第357話~新規開発~
荷物がいつ来るか、いつ来るかとソワソワしていると集中できませんね( ‘ᾥ’ )
ゲルダの件から数日。
「ではビャクさんとシェンさんで商人組合に連絡をお願いしますねぇ。ルナさんとラナさんは冒険者ギルドに向かってください。メメさんは私と一緒にコースケ様の護衛でぇ、ミトさんとフェイさん、あとオリビアさんは通常シフトです」
ゲルダは獣人メイド達を統括する役職を与えられていた。俺には話し合いの内容は伝えられなかったが、そういう形に落ち着いたようである。
「わかりました」
「はい」
「「わかりました」」
「はーい」
狐獣人のビャクと馬獣人のシェン、そして犬獣人のルナとラナ、兎獣人のメメが返事をする。
それに対し、通常シフト――城のメイドとしての通常業務――を言い渡された面々は。
「りょ」
「はい」
「わかりました」
三人とも表面上は不満はなさそうである。しかし、ミトの返事があまりに適当だったのがお気に召さなかったのか、ゲルダがニコリと笑みを向けた。
「承知いたしました」
耳を伏せ、尻尾をピンと伸ばして言い直したミトを見てゲルダが満足そうに頷く。
「コースケ様の目となり、耳となり、そして盾となりましょう。それが私達のお役目です」
「「「はい」」」
「では、今日も一日よろしくお願いします」
獣人メイド達の朝礼を見届けながら、朝礼前にゲルダが淹れてくれたモーニングティーを口に運ぶ。
俺が座っているフカフカのソファにはグランデが一緒に座って……というか寝そべっており、俺の太ももにほっぺたを載せてすやすやと眠っていた。よだれが俺のズボンに垂れているが、見なかったことにする。
「今日は何をするかなー」
タスクはそれなりに積み上がっている。例えばレオナール卿に依頼された武器作成とか、アクアウィルさんに依頼された新型天体望遠鏡の作成とか。他にも缶詰や即席麺関連の様子もチェックしたいし、現場で何か必要な道具や改良の要望などがあるならそれを汲み上げて形にしたい。それにドラゴニス山岳王国の件もそろそろ対処しないとなぁ。俺とグランデの来訪を待ちわびているって話だし。まぁ、そうホイホイと他国に行ける立場でもない。メルティには話してあるから、然るべきタイミングはメルティが判断するか。
他には、えーと他にはー……などと考えながら、インベントリを開いて中身を確認する。素材に関しては問題ない。開拓村を作る際に石、砂、粘土、鉱石、木などの素材は山程採ったからな。有機系の素材も開拓時にシュメル達が狩り集めた魔物の素材がたんまりある。俺は魔物素材を手に入れる、シュメル達は宝石の原石や現金という形でボーナスを貰う。実にWin-Winな取引だったな。
「なんじゃ、まぁたしごとのことをかんがえとるのか」
「グランデ、よだれよだれ」
「ん、おぉ。すまぬすまぬ」
目を覚まして俺に指摘されたグランデがズボンに垂らしたよだれを手でゴシゴシとやっている。うん、別にそれは綺麗にはならないかな。まぁ良いけど。
「お主のう、働きすぎじゃ働きすぎ。そんなに働いていたら早死にするぞ。お主は妾の番なんじゃから、もっと泰然と構えておれ」
「そう言われてもなぁ。何もしないでボーッとしてるってのもなんか落ち着かないんだよ」
「仕方のないやつじゃな。ではこうして妾が重石になってやろう」
グランデがスリスリと俺の太ももに頬を擦りつけてくる。あー、はいはい。グランデは可愛いなぁ。少し癖の強いグランデの金髪をわしゃわしゃと撫でてやる。
「重石は良いんだけど、子供達の顔は見に行きたいなぁ」
「それは良いのう。妾も子供達を見に行きたいぞ」
「そういうわけで、手配をよろしく。エリーゼとコンラッドの顔を見たら、ハーピィさんのとこにも行くから」
「承知致しましたぁ」
ゲルダが目配せをすると、一緒にいた兎獣人のメメが部屋から出て行く。この前聖王国の暗殺者どもに襲われてからというもの、外に出る時にはしっかりと護衛がつくようになった。少し前まで徒歩でその辺をうろついていたりしたのに、今は立派な王族用馬車に物々しい護衛付きだ。これが王族になるってことなんだなぁ。
