第367話~試作型飛行船の完成~
少しずつ投稿時間を守れるように頑張っていきたい( ˘ω˘ )(難しそう
「上昇筒作動開始、出力最大」
「離陸を確認。浮遊装置作動しました。動作安定してます」
「上昇筒の出力20%。高度百に達したら相殺出力に」
「了解」
前方から斜め下方にかけて設置された魔化されたガラスの窓から見える地面が少しずつ遠ざかっていく。
離陸プロセスとしてはこうだ。まず飛行船の前後に一基ずつ、左右に二基ずつ搭載されている上昇用の大口径の風魔法式推進装置を使って少しでも良いので浮く。浮いた瞬間に改良式落下制御の魔法術式が使われている魔道器を起動、この時点で飛行船の質量は十分の一以下になるので、上昇用の風魔法推進装置の出力を絞る。改良型落下制御術式でも完全に浮くことは出来ないので、徐々に落下する分を上昇用の風魔法式推進装置で相殺するわけだ。
「高度百、上昇筒の出力を相殺出力に設定」
「風魔法障壁、作動中。魔煌石炉の出力は安定しています」
「船体安定度、想定値内です」
「ん、では推進筒に出力を。出力はとりあえず一割でいい。ゆっくりとメリネスブルグ上空を旋回する」
「わかりました」
アイラの指示で試作型の飛行船が動き始める。上空で安定した飛行船は風魔法障壁で全体を覆われており、あらゆる方向からの風の影響を受けなくなっている。この巨大な船体を覆う強力な風魔法障壁の維持に必要な魔力は莫大だが、その莫大な魔力出力を得るために魔煌石炉を一つ丸々使っている。まだ出力には余裕があるので、飛竜などの飛行型の魔物と戦闘する時には風魔法障壁の強度を上げることも可能だ。
「今の所は問題なく動いてるな」
「ん、とりあえずメリネスブルグの外に出る」
「市街地に落下すると大変なことになるからな」
ちなみに試作機のエアボートは二回ほど市街地に墜落した。幸いにも怪我人は出なかったが、壊れた家屋の修理やら何やらが当然必要だったし、その処理で余計な仕事を負う羽目になったメルティに怒られるし散々だった。
「改良型落下制御術式の安定度は?」
「今のところは大丈夫です。伝導線にかかっている負荷も問題ないみたいですね」
アイラの問いかけに水晶球のようなものを覗き込みながら研究開発部の錬金術師さんがそう言う。
まぁ、かなりミスリルの比率が高めのミスリル銀合金で魔力伝導線を作ったからな。魔煌石炉二基を全力で長時間ぶん回したりしない限り大丈夫なはずだ。
「面舵0-2-0。メリネスブルグの周囲を周回して」
「了解。面舵0-2-0」
そう言って操舵手を務めていた夜魔族の魔道士が数字の書かれている舵輪を操作して飛行船を右旋回させ始める。うーん、俺達の航海――航空? 技術は付け焼き刃の素人技術だからな。今は乗っていない船大工さんも航海技術に関してはそこまで詳しくなかったし、航海技術を教えてくれる人材を招聘して教育してもらわにゃならんかもしれん。
ちなみに、飛行船の旋回は船体後部に横向きに取り付けられている方向転換用の風魔法式推進装置で行われている。空気抵抗は水の抵抗に比べると遥かに小さい。通常の船に使われるような舵ではまともに方向転換をすることが叶わなかったので、まぁこれも苦肉の策というやつだな。
「速度を上げて。推力30%」
「了解」
アイラの指示で推力が増加され、飛行船の速度が上がる。今の所変な音もしないし、問題は無さそうだ。
「大丈夫そうか?」
「今のところは。船内各所に放っている使い魔からの情報でも今の所不審な音や現象などは感知できていない」
今、この船の中には魔道士達によって使役されている小動物――使い魔達が多く放たれていた。今は船を動かすための最低限の人員しか船に乗っていないので、船の各所で起きている以上を察知するのが難しい。そこで、魔術師達の魔法によって操った小鳥やネズミなどを船内に放ち、何か異常がないか見回らせているのだ。
「とりあえず、このまま80%までの出力で動かしてみる」
「そうしてくれ。無事に済むと良いが」
一応通常航行の推力は60%、急ぎでも80%までで運用するつもりである。20%ずつの安全マージンを一応取っているわけだ。そのうち100%での稼働もテストしなければならないが、とりあえず今は八割までで良い。過不足無く通常航行でドラゴニス山岳王国まで飛んでくれれば良いのだ。
