第362話~騒がしくも幸せな日々~
遅れた上にみじけぇ! ゆるして_(:3」∠)_
さて、ここのところ新たな輸送手段の開発に勤しんだり、エレン達、そして子供達に構ってばかりいるようで、実はそうでもない。いや、そちらに注力していないと言えば嘘になるが、そればかりではないということだ。
では、何をしているのか?
「私達はもっと夫婦の時間というものを取るべきではないだろうか?」
「そうですね、私もそう思います」
「ん、私もそう思う」
「アイラは日中もコースケと一緒に居るだろう?」
「仕事は仕事。夫婦の時間は別」
「えー、ずるくありません?」
右にシルフィ、左にメルティ、膝の上にはアイラという格好で三人の体温を感じながら寛ぐ。これもまた俺の重要な役割である。そんな俺をクッションに埋もれたままのグランデや少し離れたテーブルでチビチビと酒を飲んでいるシュメル達が眺めているが、特に助け舟をだしてくるような様子は無い。まぁ、三人ともじゃれ合っているだけで本気で言い争いをしているわけじゃないからな。
「いっそコースケを半分に分けられないものか……」
「おい怖いことを言うな」
「半分じゃなくて四つくらいに分けられれば良いですよねぇ。執務室と、研究開発部と、聖女様のところろフリー枠で」
「なんじゃ、自分達は専属のをつけて妾達の分だけ共用か?」
「いっそ十分割くらいにできれば良いんじゃないかねェ?」
外野からグランデとシュメルが茶々を入れてくる。冗談でも俺をそんな細切れにするみたいな提案はやめろ。恐ろしいわ。
「うーん、三人くらいまでになら分けられるけど十人は無理」
「できるの!? できても分けるなよ!?」
「二人までならともかく、三人に分けると本能優先になってしまうという話だから、やらない」
本能優先ってなんだよそれ怖い。錬金術か魔法かわからんがおっかないわ。
「分けることが出来ないならコースケに頑張ってもらうしかないな?」
「そうですねー。あ、そうだ。コースケさんが作ったメイド用の服を各種サイズ確保しておいたんですよ」
「ほう? では今日はそれを着てごっこ遊びでもしてみるか? ご主人様?」
そう言ってニヤリと笑いながらシルフィが俺の顎の辺りを指先でくすぐってくる。そんな不遜な態度のメイドが居るか。あ、いや、それはそれでアリかもしれない。メイドと一口に言っても色々なメイドがいる。型に嵌めて物事を考えるのは良くないな、うん。
「サイズが合わないっす」
「妾は着れそうにないんじゃが?」
「規格外なので諦めて下さい」
「「えー」」
メルティの容赦ない言葉にベラとグランデがブーイングをする。うん、鬼族サイズのメイド服はすぐに作れるけど、グランデが着れるようなのはちょっとすぐには難しいな。翼と尻尾、それに手足のごっつい爪がな……下はスカートだから大丈夫だけど、上着は無理だ。
と、そんな感じで和気藹々――うん、概ね和気藹々としているシルフィ達を眺めていると、部屋のドアがノックされた。返事をすると、扉を開けて訪問者が部屋の中へと入ってくる。
「ごきげんよう、皆さん」
「母上」
部屋へと入ってきたのはセラフィータさんとドリアーダさん、それにイフリータとアクアウィルさんまで。シルフィの家族が勢揃いであった。その後ろからはレビエラも入ってくる。
「あら、新しいメイドの服ですか?」
「はい。これを来てコースケさんと遊ぼうかと」
「あらあらあら、それは楽しそうですね」
ニコニコしながらセラフィータさんが各種サイズのメイド服が広げられているテーブルへと近づき、自分に合うサイズのメイド服を物色し始める。
「あの、母上?」
「何かしら?」
「何をするつもりですか?」
「私もコースケさんに遊んで貰おうと思っているだけですよ?」
何を当たり前のことを聞いているのだろう? という顔でそう言うセラフィータさんを前にシルフィが頭を抱える。
「母上、立場というものを……」
「シルフィエル。公式の場ならともかく、私的な場ではそんなことをいちいち気にしてはいけません。それに、それを言うなら貴女は現女王ではないですか。それに比べれば今の私は無位無冠のただの女ですよ? メイドの服を着てコースケさんと楽しく遊ぶことに何の問題があるというのですか?」
「くっ……」
セラフィータさんの正論にシルフィが口を噤む。確かにセラフィータさんは今の新生メリナード王国に於いてこれといった役職や身分を持っているわけではない。いや、女王であるシルフィの母なので、全く何の権威がないというわけではないし、セラフィータさんは独自の人脈を持っていたり、王妃としての経験を持っていたりするのでシルフィとメルティの相談役のような立場だったりするのだが。
「……」
仏頂面のアクアウィルさんがシルフィが抜けて空いた俺の右側の席に荒々しく座る。うん、精一杯荒々しく座ったんだろうけど身体が小さいからあまりそんな感じがしない。
「なんですか?」
「ナンデモナイデス」
様子を窺っていたらギロリと睨まれたのでそう言って目を逸らしておく。そうすると、つい先程までメルティが座っていた左側の席にイフリータが座ってきた。
「あんたも大変ねぇ。気が休まる暇がないんじゃないの?」
「そんなことはないこともないが、それでも幸せならそれで良いかなと思っている」
「あ、そ。ならまぁ良いことなのかもね」
「イフリータも交ざる??」
「考えとくわ。こいつといると退屈しないしね」
アイラの言葉にイフリータがそう返してひらひらと手を振る。考えとくってことはそのうちイフリータも交ざってくるかもしれないってことか? マジで? とイフリータに視線を向けていたらこっちを見るなと言わんばかりにペシペシと頬を叩かれた。ぐぬぅ。
「私は交ざりませんよ」
「あ、はい」
イフリータにペシペシされて反対を向くと、反対側に座っていたアクアウィルさんに絶対零度の視線を向けられた。正面を向いていよう。
「そこまで言うならどちらがコースケにより良い奉仕ができるか勝負だ! 母上!」
「ふふ、お母さんに勝てるかしら?」
いつの間に何がどうなったのか、シルフィがセラフィータさんに宣戦布告をしていた。ちょっと待って目を離してるうちに何があったんだよ。しかもここで着替え始めるんかい。
「痛いっ」
「何見てるんですか、すけべ」
「せめて目を瞑りなさい、目を」
服を脱ぎ始めたシルフィとセラフィータさんを見ていたら左右から手が伸びてきて俺の視界を塞いだ。うん、左から伸びてきた手は良いけど、右から伸びてきたのは塞ぐっていうより目潰しに来てるよね。俺が一体何をしたっていうんだ……!