えばゴーレム兵団で魔物の領域に住まう魔物達を端から轢き潰していくことだって容易なのだから。
「コースケくんにはこうしたい、というものは無い? 異世界の国家の有り様を知っているコースケくんなら色々と道を示せるんじゃない?」
「俺? 俺は国家運営に関しては口を出す気は無いよ。俺の住んでいた場所とこの世界だとあまりに環境が違い過ぎるから、俺が元の世界の国家の有り様を参考に口を出しても良い結果になるとは思えない」
地球には魔法も無ければ魔物もいなかったし、亜人だって存在しなかった。少なくとも俺が観測する範囲においては。もしかしたら一般人の目に隠れてそういったものが存在していたのかもしれないが、少なくとも大っぴらにそういった存在が認知されているようなことはなかった。
で、そういった物があるとなると元の世界で培われた様々な仕組みというのは通用しない公算が高い。地球には様々な文化や技術が存在していたが、その大本を辿っていくと人間や馬が一日に移動できる距離だとか、耕せる土地の面積だとか、そういったものにたどり着く事が多い。そもそもの身体能力が違う亜人や、人馬がこなせる仕事量などを飛躍的に向上させる魔法という存在があるこの世界では地球の技術や仕組みが上手く働かない場合も多いのではないかと俺は考えている。
例えばの話だが、銃士隊に配備している機関銃だって元のスペックのままでは身体能力に優れる亜人達にとっては軽く、脆すぎる代物であった。あれだって実践使用時におけるフィードバックを受けて元々の代物よりも大分仕様が変わっているのだ。この世界独自の金属である黒鋼などを用いることによってより熱に強く、頑丈にしている代わりに重量は元々の機関銃の倍以上になっている。最早俺では持ち運ぶことも困難な重さになっているからな、アレは。重機関銃かよ。
「野心は無いの? コースケくんの力をもってすれば聖王国どころか帝国も屈服させて世界に覇を唱えることもできるでしょう?」
「えぇ? ドリアーダさんってそういうのが好きなの? 意外だなぁ」
「いえ、好きとかそういうことではなく、単に疑問なだけよ?」
「なるほど? まぁその疑問に答えると、全くそういうつもりはないなぁ。想像するだけでも面倒くさくて死にそうだ」
「ふっ……コースケらしい返答」
アイラが魔導飛行船の制御をしながら小さく笑う。
「面倒くさいって……」
「シルフィの伴侶として王配って立場になっている今ですら身の丈に合ってないと思ってるのに、世界に覇を唱える覇王になるとか絶対無理だね。というか、そうする理由がない。一つの国家、一つの思想の下に世界を平定するなんて壮大な夢を抱くのは俺には無理。自分を含めて家族が幸せに過ごせたらそれで良いじゃない」
「覇気の欠片もない発言ねぇ……」
肩を竦める俺にドリアーダさんが苦笑いを浮かべる。
「覇気のない男はイマイチかな?」
「うーん、コースケくんはもう少しガツガツしても良い気がするけど。でもいざという時に頼れる男性は素敵だと思うわ」
「残念ながらガツガツするような気力も体力も毎晩毎晩たくさんのお嫁さん達に吸い尽くされているので。でもやる時はやるよ!」
「そうね。今までにコースケくんがしてきたことを考えればその言葉に疑いの余地はないわね」
ドリアーダさんが微笑む。ふむ? なんだろうね、この一連のやり取りは。なんだか試されているような気分だ。
「品定めでもされている気分なんですが?」
「旦那様のことは沢山知っておきたいという乙女心です」
笑顔の周りに花が咲きそうなお姫様スマイルを披露するドリアーダさん。しかし彼女はシルフィ達との仲良し行為にしれっと混ざっていつの間にか俺とそういう関係になっていた大変に強かな女性である。乙女とは……うごご。
「しかし何故今更?」
「コースケくんとゆっくり話せる機会って今まであまりなかったでしょう? 今回のドラゴニス山岳王国行きをハネムーンと考えてこの機会にじっくりとコースケくんのことを知ろうかなって。今の状況なら邪魔も入りにくいし」
「アイラがいるけど……?」
「アイラは私の親友ですから」
「ん、まぶだち」
振り返ったアイラが俺にピースしてくる。えぇ……? 初めて知ったんだけど。
「アイラはシルフィと歳が近いでしょう? ずっと前からアイラとは仲良くしていたんですよ」
コクコクとアイラが頷く。どうやら本当らしい。まぁ、俺だって嫁さん達の関係を完璧に把握しているわけじゃないからな。こういう意外な繋がりがあっても何もおかしくはない。
しかしずっと前から、ねぇ? もしかして旧メリナード王国滅亡前からってことだろうか? 何れにせよアイラが俺に嘘をつくはずも無いから、本当のことなんだろう。
「まぶだちでも邪魔をしないかどうかはまた別の話だけど」
「ちょっと?」
「私だってコースケとイチャイチャしたい。あとハーピィ達もいる」
「むー……そこは話し合いですね」
何やらドラゴニス山岳王国訪問中の俺の扱いについて交渉が始まったようである。とりあえず、今は航行中だから程々に頼むぞ、程々に。他の船員達の耳もあるんだからな。
「あー……ええと、そろそろ小国家連合の領空を抜けてドラゴニス山岳王国の領空に入ります」
上司と王族の姫が始めた生々しい会話を耳にして気まずそうな表情の魔道士さんがそう報告をしてくる。うん、すまない。二人のことはすぐに叱るので許して欲しい。
「魔物との遭遇も考えられるから、警戒を厳にするように客員に通達。あと、アイラとドリアーダさんは口を閉じるように。後にしなさい、後に」
「ん、わかった」
「ごめんなさい」
素直に応じてくれてとても嬉しいよ。でも次からそういう話はTPOを弁えてな。頼むぞ。本当に頼むぞ。