試作型飛行船は暫くメリネスブルグの周りを右回り、左回りでぐるぐると回った後、無事王城の裏手に用意された臨時の発着場――元は研究開発部の実験場である――に着陸したのであった。
☆★☆
試験飛行に成功したら喜ぶ間もなく艤装と内装の仕上げである。今、試作型飛行船は本当に短時間飛ぶのがやっとの状態で、このままでは戦闘も出来ないし航海――航空? とりあえず長距離移動もできない。武装も施されていないし、乗員が生活するための設備も一切無いからな。
幸い、この試作型飛行船には燃料を積む必要はないので、意外とスペースは大きく取れる。荷物の大半は俺がインベントリに入れていく予定だが、必要最低限の物資は船倉に運び込んでおく必要がある。何らかのトラブルで俺がインベントリを使えなくなったりしたら、全員餓死するしかなくなるからな。水は魔道士が魔法でなんとか出来ても、メシだけは如何ともし難い。
あと、水回りやトイレ周り、ゴミの廃棄の問題もある。海を往く船なら海に垂れ流してしまえば良いのだろうが、空を往くこの船ではそうするわけにも行かない。いや、まぁ下が誰も住んでいない原生林とか原野とかであればそれでも構わないかも知れないが、街道沿いを飛ぶならそうもいかないからな。汚物を垂れ流しながら飛んでいく飛行船とか嫌すぎるし、夢も希望もねぇ。
「そうなると、航続距離はそんなに長くはないのか?」
次々と荷物が運び込まれ、艤装と内装を施されていく試作型飛行船を見ながらシルフィが首を傾げる。
「いいや、食料を積んで水を出せる魔法使いが確保できるなら食料が尽きるまでは無補給で飛び続けられる筈だぞ。ただ、生活で出る廃棄物は空から投棄するしなくなるが」
「戦場ではそれも武器になりそうですね」
「攻撃の届かない空から爆弾と汚物を撒き散らす飛行船かぁ……やべぇなぁ」
一隻程度では小さな街を脅かすことしかできないだろうが、これが十隻、二十隻と運用されるようになるとメリネスブルグのような都市でも楽に破壊されてしまうだろう。都市を攻撃するなら榴弾ではなく焼夷弾――もっと単純に可燃性の油を詰めた油壺でも良いわけだしな。
「今日飛んでいたくらいの高さならまだ届く攻撃もあるだろうが、もっと高度は上げられるんだろう?」
「うーん、そうだな。風魔法障壁を張っていれば空気や気圧の問題もあまりないようだし、飛ぼうと思えば今日飛んでた高さの三十倍から五十倍くらいの高さまで飛べると思うぞ。というか、それくらい飛べないと山とか超えられないだろ?」
地上3千メートルから5千メートルくらいまでは余裕の筈だ。一万メートル以上ともなるとどうなるかわからんが。
「そこまで高く上がると発見するのも難しいだろうな」
「あれだけの大きさがあっても豆粒みたいになりそうですね。音も殆どしないみたいですし、余程注意していないと気づかれないんじゃないですか?」
「そんな高さを飛んでいたら気づかれたところでどうしようもないだろうがな」
「軍事的な観点から離れない?」
「何を言っている。大型船というものはそもそも軍事兵器だろう?」
「そりゃそうだけどさぁ……」
大量の物資を人員を運べる大型船の用途は主に軍事方面だ。少なくともこの世界においては。
無論、交易なども行われているが、この世界には魔物がいる。当然海にもだ。それに対抗できるだけの兵器と戦闘員を用意できるのは国家くらいなので、自然とこの世界の大型船は軍の管轄下に置かれることが大半であるらしい。
「しかし空を飛ぶ船、本当にできちゃいましたね。あれを見れば西方の少国家群も腰を抜かすでしょう」
「ドラゴニス山岳王国にも驚かれるだろうな。少なくとも、我々がドラゴニス山岳王国の格下である侮られることはなくなるだろう」
「そうだと良いな」
一応試作型飛行船には雷撃砲を積んでいるし、俺も乗るわけだから重機関銃を使って対空攻撃をすることもできる。ただ、空戦の歴史はあちらのほうが圧倒的に長い。そう侮って良い相手でもないだろう。
「とりあえず、間に合いそうで何よりだ」
今は寝たい。試験飛行が無事終わってどっと疲れが出てきた。