第360話~ゴーレム車
最近エンジンかかるのが遅いなぁ……_(:3」∠)_
「むーん」
翌日、俺は私室で唸っていた。最終的に人や物を大量に運べる航空輸送手段を開発しようという目論見は変わらないが、技術的な問題ばかりは如何ともし難い。一朝一夕でどうにかなるものではないだろう。
だが、陸路の大量輸送手段となるとどうか? 無論、問題はある。技術的な問題もあるし、単に労力的な問題もある。だが、俺の頭の中には俺の世界で用いられていた技術の情報があるし、それを基にすればある程度の成果を短期間で出せる可能性はある。この世界にはゴーレム技術もあるしな。蒸気機関や内燃機関に拘らずとも、ゴーレムを動力として使えば自動車や機関車じみたものは比較的簡単に作れることだろう。少なくとも、殆ど何のノウハウもない航空輸送手段よりは。
「まぁ、あくまでも比較的だよなぁ……」
例えば鉄道――牽引するのがどんな車両にしろ――を作ると簡単に言っても、レールの規格化や荷物を運ぶためのコンテナの規格化、運行を調整するための専用組織の立ち上げ、レールの敷設や整備に使う人員の手配、行商人などを始めとする既得権益者との折衝、etcetc……ちょっと考えただけでもこれだけの問題が出てくる。実際に動き始めればもっと多くの問題が立ちはだかるに違いない。
技術的な問題だって勿論ある。例えば鉄道にするとして、高速移動に耐える丈夫な車輪と車軸、それに車軸受けが必要になる。今は魔化された木材などの軽くて丈夫な素材を使ってなんとかしているようだが、高速鉄道を運用するとなれば車軸が折れましたなんてのは非常に危ない。大量の荷物を積んだ列車の車軸が折れてしょっちゅう脱線事故を起こすようでは話にならない。
そうなると金属製の車軸と車輪、それを支える車軸受けが必要になるだろう。つまり、ボールベアリングである。いや、これもなんとか魔法でどうにかならんかな? 摩擦係数を限りなくゼロにする魔法とか無いかな? そんな都合の良いものなんてそうないか。いや、あるかも知れないから聞いてみるか。聞くだけならタダだ。
エアボードを列車の車両として使うことができれば最良なんだけどなぁ。ブレーキの問題がな……ああ、いや待てよ? アイラが作ったあの新型障壁魔法を応用すればどうかな? あれは元はと言えば風魔法の反動を殺す術式から作られた魔法だ。つまり運動エネルギーを殺すか、相殺するような魔法なのだと思う。アレを使えば宙を滑って動くエアボードのブレーキ代わりに使えるかも知れない。飛行船のブレーキとしても使えるかも知れないな。
「なんか色々描いてあるのう」
「変な形っすね。あ、これは馬っぽいっす」
俺が考えを纏めるために色々と書き殴っている紙を横から眺めながら好奇心の強いグランデとベラが何か言っている。その馬っぽいのはエアボードでも列車でもなく、他のものを動力というか牽引車にしようとした結果生まれたゴーレム馬くんです。
結局のところ、馬の限界とは何か? それは馬が生物であるという点である。生物である以上、全速力で走り続けることはできないし、メシも水も要る。当然ながら酷使すれば疲労も溜まるし、場合によっては足が故障したり、死んでしまったりすることもある。機械や魔道具も故障はするが、故障箇所を直すなり交換なりしてやればまた万全の状態で動けるようになるが、生物である馬はそうもいかない。馬というのは長距離の荷物輸送にはまったくもって向かない輸送手段なのだ。
ああいや、勿論数十kmくらいまでなら大変に有効なのだろうけど、数百kmともなってくるとこれがなかなかに難しい。速度にも限界がある。遥かに速い速度で何十、何百kmと走り続けられる車両にはどうしても勝てない。少なくとも大量輸送手段としては。
だが馬のゴーレムであればどうか? 疲れも故障も知らぬ上に餌も水も必要とせず、魔晶石や魔力結晶で全力で動き続けることが出来る馬ならイケるのでは?
