第361話~できることとできないこと
今日は間に合った( ˘ω˘ )
二時間後。
「いやこれを作るのは無理。無理」
トラックの運転に満足したベラがシュメルに呼ばれて帰っていった後、鍛冶職人さんと彫金師さんが真顔でそう言いながら顔の前で手をパタパタと振った。やっぱ無理か?
「ゴーレム式の旋盤があっても無理。特にこのぼーるべありんぐとかいうのが無理。鋼鉄で真球を作るのも難しいのに、それをいくつも、しかも少しの誤差もなく作るとか無理。気が遠くなる」
「知ってるか? 金属って削り過ぎたら元に戻せないんだぞ?」
鍛冶職人さんと彫金師さんがそう言いながら闇を湛えた瞳を俺に向けてくる。それはうん、確かに手作業じゃ難しいだろうと俺も思うし、正直に言うと俺自身もどうやって作られるものなのかわからんけれども。
「でもこれ凄い。これを使えば馬車の車軸も金属にできそう」
「そうですね。うーん、錬金術でならなんとか作れるかな?」
アイラと錬金術師さんがボールベアリング本体と、分解して取り出した鋼球を手にして検分している。錬金術なら鋼の真球を作れるんだ?
「一つ作るのにいくらかかるのかしら? 興味があるわね」
「おう、来たのか」
いつの間に来たのか、イフリータがそう言いながら鋼球を二つ手に取った。手に取った二つの鋼球をジロジロと眺め回し、なんとか作れるかな、と言った錬金術師さんをジロリと睨む。
「私の見立てだと、コレを一つ複製するのに金貨が数枚吹き飛びそうに思えるけど?」
「だからなんとかって言ったんですよう」
イフリータに睨まれた錬金術師さんがパタパタと両手を振る。なるほど、コストを度外視すればなんとかって話ね。
「現状、コースケ以外にこれを作るのも、運用するのも無理」
「あ、はい」
ですよね。知ってた。
つまりは俺が作って銃士隊で運用している軽機関銃と同じで、俺が作って俺が使う、あるいは俺が面倒を見られる狭い範囲で運用するならなんとかなるが、広く普及させるのは難しいという話だ。
「でも、これは使える」
そう言いながらアイラはボールベアリングを手で回転させる。うん、小さい力でしゅるるるって回って楽しいよね。今度ハンドスピナーでも作ろうかな。
「アイラさん、使えるって言ってもこれは無理ですよ。こんなに大きさの揃った鋼球なんてそんなにたくさん用意するのは……」
「木で作ればいい。その後、木球を魔化すれば鋼までは行かなくとも相当使えるものが作れるはず」
「なるほど、それならなんとかなるかしら」
アイラの案にイフリータが同意する。木の球となると木目とか使う部材によって微妙に誤差がありそうだし、何より心配なことがある。
「いや、それをやるなら熱に強くしなきゃいけないと思うぞ。高速で回転し続けるから木だと摩擦熱で発火とかしかねない」
「今使われている魔化された木製車軸も耐熱仕様になっている。同じ強化方式でいける」
「Oh……なるほど」
確かに馬車の車軸だって常に軸受けと接しながら高速で回転し続けてるもんな。強化してないと摩擦熱で焼け焦げたりするか。
「それじゃあボールベアリングそのものは削った木球を魔化するって方向で作ってみよう。ゴーレムトラックについては……」
「私達にはまだ早い。というか、速度と輸送量だけを考えるならエアボードを発展させたほうが多分優位。ブレーキに対物障壁を使うっていうコースケの案は採用する」
「なるほど。確かに魔力効率と速度で言えばエアボードの方が上かもしれんなぁ」
エアボードは文字通り地面から浮いて移動する。つまり、地面との摩擦が発生しない。スピードが乗れば慣性でかなりの距離を移動出来るのだ。空気抵抗はあるし、重力の影響を受けないわけじゃないから慣性でどこまでも移動できるってわけじゃないけど。
それに、エアボードだと足回りの装置を排除できるから車体の重量的にも優位だし、部品点数もゴーレムトラックに比べてかなり少なくて済むんだよな。
