第373話~到着前の相談~
暑くなってきましたね……_(:3」∠)_(だるい
デリッサンズ伯爵に下にも置かぬ扱いで歓待されつつドラゴニス山岳王国から迎えを待つことになった。
この二日間、退屈だと騒ぎ始めたグランデを宥めるためにウィンデス近くの魔物を狩って回ったり、そのついでに俺は資材を集めたり、アイラはこの辺りで取れるという薬草を集めたり、デリッサンズ伯爵の寄子だというなんとか男爵が魔銃隊の実力が見たいとか言ったので、重騎兵用の分厚い板金鎧を着せた標的を魔銃隊の一斉射撃でズタズタにしてやって震え上がらせたりしていた。
なんとか男爵に今度は中身ありでやるか? って聞いたら泣きながら謝られた。ナンデダロウナー。
そうして極めて平和的に過ごした二日間だったが、何故かデリッサンズ伯爵には腫れ物のような扱いをされることになってしまった。なんというか、できるだけ関わり合いになりたくないみたいな雰囲気を感じる。ナンデダロウナー。なんとか男爵みたいに微妙に突っかかってきたデリッサンズ伯爵の手下を全員脅かしてやったからカナー?
なんか偉い人がいるからって彼の寄子達――貴族的な意味で手下とか部下みたいな存在――が抱える係争の判断を全部ぶん投げて来たのがすべての始まりなんだよな。
やれ水利権がどうだだの、耕作に適した土地がどうだだの、領地と領地の間にある大岩をどっちが撤去するだのなんだのと非常にやかましい上に面倒この上ない。
俺は黙って彼らの話を聞き、一緒に話を聞いていたドリアーダさんとほんの少しの時間検討した結果、なら全て更地にしてしまうかと発言した。相談を持ち込んだデリッサンズ伯爵の寄子達は何を言っているのかと首を傾げたが、デリッサンズ伯爵本人と既に俺に泣かされていたなんとか男爵は俺が係争地を文字通り更地にするつもりだと思ったらしい。
汗をダラダラと垂らした二人に実行前に止められたのは残念だったな。折角争いの元を全て無くして「これで平和になったね(にっこり)」という邪悪ムーブをキメてやろうとしたのに。
いや、本当にそんなことやったら困るのは目の前のおっさん達だけじゃなく領民の皆様だから、本当にそこまでする気は無かったけどさ。大岩の除去くらいならすぐできるし、農耕地不足や区画の整理だって俺の力をもってすればそんなに難しいことでもない。水に関しては農業用水ともなると井戸じゃ足りないだろうから、どこからか水を引っ張ってくるなりなんなりと大規模な工事が必要になるだろうけど。
とりあえず大岩だけでも視察してみようかという形で話を纏め、現地で視察したついでに爆発物ブロックで大まかに粉砕した後にゴーレム達に後始末をさせたのだ。本当は俺が最初から最後までツルハシを振るったほうが早いんだが、まぁインパクト重視ってことでな。十分程かけて全て終わった時には色々な問題を持ち込んできた貴族達は揃って自分達でなんとかしますと言って怯えた表情を見せながら自分達の領地に帰っていった。
「艦内の士気はどうだ?」
「はい、良好です。閣下の指揮の賜物ですね」
「指示がユル過ぎて弛んだりしないか若干不安なんだがな。問題があるようなら言ってくれよ」
「そこは私達が引き締めておきますんで」
二日目の夕方。夕食に関しては俺とドリアーダさん、それにアイラとグランデ、あとは魔銃小隊長のテッドとダルコも加えた六人で取ることにしていた。日に一回、艦内の権限上位者を集めた会議の場というわけだな。その他に給仕役として獣人メイド達のまとめ役のゲルダと、獣人メイドのうち二人も参加している。食事は一緒に取ってないけど。
「文官達の様子は?」
「そうですねぇ、やっぱりまた明日には飛ぶことになるのかと不安がっているみたいです。ただ、一度問題なく飛んでいるのと、慣熟訓練でずっと飛んでいた魔銃小隊の人達に色々と話を聞いて、一度目の飛行よりはましになると思います」
今回の親善訪問に際して同行している文官達のまとめ役はドリアーダさんに任せている。
「研究開発部は……」
「問題ない」
「だよな」
研究開発部の面々は開発者である。安全性も危険性も一番よく知っているし、なんならエアボートの試験運行時に何度も墜落してるからな。万が一墜落しても、ああまたかって思う程度だろう。
「メイド達は?」
「心配ありませんよぉ。そんな事を気にしている暇もありませんしぃ」
そう言って傍に控えていたゲルダがにっこりと微笑むが、それはそれでどうなのだろうか?