☆★☆
エレンとアマーリエの所に寄って赤ちゃん達の様子を見て、その後はハーピィさんの住居に行ってハーピィちゃん達の様子を見る。ハーピィちゃん達の妹と弟が産まれたという話をすると、全員大興奮だった。皆を王城に連れて行ってエリーゼとコンラッドと会わせてやれないか相談してみよう。
そうして昼過ぎに城に帰ってくると、俺の部屋でアイラが待っていた。
「ただいま、アイラ」
「ん、おかえり。ハーピィ達の家?」
「ああ、ハーピィちゃん達の様子を見に行ってたんだ。アイラは何かあったのか?」
基本、日中にアイラが俺の部屋を訪れることは殆どない。日中のアイラは宮廷魔道士として、そして研究開発部の長として忙しく働いているし、暇を見つければ何かと研究をしているからな。
「ん、この前話してた空を飛ぶ乗り物の話をしたかった」
「ああ、アレかぁ」
この前、アクアウィルさんの部屋で天体観測をした時にそんな話をしたんだよな。メリナード王国軍はエアボードの開発によって他の追随を許さない機動力を得たが、アイラは貪欲にもその更に上を目指そうというのだろう。
「何か具体案があるような言い方だった」
「無いことも無いなぁ。まぁ、方向性としては高速移動よりも大量輸送を考えているんだが」
「大量輸送?」
アイラが首を傾げる。
「空を飛ぶんだから地形を無視して進める。だから当然速い。風魔法式推進装置を仕えばスピードもかなり出ると思う。でもそれならエアボードで良いだろう?」
「ん、まぁそう。確かに、考えてれみればエアボードはあまり輸送に向かない」
「街道を整備して大型のエアボードをばんばん走らせるようになればまた違うと思うけどな。まぁ、エアボードの場合はそこまでしっかりした道でなくてもいいけど」
エアボードも地面から浮いて走行するので、路面状況が悪くとも機動性はそんなに変わらない。だが、街道沿いを走る必要はある。街道と言ってもすぐ横は深い森だったりする場所もあるので、常に路肩を高速で爆走できるわけでもない。また、エアボードでもっと大量の荷物を運ぶためには大型の輸送用エアボードを作る必要もあるだろう。やはり路肩を走るとしても、馬車を基準に作られた街道では少々狭かろう。そんな街道を整備するとなると、金も時間もかかる。
「そこで飛行船とか飛空艇とか……まぁ名前は何でもいいけど、空を飛ぶ船でも作ったらどうかと思うんだ」
「空を飛ぶ船」
アイラの目が大きく見開かれる。どうやら彼女の興味を大いに惹いたらしい。
「推進には風魔法式推進装置を使えば良いとして、問題は浮かす方法なんだよな」
脳裏に浮かぶのは帆の代わりにでかいプロペラをつけた船だが、あれはどうなんだろうな? ゴーレムを使えば実現できなくも無さそうだが、トルクの打ち消しとかあれどうしてんだろ? テールローターとか無いしな。ああ、もしかして何本かある柱ごとに回転方向を変えてトルクを相殺してるのか? なんか難しそうだな。
「うーん……」
現実にもあった飛行船だと、でかい気嚢に軽いガスを入れて浮力を発生させたんだよな。この世界でも所謂軽いガスというやつを大量に用意できるなら実用化できる可能性はある。高効率の推進機があるのだから、浮力を支える補助動力として使うのもアリだろう。
あるいは、思い切って風魔法式推進機だけで空に浮き、飛行するような形式にするのもアリか。安定飛行させるのに工夫が要りそうだが、できなくは無さそうだ。ああ、気球式にする方法もあるのか。風魔法を使えばバーナーを使わなくとも気嚢の中に風を送り込み続ける事ができるのだから、それで浮力を得ることもできるだろう。この場合は気球というよりはある意味帆船ということになるのか? 横向きじゃなくて上向きの帆を船につけて、そこに風を送り続けるわけだ。
「とりあえず、案は色々ある。まずは理論を共有して、皆に意見を聞こうか」
「ん、楽しみ」
グランデが盛り上がる俺とアイラに処置なしとでも言いたげな視線を送っているような気がするが、気にしないでおこう。だって楽しいんだもの、新しい何かを作るのは。