第368話~北方から来た人達~
18時更新間に合うようにしてぇなぁ!_(:3」∠)_
飛行船の内装と艤装が進められる中、北方から召集された魔銃隊百名がメリネスブルグに到着した。兵士だけかと思ったらどうやらそうではないようで、ちょっとした歓迎の式典のようなものが開催されることになった。
「ようこそ、メリナード王国へ。私は宰相を務めているメルティです」
ニコニコとフレンドリーな笑顔を浮かべながら挨拶をしているメルティ。その隣には俺も立っているわけだが、俺達と対面している少年少女達は何故か物凄く怖がっている。
彼らはティグリス王国やディハルト公国――以前メリナード王国に攻め寄せてきて俺がぶっ飛ばした北方二国の王族や貴族の子女達である。
「ティ、ティグリス王国第一王子、ザリナス=デラス=ティグリスだ」
「ディハルト公国第一王女、ビヨールド=マス=ディハルト、です」
彼らの中で一番身分の高い王族の二人が辛うじて平静を保――ててはいないが、絞り出したような声でなんとか返礼をしてみせた。うん、王族でもこれは怖いよな。メルティはニコニコしながら魔力全開の威圧モード、俺達の背後には重武装ゴーレムが四体、そして周りを囲んでいる魔銃兵達。
どう見ても歓迎と言うよりは完全に威圧にかかっています本当にありがとうございました。
「こちらは王配殿下のコースケ様。勿論ご存知ですね?」
「も、勿論、だ」
「……」
ザリナス王子がそう言いながら頷き、ビヨールド王女もプルプルと震えながら何度も頷く。あるぇぇ? 俺、そんなに怖いかな? いやまぁ見上げるような重武装ゴーレムを背後に四体も控えさせていたら怖いかもしれんが。
「あー、コースケだ。まぁ俺のことはあんな奴が居たなくらいに思っていてくれればいい。もうじき暫くメリネスブルグを空けることになるんでな」
「メリナスブルグを空ける?」
ビヨールド王女が怯えながら聞いてきたので、頷く。
「ドラゴニス山岳王国の建国記念祭に招かれていてな。暫く向こうに逗留することになる。俺が居ないからといって調子に乗ると、このメルティさんの容赦のないゲンコツが飛んでくるかも知れないからやめておけよ。冗談でもなんでも無く、素手で鋼鉄の扉を引き裂くからな」
王子と王女がビクリと身体を震わせてメルティに視線を向ける。メルティは相変わらず愛想の良い笑顔を浮かべているが、いざとなればお前達を捻り潰してやるという強い意志を感じる。
「王城にてお世話させていただきます。至らぬ点も多いと思いますが、その時は遠慮なくお申し付けくださいね」
「う、うむ」
「は、はい」
完全にビビっているようだが、大丈夫なのだろうか? 心配だけど、俺も構っている暇はあまり無いんだよな。ドラゴニス山岳王国から戻ってきた時に彼らがどうなっているか少し心配だが……まぁ、城内ならライム達も居るし滅多なことは起こらないだろう。あらゆる意味で彼らがトラブルに見舞われることはないはずだ。多分。
☆★☆
「で、こいつが諸君の乗ることになる飛行船だ」
おぉ、と魔銃兵百名が驚きの声を上げる。全長50mを超える大型船だ。まぁ、よくよく見れば船に見えないこともない物体、という程度のデザインだが。接地することを考えるとどうしても船底は平らにする必要があったので、滅茶苦茶にでかい平底船って感じなんだよな。
「閣下、これが飛ぶのですか?」
そう俺に聞いてきたのは随伴第一魔銃小隊長のテッドだ。彼はかなり大柄な人間の男性で、北方魔銃大隊長を務める狼獣人ウォーグ――の部下の中隊長である大型兎獣人のピーターと黒猫獣人のノワール――の更に部下に当たる人物だ。五十名で編成されている魔銃小隊の長というわけだな。
「ああ、飛ぶぞ。あっちにソレル山地が見えるだろう? あれの倍以上高く飛べる。速度もエアボードより出る。西の果てにあるドラゴニス山岳王国にも半日もかからずひとっ飛びだ」
まだ一度も飛んでないが、一応スペック上はそうだ。出発までまだ時間があるので、艤装と内装が終わったら三日か四日ほどかけてメリナード王国内を飛び回り、試験運用を行う。無論、その試験運用では彼らにも乗ってもらう。当然俺も乗る。
「あの……落ちないんですか?」
そう言ってじんわりと額に汗を浮かべているのはもう一人の小隊長、ダルコだ。彼女は腕が三対六本ある多腕族の女性で、なんと彼女は一人で二丁の魔銃を扱えるらしい。他の隊員が携行している魔銃は一丁だけだが、彼女は二丁の魔銃を背中に背負っている。
「大丈夫だ、この船は一度も落ちてない。一回しか飛んでないがな」
「それは大丈夫なんでしょうか……?」
「大丈夫かどうか確かめるために試験飛行を繰り返すんだよ。艤装と内装が終わったらソレル山地に遠征に行くからそのつもりでな」
「りょ、了解です……」
敬礼をする彼女の顔色は悪い。もしかしたら高所恐怖症なのかもしれないが、残念ながら高いところは怖いから船には乗れませんというわけもいかない。頑張って克服するか、さもなくば耐えてくれ。
「とりあえず諸君の宿舎に案内しよう。試験飛行が始まったら暫くはあの船が君達の宿舎になるから、短い付き合いになると思うけど。ああ、それと明日一日は休養だ。小遣い程度だが俺から少し出すから、メリネスブルグで羽根を伸ばしてきて良いぞ。ただ、羽目を外しすぎて問題を起こしたら飛行中に縄で括ってあの船からぶら下げてやるからな」
小遣いを出すと言ったら黄色い悲鳴が上がった――女性が多いので――が、その後の俺の言葉を聞いて総勢百名の魔銃隊が静かになってしまった。まぁ怖いよね。大丈夫だよ、問題起こさない程度に普通に遊んでくれば良いんだから。
「はい、そういうわけで解散。宿舎に案内してやってくれ」
「はっ!」
城の警備を担当している兵士に後の世話を引き継いてもらい、俺はそのまま試作型飛行船に歩を進める。え? なんのためにって? 艤装と内装を整えるのに今日も働かにゃならんのですよ。
別に仕事は辛くないが、ここ数日エリーゼとコンラッド、それにハーピィちゃん達とあまり触れ合えていないのが寂しい。エリーゼとコンラッドは夜中でも起きてたり泣いてたりすることもあるから見に行けるんだが、ハーピィちゃん達は夜はぐっすりだからな。日中に行かないとダメなのだ。
まぁ、夜は夜で今回も居残りとなるシルフィやメルティ、それにセラフィータさんやベルタさんのご機嫌も取らなきゃいけないしな。シュメル達の様子も見ておきたいし。
「さぁて、やりますかぁ……」
まずは進捗を確認してどこの作業に俺が入れば一番捗るのか確定させないとな。ああ、忙しい忙しい。