「あまりオーバワーク気味にならないように気をつけてくれ。肝心な時に疲れ切っていたんじゃ大変だからな」
「承知致しましたぁ」
あとはハーピィさん達なんだが、ハーピィさん達は身体の作りというか生態上というか、少食だけど日に何度も食事を取る必要があってこの時間はちょうど噛み合わないんだよな。まぁ、日中は誰かしら俺の側に居るし、彼女達の士気に関しては全く心配していないから問題はないんだけど。
「明日の昼にはドラゴニス山岳王国からの使者というか迎えが来る予定だから、朝から撤収作業を進めるように。発進時の揺れで荷物やら何やらが崩れて大惨事なんてのは御免だからな。キッチンでも食器棚とかに気をつけてな」
「はい」
「文官達にも書類や筆記用具、特にインク壺などには注意をしておくように伝えておきますね」
「そうしてください」
グランデには特に言うことはない。彼女が持ち込んだ私物はクッションくらいだからな。その他の着替えやら何やらは俺がインベントリに入れてるし。
「他に何か話しておくことってあるかな。ドラゴニス山岳王国での外交方針とか?」
「外交方針ね……あちらが我が国を――というかコースケくんとグランデちゃんを厚遇している経緯が経緯だから、所謂普通の外交スタンスはあまり役に立ちそうにないのよねぇ」
ドリアーダさんが困ったように頬に手を当てて溜息を吐く。確かにドラゴニス山岳王国がメリナード王国と接触して、その上やたらと厚遇しているのは俺とグランデの関係が建国の祖と全く同じ状態になっているが故だからなぁ。もし俺とグランデがそういう関係になっていなかったら、ドラゴニス山岳王国はメリナード王国に見向きもしていなかっただろう。
「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応するしかないな」
「つまりいきあたりばったり」
「仕方ないね。まぁ相手の不興を買わないようにすれば良いだろう。お互いに仲良くしたいって気持ちを持って事に当たるしかあるまい……というか、向こうが何を求めているのかも今ひとつわからんしな」
前にメリネスブルグに訪ねてきたドラゴニス山岳王国の王家の一員だというレザルス氏が望んでいたのは、今の俺とグランデの関係がそのまま続き、添い遂げることであるようだった。俺とグランデのことを神格化――とまではいかないが偶像化しているような雰囲気すらあったんだよな。今のグランデと俺の行状をドラゴニス山岳王国に伝えたい、その一心だったというか。
最終的には俺とグランデの間に生まれた子供を王家に迎え入れたい、みたいな話を仄めかしてはいたが、それも自然とそういう流れになればという話で、メリナード王国に対する援助の対価として求めようとかそういう雰囲気ではなかった。
「前に話した竜がちょっと混じってる連中じゃろ? まぁ敵意みたいなものは感じんかったし、心配は要らんと思うがの」
お気に入りのチーズバーガーをもぐもぐしながらグランデが暢気にそう言う。悪意があったところでグランデ相手に何かできるとも思えないし、まぁ問題はないと思うんだがな。かなり父祖――ドラゴニス山岳王国の祖となった竜と人間の女性に信仰心に近い畏敬の念のようなものを持っているようだったし。
「なぁに、いざとなれば妾がなんとでもしてやるわ。安心しておれ」
そう言ってグランデが機嫌良さげに笑う。まぁ、確かにドラゴニス山岳王国に対してグランデは非常に強力な札だ。ドラゴニス山岳王国はグランデが言えば白も黒にしてしまいそうな雰囲気すら感じる。
「もしかしたら王家の正当性が揺らぐような何かが起こってるのかね?」
「それは私も考えたけど、どうにもドラゴニス山岳王国の内情は謎に包まれていてわかりにくいのよねぇ」
ドラゴニス山岳王国は峻険な山岳地帯を国土としている。徒歩で入るのは難しく、他国との物資や情報のやりとりは主に飛竜便で行われているので、内情を探るのが非常に難しい。侵入しようにも峻険な山岳がそれを阻む上、野生の魔物も多く跋扈しており、竜騎兵による哨戒も盛んに行われている。まぁ、竜騎兵の哨戒は他国からの侵入者ではなく、魔物に対してのものらしいが。
「考えてもわからんもんはわからんな。でも一応色々と想定だけはしておこうか」
「ん、大事。私は技術的な質問が来た場合の対応について話しておきたい」
「我々としては魔銃や魔道飛行船に関する質問が来た時にどうすれば良いか聞いておきたいですな」
いつもどおりのアイラと、ドリアーダさんがいるせいか丁寧な言葉遣いに苦労しているテッドから議題が提案される。はいはい、そのへんも詰めておこうかね。事前にある程度方針を決めておけば対応が楽になるし、トラブルが発生する確率も減るからな。