第374話~竜兵団~
朝早くに電話で叩き起こされた -10 _(:3」∠)_(心情悪化
昨晩色々と話し合った結果、色々と方針は固まった。特に魔銃や魔道飛行船関連の説明に関してはデリッサンズ伯爵とその寄子達から寄せられた質問が良い例となり、かなり詳細に対応を詰められたと思う。初めて魔銃や魔道飛行船を目にした人の関心がどこに向くのかということがよくわかったからな。
魔銃や魔導飛行船についての質問はやはりその性能面についてのものが多く、次にどの程度の規模で運用されるのか、今後入手は可能なのか、運用にどの程度のコストがかかるのかというものが多かった。
この辺りの質問にどこまで答えるか、という点に関しては決めるのも容易かったからな。魔銃の威力に関しては重騎兵の鎧をかなりの距離から撃ち抜けるし、ギズマ程度なら一撃で仕留めるだけの殺傷能力があると伝えるに留め、実際の有効射程や発射可能数、中核部品となる尾栓の存在などは軍事機密として秘することにした。
魔道飛行船に関してはそもそも船員の中で具体的な性能を知っているのが俺と研究開発部の人間だけということで、アイラが研究開発部の面々に口止めをするだけで事足りた。まぁ、実際に乗った魔銃隊た文官であれば体感したことを話すことはできると思うが、具体的なスペックに関しては把握していないだろうという考えだ。そもそも、把握していたとしてスペックだけ暴いたところで魔道飛行船を模倣することなどは不可能なので、あまり意味はない。ただ、内部構造に関しては保安上の問題から部外秘とすることに決定した。
その他、グランデや俺に対する質問に関しても検討したが、どんな質問や駆け引きがあるか全く予測がつかなかったため、そちらの検討に関してはやはりというかなんというか頓挫した。やはり高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変にやっていくしかないらしい。
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そんなわけで翌日、出立の準備を万全に整えて待機していると、紹介に当たっていたハーピィさん――黒羽ハーピィのレイから艦橋に通信が入ってきた。
『西より複数の大型飛竜が接近中。ドラゴニス山岳王国の迎えと思われる』
「了解。出迎えて発着場まで誘導してくれ」
『了解』
言葉短にそう言い、レイが通信を切る。それから数分で魔道飛行船の甲板からも大型飛竜接近の報が届く。艦の対空監視はちゃんと働いているようだ。魔法を使ったアクティブレーダーの開発も検討中なのだが、遠くまで届き、かつ反射性の高い魔力波をどうやって放つか、そしてその魔力波で魔物を刺激したりはしないか、など様々な懸案がありまだ実用化できていない。アイラが前に使った魔力探知魔法は精度も高いし非常に性能は良いんだが、探知距離が短くて魔道飛行船用の長距離探知には向かないんだよな。
などと考えていると、甲板で警戒を続けている魔銃隊の面々が西の空を指差した。艦橋からは甲板の動きが丸見えなので、こういった動きはすぐにわかる。
「見えるか?」
「ん、五体の飛竜が接近中」
アイラが頷く。
五体か。もし俺達に足が無かったら、連れていけるのは精々二十人かそこらだな。俺とアイラ、ドリアーダさんに獣人メイド、それに文官を乗せたらいっぱいいっぱいだろう。俺達を運ぶためにいくらでも飛竜を寄越すとは言っていたが、飛竜によるピストン輸送をしてまで魔銃兵までをも運んだかどうかはちょっと疑問だな。
「それじゃあ出迎えるか。メリナード王国の国旗を立てておけばわかるよな?」
「それが良いと思うわ」
ドリアーダさんが頷いてくれたので魔道伝声管を使ってテッドに指示を出す。飛行船用の発着場は大きめに作ってあるので、ドラゴニス山岳王国の飛竜達も十分な余裕を持って着陸できることだろう。
俺の肉眼でも西の空にいくつかの点が見えてきた。あれがドラゴニス山岳王国の飛竜達だろう。飛竜はワイバーンよりも大型の亜竜で、ワイバーンとは違って翼の他に上肢と下肢がある。ワイバーンは上肢がそのまま翼となっているので、見分けるのは容易い。飛竜のほうが大きいしな。
「出迎えたほうが良いのかね?」
「いえ、その必要はありません。到着してから出向いて労うくらいで良いでしょう」
「上から目線で?」
「事実こちらが身分は上なんです」
そう言ってドリアーダさんが苦笑いを浮かべる。すまないねぇ。どうしてもなれないんだよねぇ、そういうの。
「せやな……まぁ適当にやりますかね」
そうやりとりしている間にも飛竜達の影はどんどんと大きくなり、すぐに発着場へと到着したようだ。ふむ、前にも見たけどやっぱかっこいいな。迫力もあるし。俺が剣と槍、それに盾くらいしか装備してないこの世界の一般的な歩兵だったら、あんなものと戦うのは絶対に御免だ。
少ししてドリアーダさんがそろそろ出ていくのに良いタイミングだと言ったので、アイラとドリアーダさん、それにグランデを引き連れて発着場へと降りることにした。飛竜達はちょうど飛行船の正面に着陸しており、グランデが姿を現すなり何やら情けない声を上げて身を伏せてしまった。
「ふむ、教育が行き届いておるの」
ブルブルと震えている飛竜達を見ながらグランデが頷く。そしてその姿を見たドラゴニス山岳王国の竜騎兵や飛竜兵達も慌てて跪いた。誰も彼も見るからに屈強そうなリザードマンや角の生えた亜人だが、グランデに対して跪く様はまるで信仰対象を前にした敬虔な信徒か何かのようだ。
「グランデ様とお見受け致します。お目にかかれて光栄です」
「うむ? うむ、苦しゅうない」
当のグランデは突然跪かれて面食らったようだったが、なんとなく自尊心が擽られるのか満足げであった。チョロいなぁ。
数えてみると、彼らの数は七名。飛竜が五体であることを考えると、どうやら飛竜は二人乗りも可能であるらしいということがわかる。
「閣下の武名は我がドラゴニス山岳王国にも鳴り響いております。流石はグランデ様のご伴侶。我々一同心より敬服致しております」
「そうか。私もドラゴニス山岳王国の竜兵団の武名は聞き及んでいる。機会があれば肩を並べて戦ってみたいものだ」
「光栄です。その機会があれば我らの鍛え上げた武技、余すことなくお見せいたしましょう」
こういうのは苦手だな。何を喋ればいいかわからなくなる。いつもいっぱいいっぱいだ。
「さぁ、立ってくれ。早速ドラゴニス山岳王国へと向かうとしよう。先導を頼む」
「はっ、お任せ下さい……しかしこれは、まさか飛ぶのですか?」
「そのまさかだ。君達の飛竜と比べてどちらが早いかはわからないがね。とりあえずこちらは巡航速度で航行するから、私達の速度に合わせてくれるか? ああ、できれば誰か一人はこちらの船に乗ってもらいたい。速度の調整が必要な際にやり取りをする必要があるからな。何か速度を調整するためのサインのようなものはあるんだろう?」
そう言うと、彼らは互いに目配せをしてから頷いた。
「では、私が」
そう言って一番立派な装備をした角の生えた亜人が進み出てくる。もしかしたら王家に連なる血筋の人なのかもしれない。
「話はまとまったな。それでは早速出発しよう。竜兵団の諸君は先に上で待機していてくれ」
さぁ、世に名を轟かせるドラゴニス山岳王国の竜兵団とランデブーだ。平和なフライトになると良いな。