それならゴーレムエンジンでも搭載した魔道車両を作ったほうが良いですね。はい。そもそも四足じゃないと走ることができない不整地でなく、整備された道なり敷設された鉄道なりを使う予定なんだから。
「うーん、エアボード用の走行レーンが付いた街道整備を進めるのが一番か?」
民間用のエアボードが出回るようになれば、国が主導せんでも勝手に商人達が国内を飛び回るような気もせんでもない。問題は他国に流れないかなんだよな……民間用のエアボード販売にはやっぱりもう少し慎重になったほうが良い気がする。そう考えるとやはり国が主導で動かす大量輸送手段が要るか。
「うーん……よし!」
「んお? どうしたのじゃ?」
床に寝っ転がって俺が色々と書き殴った紙を眺めていたグランデが俺を見上げてそう言った。うん、寛いでるのは良いけど床に寝っ転がるのはやめような。みんな靴履いたまま出入りしてる場所なんだから。ああ、まぁグランデにしてみればアレか。元々が自分で掘った地面の穴で寝起きするんだものな。室内の床くらいなんでもないのか。
「悩むのはやめた。下手の考え休むに似たりと言うしな」
「つまり?」
「実際に作ってしまおうかと」
俺の能力を駆使すればボールベアリングだってゴーレムエンジンだって作り放題だ。実際に動く見本を作って、それからアイラ達に改良してもらえば良いんだよ。
☆★☆
「というわけで出来上がったのがこちらになります」
「「「えぇ……」」」
実験場に並んだ車両を目にした研究開発部の面々が困惑の声を上げる。
実際のところ、俺の能力を駆使すればなんとか現物は作れてしまうんだよな。流石に飛行船は俺もイメージが固まらないからアイテムクリエイションで作り出すのは無理だったが、地上を走るゴーレムエンジン式の車両ならまぁなんとかなる。概ねの仕組みとデザインさえ想像できれば、あとは素材を用意してクラフトメニューに任せるだけだ。
「まずこの辺がゴーレムエンジンを搭載した輸送車両だな。俺のクラフト能力を使ってでっち上げた機体だから、実は俺自身も全容を把握していないぞ」
「なにそれこわい」
「まぁその辺はアレだから、いつものことだから。これでもそれなりに苦労はしたんだぞ」
ゴーレムエンジン式の輸送車両を作るのにはいくつかの皇帝が必要だった。まずゴーレムエンジンを作り、それからタイヤを作った。ここまでは簡単だったな。エンジンの方は基本的にゴーレムを作るのと同じだったし、タイヤに関しても金属ホイールとスライム素材で作った擬似的なゴムでなんとかなった。問題は車両のシャーシ部分だった。いや、シャーシという概念に辿り着くまでが大変だった。
俺の言うシャーシとは何か? これは外装以外の車両が走るための要素をすべて含んだ基本構造のことだ。ガワだけ取っ払った車両そのものと言っても良いかもしれない。基本骨格であるフレーム、走行時の振動を和らげるサスペンション、車両の進行方向を操作するステアリング、スピードを落とし、停車するのに必要なブレーキシステム、それと最初に作ったエンジンと、それをタイヤに伝える動力伝達装置と、走行装置であるタイヤ。これら全てを含めたシャーシという基本構造というか概念に辿り着くまでが非常に大変だった。
タイヤとエンジンを作ったは良いが、それを材料にゴーレム車、ゴーレム車と念じても一向にアイテムクリエイションが働かない。これはどうしたものかと記憶を掘り起こしてみたのだが、そう言えば車両をクラフトできるタイプのゲームだとフレームだとかシャーシだとかそんなものを作ってエンジンと組み合わせていた気がする。
そこからが俺の戦いの始まりだった。漠然とシャーシと念じてもクラフトメニューにゴーレム車のシャーシなんてアイテムは表示されない。それじゃあフレームならどうだと念じてみたらフレームはできた。実際に作ってみたら本当にただの骨組みである。これにエンジンとタイヤをつけても動くとは思えない。実際、クラフトメニューには反応がない。
ええと、何が足りないんだ? と考え考え、まずタイヤをこのフレームにくっつけないとダメだよな? ええとそうなるとサスペンションが要るのか? おお出来た。でもまだ足りんな? ええと他にはハンドルが要るよな。ブレーキも。なるほど、ステアリングとブレーキシステムね。
と言った感じで試行錯誤とある種のお祈りみたいな作業を繰り返してやっとこさ作ったのである。銃と同じでさほど細部までイメージできなくてもある程度は補完してくれたのは助かったが、今まで一番複雑なアイテムクリエイションだったように思う。一度わかってしまえばサイズ別に色々と作るのは難しくなかったけどな。
「これ、前にコースケが話してくれたやつ?」
「そうだな、エアボードを初めて作った頃に話した気がする」
「なるほど。つよそう」
「強そうとはまた予想外の反応が出てきたな」
確かにでかいし、基本的に金属の塊である。まだ走らせていないから速度に関してはわからないが、恐らくエアボードと同じくらいの速度は出るだろう。確かにこれで突っ込めば多少の矢玉や魔法攻撃は物ともせずに敵集団を蹂躙できるかも知れない。まぁ、一回突っ込んだらそれだけで故障しそうだけど。
「とりあえず、戦いに使うものじゃないから。装甲を増加してタイヤとかステアリングに轢いたものを巻き込まないようにすればいけるかも知れないけど」
「ん、わかってる。これが陸の大量輸送手段?」
「そうだ。俺の世界で使われていたものの一部をこっちの技術――ゴーレムエンジンで再現したものだな」
「なるほど。確かにこれは沢山荷物を運べそう」
4トントラックサイズのゴーレム車を見上げながらアイラが頷く。ちなみに用意した車両は三両で、中型トラックとも呼ばれる4トン車、小型トラックに分類される2トン車、それにいわゆる軽トラサイズのものだ。
「これは随分小さいですね」
「その分小回りが効くから、街中の配送なんかに使えると思うぞ。多分馬車よりも楽だろ」
「なるほど」
ドワーフの鍛冶職人が頷きながら軽トラサイズのゴーレム車の周りをウロウロする。気に入ったのだろうか。
「この一番大きいのは街中じゃ走らせられない。街道でも厳しいと思う」
「横幅もでかいからなぁ。そっちの小型トラックサイズの方が使いやすいかもな」
この世界の街道の広さは馬車を基準にしたものだから、中型トラックサイズのゴーレム車でもちょっとデカい。エアボードもあまり大型化しないように気を遣ったからな。
「実際に走らせてみようか」
「ん、そうする」
「はいはいはい! あたしが運転するっす!」
「小さいのは私が運転してみたいです」
ベラや先ほど軽トラサイズのを気にしていたドワーフの鍛冶職人さんが立候補してくれたので、運転方法を確認しながら走らせてみることになった。
本当は教えてやりたいけど、俺もトラックは運転したことがないからな。軽トラは運転したことあるけど。というか、俺も作ってからまだ試運転すらしてないからなんもわからんのだ。自動車の運転経験が役に立つと良いんだが。
Stellarisの新DLCに手を出し始めました( ˘ω˘ )