エアボードの主な構成要素は車体となるフレーム、フレームを浮かせるための浮遊装置、推進装置、それらを制御するための操縦装置くらいだからな。無論、この他に座席やカーゴスペース、その他に風魔法障壁の発生装置とか、制動装置としての物理障壁発生装置とかもつくんだけども。
一つ一つの構成要素に含まれる部品点数は非常に少ない。大きさがゴーレムトラックとは違うから単純比較は出来ないが、下手すると半分以下なんじゃないだろうか。部品点数が半分以下ということは、制作にかかる手間もそれ相応に軽減されることになる。
「部品点数的にも優位か。勝ってる部分は頑丈さくらいかもしれん」
「頑丈なのは大事。正直、エアボードは脆い」
「それはそうですねぇ」
アイラの言葉に錬金術師さんが頷く。
エアボードは繊細な乗り物だ。いや、ちゃんと座席は木製の壁で覆われて鉄板で装甲化もされてはいるが、例えばアイラのような魔道士が放つ高威力の魔法やシュメル達のような強靭な膂力を持つ存在の一撃を食らうと一撃で走行不能に陥る可能性がある。
「それはトラックも同じだけどな。足回りを狙われたら止まるぞ」
「エアボードはどこに攻撃を貰っても致命傷だから」
「あまり頑丈にすると速度が落ちますしね」
装甲と速度がトレードオフな関係なのはこの世界でも同様だなぁ。まぁ、クロスボウ然り、ボルトアクションライフル然り、軽機関銃然り、魔銃然り、今はこちらの投射武器の方が威力も射程も上だからな。速度があれば延々と引き撃ちで敵方を撃滅できるので、今は装甲よりも速度というか機動性が重要なんだよな。
「そういや魔銃の量産と配備計画はどうなってるんだ?」
「順調。ゴーレム式の旋盤が役に立ってる。部品ごとに工房も分けているから機密性も保たれている」
「なるほど。まぁいずれどこかから漏れはするだろうけどな……」
新兵器の情報を一切漏らさないようにするのは難しい。現にクロスボウも既に民間に漏れて冒険者に使用され始めているしな。この前は聖王国の暗殺者まで使ってきたし。
「現物が鹵獲されてもそう簡単に模倣は出来ない。銃身の加工がネックになるし、何より私達が作っているコア部品――尾栓にはちょっとした仕掛けがある」
「仕掛け?」
「ん、下手に分解しようとすると爆発するようになっている。解析魔法をかけても同じ」
「なにそれ怖い」
「元々爆発術式を書いているものだから。細工は簡単」
アイラがドヤ顔をする。その横で錬金術師さんもドヤ顔をする。君もグルか。まぁ良いけども……それ、前線で使ってる兵士は知ってるんだろうな? それとも知らないほうがかえって安全なのだろうか……?
「対物理障壁の魔道具化に関しては早速取り掛かってみる。あと、飛行船に関してはピトーレンから船大工を招聘してからになるから、設計に時間がかかる」
「了解」
船の設計というのは適当にできるもんじゃないからなぁ。イカダくらいならまだしも、まともな船となるとな。まぁ、飛行船の設計に海を往く船の知識がどこまで活かせるかはわからんが、全くの門外漢がやるよりはずっとマシだろう。
「それじゃあ船大工というか、船の専門家が来るまでは対物理障壁を利用したブレーキの開発と、陸用の大型輸送手段の開発だな」
「ん、がんばる」
「んじゃうちらはこのぼーるべありんぐの有効な使い途でも考えてみますかねぇ」
「コースケさんの世界でどんなことに使われていたのか教えて下さいよ」
「んじゃうちらは木の球作ってみるかあ」
アイラがふんすと鼻息を荒くし、他の開発部員はボールベアリングの利用方法について考えるようだ。木工職人さんは木の球作りね。
OKOK、俺は俺で知る限りの知識を捻り出してみましょうかね。
最強宇宙船5巻は明日発売! 是非買ってね!!!_(:3」∠)_(直球