第369話~出発の前に~
短いけど今日はちょっと予定があるのでこれで_(:3」∠)_(ゆるして
魔銃隊の到着後、艤装と内装を終えた試作型魔道飛行船はソレル山地での慣熟飛行も無事終え、細かな改修を繰り返しつつその完成度を高めた。例えばハーピィさんの空中空母として機能する際に全周囲への風魔法障壁を張ったままでは都合が悪いので、部分的に障壁を解除できるようにしたり、転落防止用に甲板に出る際には命綱をつけるよう義務付けたり、その命綱についても普通の綱からアラクネ種の強靭かつ細く、軽量なものに変えたり、搭乗者全員に落下制御の魔法が込められた腕輪型の魔道具を着用させたり、雷電砲の射角をもっと取れるよう懸架装置を改良したり、甲板に魔銃用の弾薬箱を安全に固定できるような弾薬箱ホルダーを作ったり、とかなり広範な改修を行なった。
内装の改修については枚挙に暇無いほどだ。ちょっとしたドアの配置やら何やら、細かいところまで結構手を入れた。結果として船内の居住性はかなり上がったと言えるだろう。
「寝床がハンモックなのだけは残念ですが、それ以外は原隊の兵舎より快適ですね」
試作型魔道飛行船の船長室で第一小隊長のテッドがそう言って肩を竦める。確かに快適だろうな。魔道飛行船は空調もしっかりしているし、二基ある魔煌石炉のおかげで魔力も潤沢だ。水やお湯だけでなく洗濯物を一瞬で浄化する浄化器まで使い放題だし、メシだって獣耳メイド達が温かくて美味しいものを出してくれる。
「空の上は落ち着かないですけどね……」
第一小隊長のテッドは大丈夫そうだが、第二小隊長のダルコはやはりあまり空の上が肌に合わないらしい。高所恐怖症とまでは行かないが、苦手なのは慣熟訓練を終えた今でも同じであるようだ。
「しかしこれは敵にとってはたまらないでしょうな。こんなのが現れたらどうしようもないのでは?」
「確かに手出しはできないだろうが、一隻じゃ嫌がらせしか出来ないだろうな」
「数が揃ったらこれ以上恐ろしいものは無いでしょうね」
一席につき百人。短期間の兵員輸送用と割り切れば三百人ほどを乗せて超長距離を一瞬で飛び抜け、前線を無視して手薄な後方の拠点を攻撃することが可能な飛行船という存在は、移動手段が馬やそれに準ずる騎乗動物、そしてそれらが引く車両程度しかないこの世界においては紛れもないズル(チート)な兵器だ。飛行船を使えば前線の後ろに存在する補給物資の集積場でも補給物資を運ぶ荷駄隊でもなんでも襲い放題である。
当然、それだけでなく空からの偵察も可能だ。ハーピィさん達の移動拠点としても使えるので、今後はハーピィさん達による偵察もより一層やりやすくなることだろう。
「で、だ。ついに明日ドラゴニス山岳王国へと出発することになる」
「「はい」」
二人の小隊長が神妙な顔で頷く。
「今回ドラゴニス山岳王国を訪問する目的はあくまでも親善訪問だ。だが、魔道飛行船と魔銃隊の威容を他国に見せつけるというのも重要だ。隊員達の気を引き締めてさせておいてくれ。ドラゴニス山岳王国やその他の国々は魔銃隊を見てメリナード王国の兵がどんなものなのか、という評価をする。諸君らはいわばメリナード王国全軍団の代表なのだ……って感じでな」
「了解です」
「責任重大ですね」
「そうだな。ウォーグは勿論のこと、レオナール卿やザミル将軍、それにダナンの顔も思い浮かべると良いと言っておけ」
「それなら否応なく気が引き締まりそうです」
テッドが苦笑いを浮かべる。レオナール卿にザミル女史、それにダナンの三人は解放軍として活動していた頃から軍の中心、或いは先鋒として活躍を続けてきた強者だ。彼らはメリナード王国軍の兵士からの尊敬を集めると同時に畏れられてもいる。
「俺から言っておくのはこれくらいだが……何か質問は?」
二人が首を横に振ったので、とりあえず解散ということにしておく。なにか連絡事項があればまた話せば良い。俺ももう今日すぐにしなきゃならない仕事はないしな。
二人が船長室から出ていった後、入れ替わるようにアイラとドリアーダさんが入ってきた。
「準備はどうだ?」
「問題なし。物資の積み込みも人員の手配も終わってる」
「今からでも出発できますよ」
そう言いながらアイラがごく自然に俺の膝の上に座り、後ろに回ったドリアーダさんが背後からしなだれかかってくる。アイラはともかく、ドリアーダさんのたわわなおっぱいが背中に当たって――というか押し潰されてとてもヘヴン。素晴らしい。
「あー、ゴホンゴホン。一応もう一回聞いときますけど、やっぱ俺が船長やらないとダメですかね?」
「コースケ以上に相応しい人間はいない」
「そうですねぇ。身分的にも、実力的にも」
「そっかぁ……」
王配であり、北方戦役では実際に魔銃隊を従えてティグリス王国とディハルト公国からの侵攻を撃退した将軍でもあり、またドラゴニス山岳王国が重要視しているグランデの伴侶でもある。使節団の長として、メリナード王国の威信を示す試作型魔道飛行船の長としてこれ以上相応しい人間はいないと。
「というか、出発はもう明日。今更変更とか無理」
「ですよね」
知ってた。だがなんというかこう、リーダーみたいな役職はどうも落ち着かなくてな。出来ることなら他の人に任せたいという気持ちが強い。これも今更か、腹を括ろう。
「それより、明日に備えて今のうちに休んだほうが良い」
「え? まだ朝だが? いや朝ってほどじゃないがまだ午前中だろ?」
太陽――ではないけどとにかく陽はまだ中天にすら達していない。明日に備えて今から休むって、いくらなんでも早すぎ――。
「ほら行く。シルフィ姉とメルティが部屋で待ってる。今日は二人の執務も休み」
「あっ、そういう……え? マジで?」
「コースケくんがドラゴニス山岳王国に行っている間も寂しくないように沢山構ってあげてねー」
アイラとドリアーダさんが俺を席から立たせてグイグイと背中を押し始める。わかった、わかったから押さないで。ちゃんと行くから。